アンラッキー7

清泪(せいな)

火水風氷雷岩草


 文明開化の鐘の声、諸行無常の響きあり。



 ――3月15日、午後2時37分。


めぐみ、状況は?」


 右耳に装着した無線機から上司である女性の声が聞こえる。

 声だけでも緊張を促すような鋭さに、恵は息を飲む。

 装備班がドヤ顔で送り付けてきた高性能な無線機様は、その上司の鋭さをやけにクリアにお送りしてくれる。

 電波が悪くて聞こえづらい、なんて言い訳で話を誤魔化す手段はまったくといって使えない有様だ。

 ありがた迷惑とはこの事だなと、恵は思う。


「こちら、恵。火遊び野郎と絶賛追いかけっこ中!!」


 荒れる呼吸を一息飲み込んで恵は答えた。

 既に15分程度の追いかけっこをしてるのだが、こうなってしまったのは完全に恵の落ち度にあった。


「相手は犯罪者だ。確保の際は厳重な注意が必要であると、事前に伝えていたはずだが?」


「そのお叱り、10分前にも聞かせてもらいましたよ、大黒おおぐろさん」


 繰り返されるお叱りに辟易とする恵。

 そしてその10分前にも恵は、厳重な注意という心構えだけで異能力者に応対しろと言う無茶振りに苛立っていた。

 高性能な無線機はあれど、高性能な捕縛装置みたいなものは無いらしい。

 ドヤるぐらいならそのぐらいは用意して欲しいものだ。

 もしくは、公道で瞬時に使用できるキックスケーターみたいなものでも構わないと荒れる呼吸に恵は思う。


 異能犯罪者。

 異能力。


 煩悩の数だけ叩かれた鐘が鳴り終わった、ある年末。

 年が明けるのもあと僅かと言うタイミングで、全国各地で身体の異常を訴える人々が溢れかえった。

 その鐘の音は、人々に異常を与え、力を授けた。


 超能力。

 サイコキネシス。

 コズミックパワー。


 漫画やアニメ、映画や小説、ゲームなどエンターテインメントの世界では溢れていたスーパーパワーが現実となり人々の手にもたらされた時、呼び名は簡単に定まらなかった。

 異能力、と呼び始めたのはマスコミか、警察か、オフレコ好きな政治家か。


 全員が全員、異能力に目覚めたなら良かったものの、異能力に目覚めたのは1000分の1の確率だった。

 つまり少数派で、取り締まられる側だ。

 法もろくに制定されてない最中、好き勝手やられてたまるかの根性で、異能力犯罪は警察の新たな設立された組織に捕えられることとなった。


 特殊捜査課第七班。


 全国各地で急遽設立されたコードナンバー。


 人員選びも装備も急拵えの、不運な奴らの総称は《アンラッキー7》と揶揄された。


 警察官となって二年目、春まで交番勤務だと言われていた恵もそんな白羽の矢を立てられた一人であった。


「さっさと捕まえろ、恵っ!」


「わかってますよっ!!」


 怒鳴られたのでついつい怒鳴り返してしまい、恵はしまったと自分の失態を反省する。

 最悪だ、と少しばかり落ち込みながらも前を走って逃げている異能犯罪者の背中からは視線を外さなかった。

 とにかく成果を上げることでどうにかしよう。


 ヤケクソ気味に恵の真昼間の追走は続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンラッキー7 清泪(せいな) @seina35

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ