魔法使いの弟子と幸運の数字

葛瀬 秋奈

師匠の好きな数字は1と6

 今朝は雨が降っていた。天気予報を見るためにつけたテレビ番組で芸能人が「ラッキーセブンですね!」と言っていて、師匠は露骨に顔をしかめた。


「7がお嫌いなんですか」

「違う。『ラッキーセブン』という概念が嫌いなだけだ」


 曰く、「ラッキーセブン」という呼称の起源は野球であるという。7回になると投手が疲れて打者が点を取りやすくなるからだとか。


「打者にとってはラッキーでも、打たれる投手にとってはアンラッキーだろう」

「言われてみれば」

「ちなみに英語で『7月』を意味するジュライの由来であるシーザーは非業の死を迎えているし、かのオルレアンの乙女に救われながら彼女を見捨てた王の名は『シャルル7世』だな。これでも幸運の数字などと言えるだろうか」


 さすがにこじつけではないかと思ったが黙って先を促す。


「フランス革命のバスティーユ襲撃は『7月14日』、アメリカ独立記念日は『7月4日』だったな。いずれも革命を起こされたり独立されたりした側にとっては不運としか言えまいよ」

「でも、自由を勝ち取った民衆にとってはまさに『ラッキーセブン』なわけですよね。それに世界中見れば事件が起きている日なんて7と関係なくたくさんあるような……」

「その通り。僕が言いたいのは、都合のいいことなんていくらでも言えるってことさ。僕ら魔法使いは常識を疑い続けなきゃいけないからね」


 「ラッキーセブン」を否定するのも単なる逆張りではなく、師匠なりに深い考えがあってのことだったらしい。確かにカバラ数秘術だって「7」の幸運を保証してはいない。


「ところで今の会話で春の七草を使った魔法薬を思いついた。出かける前に庭から採ってきてくれ」

「そこ乗っかるんですか」

「別に7が嫌いなわけじゃないからな」

「雨降ってますけども」

「話してる間に止んだよ」


 しぶしぶと重い腰を上げて外へ出てみると、晴れた空には虹が出ていた。


 (了) 

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