死に至らしめる七つの罪
藤瀬京祥
死に至らしめる七つの罪
「七つの大罪ってあるじゃん」
病院のベッドに横たわり、天井を見上げる俺に友人の春馬が尋ねてくる。
それがあまりに唐突すぎて、俺はすぐにはなにも答えられなかった。
「え……あの貪欲とか?」
「お前が言いたいのは、たぶん貪食な」
もちろん俺だって七つの大罪って言葉くらいは知っている。
でも春馬の質問が唐突だったことと、まだ頭がぼんやりしていてすぐには思い浮かばなかった。
「貪食、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢、色欲」
ありがとうございます……っていうか、そっちから言い出したんだけど?
スラスラいえて当然じゃね?
そもそもそれ、今の俺の状況とどんな関係が?
俺が暴走車に吹っ飛ばされて病院に運び込まれたことと関係ある?
矢継ぎ早に疑問符を並べる俺に、春馬は 「いや、ちょっとさ」 と笑う。
「七つの大罪ってさ、七つの罪源が正しい訳だったっけ?
んで七つの死に至る罪って意味で、人を死に至らしめる原因になり得る人の欲みたいな?」
……ごめん、ちょっと意味がわからない。
いや、言ってる意味はわかるんだけど、そんなことをここで話し始める意味がわからない。
さっきも訊いたけど、それ、俺が暴走車に吹っ飛ばされて、救急車で病院に運び込まれたこととなんの関係が?
「七つの罪源は逆の意味があって、暴食は節制」
「俺、無駄遣いしねぇよ」
特に大食いってわけでもないと思う……と付け加える俺に、春馬はまるで外国人みたいなオーバーリアクションをとりながら、やっぱり外国人みたいに 「OK、OK」とか言いやがる。
続ける春馬の話によると強欲は慈善、あるいは寛容だが、俺はどっちもアウトらしい。
つまり何? 俺の心が狭いと?
「憤怒は忍耐。
意外とお前、ないよな」
そんなことはない! ……と力強く否定したが、春馬は華麗にスルーして話を続ける。
「怠惰は勤勉」
これも俺はアウトらしいが、成績はそんなに悪くない……はず。
得手不得手があるからちょーっとばらつきはあるけれど、総合的には上の中くらいじゃね?
それじゃ駄目なわけ?
「嫉妬は感謝、人徳」
これはない
そりゃなにかしてもあったら 「ありがとう」 くらいは言うけれど、日々の出来事に感謝とか、両親に日頃の感謝を込めてなにかするとか、そういうの全然記憶にないし。
やったことがないから記憶にないのは当然だけど、それを誤魔化そうとするほど落ちぶれてはいないつもりです。
そのおかげで六つ目の 傲慢 → 謙虚 をクリアできたのはいいけれど、これまでが4対2でアウトらしい。
「アウトって……」
「さて運命のラスト、色欲は純潔。
お前、童貞?」
春馬の質問攻めで少し調子を上げてきた脳みそが、この質問で一瞬にして真っ白に戻ってしまい、俺は 「は?」 と返すのが精一杯だけど、春馬は気にせず続ける。
そもそも俺が童貞かどうかなんて、春馬になんの関係が?
童貞捨てるってそんな大罪っ?
いや、マジで意味わかんないんだけど?
しかも春馬の奴、これで4対3になって 「ギリセーフだったんじゃね?」 とかさらに意味不明なことを言い出す。
確か七つの大罪って、身を滅ぼす人間の欲のことだろ?
え? なに?
つまり俺は童貞だったおかげで、事故には遭ったけれど死には至らなかったってこと?
いや、ちょっと待って。
俺、童貞かどうか答えてないけど?
そこは俺の尊厳のため黙秘させてもらいたいんだけど?
しかも童貞が生死のラインを決めるって、なんかおかしくね?
そんな貴重品だっけ?
とりあえず明日、学校で余計なことを言うのはやめてくれ!
いや、退院したら言い触らしていいってわけでもないけど、とりあえず入院中に言い触らすのはやめてくれ。
ってか俺、童貞捨てたら次はヤバイッてこと?
だって捨てたら次は5対2でアウトになるからさ。
なに、この死亡フラグっぽいアンラッキーセブン。
うん、今後は七つの大罪じゃなくてアンラッキーセブンと呼ぼう。
これは言い触らしてくれていいぞ。
とりあえず俺は、アウトだった4つのどれかを改善する。
改善できるまで童貞は捨てられないことになるけれど、そもそも俺、彼女いないし。
出来る予定も気配もないから別にいいけどさ……。
死に至らしめる七つの罪 藤瀬京祥 @syo-getu
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