第4話 魔王を倒して世界一のモテ男になります
ドアの外には、にこやかだが威厳のある、初老の男が立っていた。そのうしろには、護衛と思われる何人もの兵士が控えている。
リチャードの声にジーナも立ち上がり、戸口に駆け寄る。リチャードは恐る恐る、
「大臣様が、どのようなご用件で・・・」
と聞いた。
「まあ、そう固くならずに」
大臣は笑顔で夫婦をなだめた。そして、ゆっくりと話し始めた。
「実はですね、そちらのアズナ殿に用がありまして」
「アズナに!?」
リチャードは驚き、思わず聞き返した。
「アズナが何を?まさか、宮廷の女性に手を出したとか?」
「あぁ、何てことをしてくれたんだい!」
リチャードとジーナが考えを巡らして、悲観し始めた。
「アズナ、お前どう責任とるんだ!?」
「俺、知らないよ」
興奮したリチャードの詰問にアズナは憮然と答える。
「じゃあ、なんで大臣様が直々にお見えになったんだい?」
ジーナも涙ぐんでアズナに詰め寄る。
「落ち着いてくだされ」
大臣は夫婦を再び鎮め、話しを続けた。
「おふたりとも、森にある剣のことはご存知かな?」
夫婦は落ち着きを取り戻し、大臣の質問にうなずく。
「あの剣は、選ばれし勇者にしか抜くことができないのです。その剣を、なんとそちらのアズナ殿が抜いたのです」
大臣の言葉に、その場の一同が静まり返り、アズナを見た。
しばしの沈黙のあと、リチャードが開口一番に、
「こいつが勇者!?まさか・・・」
と笑いだした。ジーナも相づちを打つ。
「本当です!」
大臣はぴしゃりと強く答えた。
「アズナ殿は剣に選ばれた勇者なのです。王がアズナ殿にお目にかかりたく、こうしてお呼びに参りました」
家族全員が驚いた様子でアズナを取り囲み、
「お前、本当なのか?」
「この子が、この子が勇者だなんて・・・」
「嘘でしょ!?こんなスケベが!」
「兄ちゃん、魔王じゃなくて勇者だったんだね!」
と口ぐちにまくし立てる。
当のアズナはというと、
「あぁ、そんなことあったっけ」
と、無関心に答える。
「アズナお前、これはとんでもないことなんだぞ!」
またもや興奮してきた家族一同を察して、大臣は口を挟む。
「お父様、お気持ちはわかります。城の者も皆、大騒ぎでしたから」
ひと呼吸ついた後、大臣は続ける。
「さあアズナ殿、城へ参りましょう。ところで、剣はどちらかな?」
大臣の質問に、
「あぁ、剣なら俺の部屋にあるよ、あれを売って今日のナンパの軍資金にしようと思って」
と何気なく答える。
「なんと、あの剣を売る!?」
さすがの大臣も呆気にとられて絶句した。気を取り直して、
「なりませぬ!あれは魔王討伐の切り札。あなたにしか扱えない代物ですぞ」
とたしなめる。
「なんだ、売れないのか」
アズナはがっかりして、今夜の計画を練り直し始めた。
一同はあまりのことに言葉が出ない。
大臣は呆れながらも、ようやく言葉を継いだ。
「まぁ、ともかく、剣をお持ちになって、私とともに城へ参りましょう」
「城に行くのか、しまった、俺のタキシードはどこだ!?」
「いやだわ、こんなことなら美容室に行っとけばよかったわ、ドレス、ドレスと」
夫婦が騒ぎ始めたのを見て、大臣は疲れ気味に告げた。
「いえ、来ていただくのはアズナ殿だけです」
夫婦ははっとして、照れ笑いをする。そしてアズナに
「何してんだ、早く支度をしろ!」
とせき立てる。
「いやだよ、俺、今からナンパに行くんだもん」
「何考えてんだお前は!お城で王様がお待ちなんだぞ!」
「だってナンパのほうが楽しいもん」
そんな親子のやり取りに、大臣も多少はじれったく思い、
「アズナ殿、城にも女の子はたくさんいますぞ」
と伝えたい。
「本当!?」
アズナは突然立ち上がり、目を輝かせて大臣に詰め寄る。
「それに、勇者として名を上げたら、世界中の女性があなたを放っておかないでしょう」
大臣の意外な言葉に、一同は呆然としたが、アズナは体の奥から力がみなぎるようだった。
「大臣様!俺、勇者になります!魔王を倒して、世界中の女の子にもてます!」
アズナの変わりように大臣も圧倒されたが、目的は果たせたので、ほっとした様子でうなずいた。
「父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃん、トム、俺は勇者になって世界一のモテ男になってくるよ!」
家族に決意を表明して、意気揚々と城へ向かうアズナだった。
歩いてたら伝説の剣を拾ったので勇者になったけど、面倒だからやりたくない マーブル @marblep
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