ブッコロー、歌う。トリが来た。

豆ははこ

第1話

「鳥よ…鳥よ…ふふふふん、ふふふ…ふふふ…ふふふふん。」


 ある日のこと。

 配信用動画のネタ準備中のブッコローは歌っていた。

 著作権侵害行為をしない様に気を付けて。

 何故自宅なのに? って。

 それはね、たいへんだからですよ。常日頃から注意していなかった為に本番でつい、歌ってしまったら……? しかも、生配信だったりしたら……? ね、気を付けないと!


 著作権侵害行為、ダメ。配信者としても、社会人としても。規則は守るよ!

 YouTuber兼書店員だからね、ブッコローは。


 今日は同僚の文房具王になり損ねた女からおすすめのスティックのりももらったし。

 これ、使い心地と容器のカラーリングが最高らしい。カラーリング……。ブッコローの方が素敵な色彩だと思ったけど、口には出さなかったよ。何しろ無料で差し上げます! だったから。無料よ、無料!

 なんか、5本買うつもりが50本買っちゃったらしい。

「誤差の範囲内! セーフ!」だって。

 セーフ、なのかしら? ねえ?

 まあ、ブッコローには関係ないない!


 そうそう、のり繋がりで帰り道、コンビニでのり塩味のポテトチップスとノリノリ! という見出しの雑誌を買って帰って来たんだよ! ネタ作りを終えたら堪能するんだ!


 ブッコローは攻めた内容で語る配信者だけど、生活は安定したいタイプ。

 本当は社会保険にも入りたい。老後も気にする。有隣堂書店の偉い方、鳥は何故社会保険に入れないの? 教えてほしいな、偉い方。


「鳥よ…鳥よ…ふふふふん」

 もう一度歌っていたら、何と。


 トリよートリよートリがーウターう。


 なんと!……誰?

 ギリギリな返しをするのは!


 まさか、文房具王になり損ねた女かいな?


「……トリですよ?」


「誰よあんた!……トリ?……あ、確かに」


 トリだ。確か、小説投稿サイト『カクヨム』のキャラクター。

 ぬいぐるみが欲しい! とか、かわいい!とか読者さんと投稿者さんから頻繁に言われてるのにシールとかのキャラクターグッズ、市販されていないんだよね。

 ……でも、待てよ? このトリさん、鳥だから話さないのでは? この間配信共演でお目にかかった時も……。

 え、お前もミミズクだろうって? 本末転倒! ブッコローは良いのですよ! そうかあ、夢だ。夢。


 ……だが、しかし。感じる、感じるぞ!儲けの気配を! めちゃくちゃバズるネタの予感! 夢だからトリさんへの時給も発生しない! ラッキー!

 

「ねえ、トリさん? ブッコローと組んで経済回さない?」

「え、ブックローン? トリは鳥だからローンは組めないよ?」

「違う、ブッ・コ・ロー!」

 ブックローンって何よ? 書籍代の前借りかい!


「……分かった! !」

 え、その発音なの? 発音が違うと、なんかこう……、不穏な……。まあいいや。夢だし。


 ところでトリさん、あなたとてもかわいいんだけど、手元に光るもの、それなあに?


「……写植とハサミ。切って貼るの。」

 しゃしょく? 貼るの? 今どき?


「うん。同人誌の。コピー本に誤字があったの」

 同人誌! でもコピー本なら、またコピーすれば良くない? コピー機の紙の質が良いって噂のコンビニチェーン、すぐそこよ?

「ううん、もう手折で50部、折済。ステープラーで止めて、かわいいマステも張って、お釣りの小銭も用意済。だからひたすら写植貼り」


 ……。

 なんかこう、昭和から平成初期の同人文化の香りがしますなあ。ホチキスをステープラーて呼ぶのは、今どきな感じだけど。あと、ビニールテープじゃなくてマステなのね。

 ん? コピー本も50部。今日は50に縁があるのかいな?

 ……なんて事を考えていたら。


「あ、それ。見付けた!」

 羽ばたくトリ。……飛行? 飛翔? するの?


 ……は、いけない! 儲けの気配が飛んでいってしまう! 覚めるな夢! 目覚めるな我が身よ!


「トリでした! 写植貼りに良いもの、あった!」


「待ってえ! 儲けの気配! 豊かな老後!」


「……ゆたかな……」

 

 ああ、目を覚ますとは、ブッコロー。


 枕にしていたのはコンビニで買った雑誌。

 『ノリノリ!』という特集タイトル。


「ノリノリ……トリトリ? 謎かけにしてもねえ? 夢ネタに出来るかしら……あ」


 見付けた! 背表紙にはカクヨムの広告。……と、トリ。

 その手には……。


「……文房具女王になりそこねた人が勧めてたスティックのり! ……て、ブッコローがもらったやつじゃん!」

 もう一度表紙を見たら、またいたよ、トリ。


 巻末綴じ込み! 『カクヨム』って何?

 カクヨム発の書籍化、アニメ化作品の解説らしい。綴じ込みの表紙にもトリがいた。


「あ、あ……」

 ブッコローは見逃さなかった。


 マステの柄っぽい、小さなトリ達に囲まれた

『カクヨム』って何? の太い文字の中。


『カクヨム』の『ク』だけ写植がずれていることを。


 どうやら誤字修正は上手くいったらしい。


 ……良かったね、トリよ、トリよ、ふふふふん……。


 ふふん、ふふん、トリがぁ……ウタ……。


 え、雑誌の中からの切り返し?

 ……なかなかやるな、トリよ!


 もしかしたら、夢の続きかしら?


 俺達の戦いはまだ始まったばかりだ、って? 違う違う、もうのり塩味のポテトチップス食べて、お風呂入って寝るよ! だって、ネタ作り出来たから! 夢オチ、でこのネタ使うよ!


 大丈夫かって? 大丈夫! 文房具王になり損ねた女だって、有隣堂で扱っていない文房具の素晴らしさを力説してたんだから。ブッコローとトリは鳥だから、多分大丈夫! ちゃんと夢オチなんですけどね、って注釈付けとくから!


 ……という訳で、はい、解散!




 




 




 




















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