第2話 最終前線部隊AtoZ
対エンドデスアース最終前線部隊AtoZ。前線にして最終……彼ら無くしては明日は来ない。前線と名が付いていても、そこが最後の壁なのだ。
AtoZの最高司令官、東堂一郎はモニターに映るエンドデスアースを凝視した。
地球最後の生物……この世紀30世紀を生き残れるかどうかはこの怪獣との戦いにかかっていた。
東堂は幼き頃から今の状況を予感していた。
実しやかに囁かれる地球の滅亡……預言者や、未来を見てきたかのように説得力のあるSF……。
いつか、いつか自分は何か巨大で絶対的な……命を賭してでも戦わなくてはいけない何かと対峙する……そんな予感をずっと抱いていたのだ。
そして、時は来た。
エンドデスアースの発見後、直ちに特殊部隊、自衛隊、ありとあらゆる兵器がかの怪獣討伐に投入された。が、そんなものでは適わなかった。当然だ、怪獣にはそれ相応に対処しなくてはいけない、と東堂は立ち上がった。
最初は相手にされなかった東堂も、その知識量、その為だけに鍛え上げられた特殊な筋力……ただ、怪獣と対峙するだけの為に東堂は生きてきたのだ。
エンドデスアースとの数々の戦いを経て、対エンドデスアース最終前線部隊AtoZの設立……そして藤堂はその最高司令官にまで上りつめた。
「やっと……お前と真っ向から対立出来る……」
東堂は震えた。かの怪獣が現れてからずっと夢にまで見ていた……奴と真に向き合えるのは自分しかいないと。
エンドデスアース、お前の最後は俺が看取るのだと、そう東堂は心に誓って――
「砲撃開始、各自発砲はじ――」
「おいコラーーー! ちょっと待て、待て待て!」
副司令官が開始合図を送ろうとしたので、東堂は慌ててアナウンスボタンをオフにした。
「何でお前が勝手に指令送ってんの……? 最高司令官自分ですが……?」
「え? だって、その、司令官がモニター見たまま固まっているから我々が自発的に動くの待っているのかと思って……」
「俺達も何回か指令の事呼んだんですけど……」
「勝手に始めるんじゃない! お前達はあの怪獣の恐ろしさを分かっていない」
東堂はモニターを振り返る。アナウンスが既に流れ砲撃しに飛んで行ってしまった飛行部隊、彼らは攻撃を繰り出す前にエンドデスアースの破壊光線によって消し炭になってしまう。
「なっ?! 何故攻撃が読まれているんだ!!」
「だから言っただろう。エンドデスアースを甘く見すぎだと……お前らは何も分かっていない」
「し……失礼しました」
動かぬ司令官に疑問と疑念を抱いていた隊員達も、その動きと知量の分からぬ未知の怪獣に恐れを成し、東堂を頼る他には無いのだと思い知らされた。
「それで、隊長はどうお考えで……?」
「……エンドデスアース。かの怪獣は我々の想像を遥かに超えている。私はエンドデスアース……長いのでエンディとしておこう」
「エンディ……」
「エンディが初めて現れた時からずっと観察していた。まずエンディだが――」
東堂はモニターをぐんと下に向けた。エンドデスアースの破壊光線によって破壊された町並みの瓦礫が映る。
人々は地下シェルターに非難した後なので足元に緊急保護が必要な救助者は居ない。それが救いであるが、隊員達は何故その足もとに東堂隊長が注目しているのか分からなかった。
「これが一体……」
「良く見ろ。エンディは……足元の瓦礫が刺さって痛そうだ」
「……は?」
隊員達はざわざわとした。頭からミサイルや爆弾を浴びるような怪獣が足の裏に破片刺さった破片が痛いなどという事があり得るのだろうかと誰しもが疑問に思った。
「何故痛がってると分かるのですか?」
「踏んだ時、苦悶の表情を浮かべている」
東堂はモニターを上に上げた。確かにエンドデスアースが痛がっている……ようにも見えなくも無い。
「痛がっている……んですか?」
「間違いない。俺は四六時中エンディの観察をしすぎて、同化率200%なんじゃないかって位にはあいつの気持ちは分かっているのだ。奴に仕掛けた追尾型カメラには決して離れない。寝るときもトイレの時も風呂の時も……最新鋭の脳伝達システムによって夢の中でも監視出来るようにまでなったからな。俺は24時間奴と共にある。俺がエンディと言っても過言では無いくらいにな」
「それはスt……いや、凄い執念ですね」
隊員達には分からなかった。東堂一郎という男はエンドデスアースが現れた時からその執念を燃やし、最高指令にまで上りつめたとは聞いていたが、かの怪獣に対する執念が異常すぎて司令官をどういう目で見たらいいものか分からないのだ。
一般人が一般人をそんなに観察すると立派なストーカーであるが、相手は地球を滅亡に追い込む者。観察も監視も四六時中かの怪獣の事を考えるのも……全て地球の明日を想う為の立派な行動と言えばそうなのかもしれなかった。
「ああっ! エンドデスアースが!!」
モニターを監視する隊員が声を上げたので皆振り向いた。巨大怪獣からは緑色の液体が噴出し、それに触れた艦隊や建物はみるみるうちに溶けていく。
「なっ!! エンドデスアースは酸性の液体も吐くのか?!」
「みるみるうちに艦隊が……そんな……」
科学技術を結集し、地球上で最も硬く丈夫に作られたはずの戦艦装甲は飛び散る酸を浴びて煙と共に溶けて行った。人類の技術を嘲笑うかのような光景に誰しもが絶望した。
「落ち着け」
「指令……」
「A隊聞こえるか、無事ならば大至急エンディの上空に向かえ」
「指令、一体何を……」
絶望の視線を集めるモニター、だが東堂は冷静なまま生き残る飛行艦に指示を飛ばす
『上空到着、対象の真上です』
「よし、ならば右端のレバーを引け!」
『了解! ……え? 何これ、こんなレバーあったっけ……』
疑問を感じながらも実行する飛行艦乗員。見守るモニター上に映し出されたのはエンドデスアースの上に降り注ぐ白い幕だった。
「司令官、あれは一体? 捕獲でもするつもりですか?! あんな布で」
「いや、あれは……」
東堂が答える前に怪獣は布を大きな手でぐしゃりと掴む。
「ああ!!」
指令の行動に少しの希望が見えたものの、兵器と思われる謎の布も全く効いている様子は無かったので絶望のムードが再び隊員達の間に漂った。
「ズビャオオオオオオオ」
白い布を掴んだエンドデスアースは顔に当てて酸性の粘液をそこに噴出し始めた。
「司令官……あれは一体」
「対エンドデスアース酸性液用に開発した酸性を中和する材質で出来ている布だ」
「そ、そんなものの開発まで……! それで、その最新技術でどうされるのですか?!」
「ああ。あれがあればスッキリするだろう」
「……え? 誰が」
「エンディ以外に誰がスッキリするんだ」
隊員達はモニターを見た。エンドデスアースは白い布に顔を擦り付けて酸性の汁を拭いていたのだ。
「み、見ろ!」
エンドデスアースは心なしか壊れたビルを避けるように歩き、時折止まってはゆっくりと町から遠ざかっていった。
「脅威が……エンドデスアースが帰っていく……嘘だろ……」
訳のわからないまま過ぎ去った脅威に隊員達が喜ぶ中、東堂は携帯モニターの電源を入れた。
(エンディ……俺はお前と散々向き合ってきてやっと分かったのだ。お前は俺の運命……いつか必ずお前を……)
東堂は決意を胸に仕舞い込み、エンドデスアースの盗s……監視を今日も続けた。
その後地球が30世紀を無事超えられたかどうかは……まぁ、多分超えた。
巨大怪獣エンドデスアースは笑えない あニキ @samusonaniki
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