『ヒロシゲのぶろぐ』 3

〈H新聞七月十七日夕刊記事より〉

 中学二年生の男子の行方が知れなくなっているのではないかとして、○○署は17日、○○市○○区に住む30代の母親と、同居している30代の男性から話を聴いている。男子生徒とずっと連絡がつかなくなっていると、中学の担任教諭が近所で話を聴いた上、警察に通報したもので――




 7月20日

 ヒロシゲのぶろぐです。

 と言うより、混乱のないように、正確に書いておきます。

 今書いているのは、まちがいなく、ブログ主のヒロシゲです。

 と言うのも。

 もしかして、もしも、ずっとこのブログを読んでいる人がいたとして、カンのいい人だったら、気がついていたかもしれない。このブログ、7月7日まで書いていたのは僕だけど、8日から17日までは、別の人が書いていました。それが誰かは、まあ、説明するまでもないだろうけど。

 このまま17日の書き込みを最後に、このブログをやめにしてもいいんだろうけど。まあ本当に、もしものもしも、ずっとこのブログを読んでくれている人がいたとしたら、ここでやめて説明不足のままにするのも、もうしわけない。上に載せたような、新聞記事も出てしまっていることだし。

 だから一応、こうなったいきさつを、説明します。


 その前に、まず断っておくけど。

 このブログ、7月7日までの僕の書き込みも、8日から17日までも、一切嘘は書いていません。ブログにフィクションを書いちゃいけないという決まりはないだろうけど、最初から最後まで、まったく嘘もでまかせも、ありません。


 嘘を書かないという、理由の一つを、最初に説明しておこうか。

 これは嘘ではなく、はっきり書かなかった、ということなんだけど。

 僕はこのブログについて、『見てくれる人がほとんどいない』『訪問者一ケタ』『コメントちょぼちょぼ』などと、書いたけど。その少ない訪問者の中に、知っている人がいるらしいことに、気がついていた。それらしい、励ましのコメントが来ていたから。

 担任の先生だ。

 だからつまり、6月26日からのこの、ブログらしくない、まるで小説か何かみたいな調子の書き込みは、ただこの担任の先生が読むことを考えて、書いていたものなんだ。

 これは中に書いたように、万が一のことを考えて。本当に僕は、Nという男が僕とママに対して何かするんじゃないかということを危ぶんでいたから、もし何かあって僕が書き込みをできなくなるようなことがあったら、先生が気がついてくれるんじゃないか、と思ったというわけ。

 もっと正確に言うと、もし彼がこちらに危害を加えようとしたとき、このブログと読者の存在をほのめかして牽制に使おう、というつもりだった。

 そのために、絶対事実は正確に、もしももしもこれが警察の人に読まれたとしても、証拠として採用されるぐらいにしようと、気をつけていた。


 だから、7月7日の夜、本当に僕はゴルフクラブを持って、工事現場に行ったんだ。本当に、殺意を持って。

 もしも僕が失敗して、返り討ちにあうみたいなことになったら、ブログが中断して、先生が気がついてくれるだろう。そのときに警察まで事情がくわしく伝わるように、僕は自分の犯行計画みたいなところまで、くわしく書いておいた。計画が成功したら、その後すぐ、あの7月7日の書き込みは丸ごと消してしまうつもりだった。本当に自分がやった犯行を、正直にあんな誰でも読めるところに書いて残しておくバカは、いないよね。

 そういうつもりで、僕は暗い工事現場に隠れて、ターゲットが来るのを、待っていたんだ。

 道路に足音が聞こえて、短い小さな話し声。そして計画通り、ママが引き返していくのがわかった。もう一つの足音は、現場に入ってくる。

 がさ、がさ、と砂利を踏む足音。

 近づく。

 近づいてくる。

 さあ。――いよいよだ、と僕は、ゴルフクラブを握りしめた。

 ところが。

 足音は、まだ手の届かないところで、止まったんだ。

「いるんだろう? そこに」

 声をかけられて、僕は、ざざ、と靴の音を立ててしまった。

「いるの、わかってるんだよ。ちょっと、話さないか」

 こちらのいる方向を知って、声が少し高くなった。

 居場所が知られたんじゃ、不意打ちは無理だ。諦めて、僕はブルーシートに包まれた機材の陰から、立ち上がった。

 どうして?

 問いかけた声に、相手は困ったみたいな笑いで、頭をかいていた。

「うーん。ちょっと、説明しにくいんだけどね」

 離れた街灯の光に照らされた僕の顔を、ちらりと見て。それから、数歩先のぽっかり空いた大きな穴を、覗き込む。

「これかな。明日はふさがれるはずの、杭の穴っての」

 驚きで、僕は声を返せなかった。この男、僕の計画を全部知っている?

「確かに、人ひとりくらいはすっぽり入りそうだね」

 うなずいて、僕を振り返る。

「座らないか」

 言って、近くに畳まれたブルーシートを指さした。

 自分の殺害計画を持った相手と知っているはずなのに、いつもの、人のいい笑いを残した顔だ。それでも、油断しないように、と僕は少し離れて腰を下ろした。

「不思議なんだろう? どうして僕が気がついていたか」

 訊ねられて、しかたなくむっつりと、うなずいた。

「言いにくいんだけどね」

 男は、もう一度頭をかく。

 そして、出てきた言葉は、僕には衝撃的なものだった。

「言われたんだ。君がここに隠れている。不意打ちで襲って、僕を穴に落とす計画だって」

 え?

「それを前もって知っていれば、返り討ちができる。反対に、この穴に落として隠してしまってくれ、と」

 がちゃん、とゴルフクラブが地面に転がった。

「ショックを受けないでくれよ。わかってると思うけど、ママは病気なんだ。本気で君を憎いとか、邪魔だとか思っているわけじゃない。ただわけわからなくなって、目の前の自分を混乱させているものを除きたいって感じなんだと思う」

 それこそ、混乱する頭で、必死に考えた。そんなこと――信じられるか?

「信じられないかもしれないけどね。でも、ママから聞いたんじゃなきゃ、この穴に落とすなんて計画、僕が知っているわけないだろう?」

 それは、確かに、そうだ。

「まあ可能性だけなら、君とママの相談する会話を、何かの方法で盗聴していたってのも、考えられるけどね。君が、どちらの可能性を信じるかだ」

 どちらをって――? ここ数日の暑さでぼけたみたいな僕の頭は、それ以上考えることが、できなくなったみたいになっていた。

「まあ、僕はこんなところで殺人犯になる気はないから。返り討ちの方は心配しなくていいけどね」

 ふう、と大きく息をついている。

「それにしても、参ったなあ」

 意外なほど、真顔で心配しているらしい、男の横面がそこにあった。

「本当に、何とか君のママを、病院に連れていきたいんだけど。今無理強いしたら、どんな行動に出るかわからない、気がする」

 それは――同感できる、気がする。

「それにしても、なあ――」

 がりがりと、頭をかいて。大きく、首を振って。ひたすら思い悩んでいるっていう様子だ。最後にもう一度、大きく首を振って、こちらにその顔が向けられた。

「少し前から、考えていたんだけどさ。もし君が、僕を信用してくれるなら、なんだけど。提案があるんだ」

 黙って、見返していると。

「君、しばらくあの家を離れてみないか?」

 ?

 また、驚きで、声が出なかった。

「ママのためっていうのが、一つ理由だけどさ。今のまま、息子と夫を混同する不安を抱えて落ち着かなくなっているくらいなら、その不安の元を遠ざけた方がいいっていう。それと、もう一つは、君のためだ」

 え?

「気がついているか? 最近の君の顔、ほとんど病人みたいだぞ。頬もこけて、目もくぼんで、まるで僕よりも年寄りみたいだ」

 昼の暑さ、夜の寝苦しさ、一日中頭を離れない母親への気遣い。そんなものが、ぐるぐると頭の中を回っていた。

「このままだと、ママより先に君が倒れてしまうんじゃないか、心配で堪らないんだよ。少しの間でも家を離れて、ママのことは僕に任せて、肩の荷を下ろしたらどうだ?」

 こんな男の言うこと――。しばらく前から考え続けてきた、この男への疑惑を思うと、信じられるはずは、ないんだけど。

『肩の荷を下ろしたら?』

 その言葉が。何と言うか、ものすごく心地よく、胸に染みてきた、みたいだった。

 もしかして――

「君は、疲れているんだよ」

 僕の言いたかった、ほしかった言葉が、タイミングよく、相手の口からこぼれ出て。全身から力が抜けていくような、気がした。

「ひとりで何でも抱え込もうとしないで、時には大人に任せるってことも、必要だと思うよ」

 うなずきながら、男の言葉は続いた。

「それに、君がしばらくそばを離れたら、ママの気持ちも変わってくると思うんだよ。きっとすぐに、息子が恋しくて、会いたくなる。また息子と一緒に暮らすために医者にかかることが必要だと納得したら、その気になるんじゃないかと思うんだ」

 別の、反対の案を、まったく思い浮かべることもできず、その言葉にすがりたくなるほどに。きっと本当に、僕の身体も頭も、疲れ切っていたんだと思う。

 僕の反論が出ないのを確かめて、近くの公衆電話に行って、連絡をつけていた。自分の実家、北海道の東部の、農家だという。

「年寄りばかりの町だから、若い人が来てくれるのは、いい刺激になって歓迎だっていうことだよ。のんびり田舎の空気にひたるのもいいし、退屈なら爺さんの農作業に付き合ってもいい」

 こちらの考える暇も与えないほどにてきぱきと、旅費に十分な現金を押しつけられて。いくつか、情報をやりとりして。あっという間に僕は、そこから送り出されていた。

 キツネだか何だかに化かされたみたいな気分のまま、渡されたメモ通りに、列車に乗り込んで。車内で自由席に落ち着くと、また、むらむらと疑惑の気が湧いてきた。何だか、あの男のペースに巻き込まれて、あっさり騙されてしまってるんじゃないのか?


 でも、北海道東部のその小さな町に列車で着いて、いかにも農家という感じの、小柄だけどがっしりした小父さんに迎えられて。畑に囲まれた一軒家に連れていかれて、一眠りしたら、もう僕にはまったく疑う気持ちがなくなっていた。

 Nさんの両親だという小父さん小母さんが、とってもいい人たちだったんだ。

 息子の知り合いの子どもで、登校拒否になっている中学生、とだけ紹介されたという僕を、信じられないぐらいあたたかく迎えてくれた。

 地元の野菜だという料理を、

「ほらもっと食べろ。男の子は、そんなガリガリじゃいかん」

 と、小母さんがどんどん勧めてくれる。

 二人ともよけいなことは何も聞かず、他は自由にさせてくれる。僕が、何か手伝って体を動かしたい、と言うと、小父さんは畑に連れていって、簡単な作業を教えてくれた。

 ジャガイモの芽かきや草とりなんていう、見ようによっては単純でつまらないという人もいる、作業らしいけど。はじめて土にまみれる都会っ子にとっては、何だか新鮮で、かいた汗が気持ちよく感じられる、時間だった。

 なんでこんなに親切にしてくれるの、と一度聞いたら、

「困っているときは、おたがい様さ。誰でも、こんな自然の中で体を動かしたら、心の底から建康になれる」

 と、小父さんは笑って、それから少し冗談っぽくつけ加えた。

「何の甲斐性もないと思っていた息子が、人様の役に立とうという気になったってのも、嬉しいもんだしさ」

 つまり、そんな世話を焼きたくなるほど、僕は不健康な外見になっていたらしい。

 こっちに残っているママやNさんには、もうしわけないぐらいだけど。この十日ぐらいで、僕は体重も増えて、すっかり顔も黒く日に焼けてしまった。


 それでも、向こうにいる間も、こちらのことを忘れるわけには、いかなかった。と言うより、わずかに知らされる情報で、ママについての心配は、深まるばかりだった。


 工事現場で、Nさんと別れる前に打ち合わせをしたとき、最終的に困ってしまったことがあった。

 他でもない、このブログだ。

 書き手である僕が家を離れたら、今までのような内容の書き込みができなくなる。そうしたら、ずっと見ていると思われる担任の先生が、変だと気がついてしまう。きっと、家に話を聞きに来るだろう。でも、もうしばらくは、そういう形でママを刺激することは、避けたい。

 それと、もう一つの問題。僕の留守中の家のことは、Nさんがこまめに連絡して教えると、約束してくれたんだけど。実は、ママはNさんのケータイも、定期的にチェックしているという。どうも僕についてもNさんについても、死んだ夫のように隠れて何かしていないか、気になってしかたないらしいんだ。

 そんなNさんのケータイに、僕のケータイや実家の電話への通信回数が増えていたら、ママに僕の居場所を気がつかれてしまう。それなら、外の公衆電話からかければいいのかもしれないけど、こうなったらNさんは、できるだけ家を出ないでママを観察していたい、と言う。

 その両方の問題を解決する方法を、二人で思いついたんだ。そう。Nさんが僕の代わりに、このブログへの書き込みを続けること、だ。

 担任の先生には、僕が書いているように見せる。僕には、家の様子が伝わるような内容にする。ということで。

 Nさんに、このブログのアドレスとパスワードを教えれば、あとは自分のケータイから書き込みができる。僕の過去の書き込みを読んで、文体なんかをまねすればいい。

 Nさんの悪口をたくさん書いているけど、と断ると、

「それは、想像がつくから、大丈夫」

 と、笑い返された。


 それで僕は、8日からのここの書き込みを読んで、家の様子を知っていたわけだけど。

 日を追って、困ったことになってきたようだ。

 どうも、担任の先生が、この書き込みが変だと、気がついたみたいだ。

 その上で先生がこの近所で話を聞いて、やっぱり家に僕がいないらしい、と確信を深めた、ということになるんだろう。そして、警察に通報をしてしまった。話を聞きに来た警察の人に、Nさんもママも、最初は妙な答えしかできなかった。何とか本当のことを説明する気になったNさんの話の確認に、実家に電話を入れたけれど、ちょうどみんな畑に出ていて、誰も電話に出られなかった。そんなことをしているうちに、あの新聞記事にまでなってしまったらしい。

 ようやく夜になって連絡がついて、警察からの電話に僕が出て、疑いは晴れたということになったみたいだけど。こちらでは、さんざんだったみたいだ。

 危うくNさんは、警察署に連れていかれそうになっていたらしいし。先生の話を聞いて、マンション工事現場の掘り返しまで、検討され始めていたとか。

 その点では、Nさんも僕も、一緒に警察と先生に頭を下げることになった。

 起きていた事実としては、僕が母親に無断で遠くに行っていた、というだけで、何も法に触れることをしていたわけじゃないんだけどね。

 辛うじてよかった点は、結果として、ママが病院に行くことになった、ということだ。医者にみてもらって、通院と薬を続けることになって、かなり状態も落ち着いている。僕が家に帰ったときも、泣いてはいたけど、異常なことなく、迎えてくれた。


 昨日は、ママが病院に行っている間に、Nさんと先生と、三人で少し話をした。何度か話して、年齢の近いNさんと先生は、話が合うようになってきたみたいだ。

 聞いたところでは、先生は、やっぱりこのブログの書き込みを読んで、変だと気がついたらしい。

 どこで気がついたのか、聞いてみたら。

「そりゃあ、ずっと読んでいたら、ちがいに気がつくよ」

 と、笑われた。

『ぐらい』だとか、『なのだ』だとか、いった言い回し。他にも、漢字の使い方や、句点の頻度、などと、いろいろ指摘された。本人たちは、そんなにちがっている気はしていなかったんだけど。

 先生がそこまで熱心に、僕について気をつけてくれたということで、感謝するべきなんだろうね。

 Nさんも、かなり苦労して、僕の文をまねていたはずなんだけど。

 それから、これはNさんのこだわりと言うか、茶目っ気と言うか、って感じなんだけど。ある意味、先生をだますつもりで書き込みをしていたんだから、その目的に合わせてこのブログには嘘を書いたって、別に構わないわけなんだ。だけど、本人は『フェアプレー』と言って、嘘を書かないことをポリシーにしてきたという。

 まあ偶然と言うか、僕の書き出しの定型が『ヒロシゲのぶろぐです。』というのだったことと、母親の呼び方が『ママ』だったことが、それを可能にしてしまったということなんだろう。

 これがもし、Nさんが『ヒロシゲです。』と書いたら、厳密には嘘になってしまう。だけど、『ヒロシゲのぶろぐです。』だったら、嘘じゃない。このブログのタイトルはまちがいなく、『ヒロシゲのぶろぐ』だ。

 それから、Nさんはいつも、うちの母親のことを『ママさん』と呼んでいるんだから、ここに『ママ』と書いても、嘘ということにはならない。『母』と書いたら、アウトだろうけど。

 もう一つ。僕の性別は男なんだから、書き込みの中でNさんが僕のことを『あの男』と表現しても、誰も嘘だと指摘することはできないだろう。だよね?

 あと、話は少し変わるけど、昨日の会話で一番話題になったのは、僕が書いた7月7日の、あの物騒な書き込みのことだった。

 先生は、あれを読んで、その先が変だと気がついて、警察に工事現場を調べることまで提案したということなんだ。つまり、工事現場でNさんが僕を返り討ちにして、僕の死体を穴に埋めた。それから僕に化けて、ブログの書き込みをしていた、という可能性を考えて、だ。

 しかし。

 そんなにややこしくしたのは、言っちゃ悪いけど、完全に先生の早とちりだ。

 あそこには、確かに物騒なことが書かれているけど。だからと言って、ずっと全部読んだら、Nさんが僕を穴に埋めたということは、絶対にあり得ない。

 もしそうだとしたら、まず、Nさんがこのブログの存在を知ることが、かなりあり得ない。まあそれは、僕のケータイを拾って、その中を調べて可能にしたんだったとしても。

 もしNさんが、僕を返り討ちにしたんだったとしたら。

 あの、7月7日の僕の書き込みを、消さずにそのままにしておくことが、絶対あり得ないんだ。

 あれを読んだら、誰にも絶対知られたくない、杭の穴に死体を隠す、という犯行方法が知られてしまうんだから。

 他にも、犯行動機だとか、その直前の状況だとか。

 もし仮に、死体の始末に杭の穴を使わなかったんだとしても、あの書き込みの消去は必要だ。あれさえなければ、僕の行方不明は『不登校中学生の家出』で済んでしまうところが、あれを読んだら誰でも、Nさんが関係していたと確信してしまう。

 僕の知り合いがずっとブログを読んでいることなど知るはずもないNさんが、その時点で、あの書き込みを消す判断をしないはずは、絶対にないんだ。

 予定通り僕がNさん殺しに成功していたとしても、同じだ。その場合は絶対、このブログ全体を消去する。今日までこのまま残っているはずがない。

 さらに言うと、Nさんがここの書き込みでそう見せようとしたように、僕がNさんを説得して家を出るようにしたという場合だって、あの書き込みは消す。

 あれを残しているということは、残しているより消した方が不都合がある、という事情があるしか可能性はないんだ。そして、消して何かの不都合が起きるとしても、僕が家にいる限りはまず何らかの対処はできる。

 実際には。

 あの日の書き込みの扱いは、Nさんも困ったらしい。原因は、僕の説明不足だ。

 あの書き込み内容について、僕がちゃんと説明しなかったものだから。Nさんは、次の日の夕方になって、それを読んだんだ。

 そこでNさんは、これはまずい、と思ったんだけど。僕から担任の先生という読者の存在を聞いていたわけだから、書き込みから半日以上経過して、もう先生が読んでしまっている、という可能性を考えないわけにはいかなかった。ここでこれを消したら、逆に変に思われるかもしれない。

 だからしかたなく、その書き込みを残したまま、そんな物騒なことは起きなかったという説明から、次の書き込みを始める、という選択をするしかなかったわけだ。

 それを読んでいた僕は、不謹慎だけど、その苦労を想像して、そこだけは思わず笑いそうになっちゃったけどね。


 今、一階のリビングでは、ママとNさんが楽しそうに話している。医者に止められたのでアルコール抜きで、テレビなんか観ながら、のはずだ。

 別に僕は、Nさんの同居を賛成したわけじゃないけど。あの様子を見ていると、このままずるずると、既成事実ってやつになってしまうのかもしれない。畜生。

 僕の登校は、二学期から再開することで、先生と話をしている。明後日から始まる夏休み中に、勉強の遅れを何とかできるように、学校で他の先生と相談してくれるそうだ。迷惑をかけてしまうけど、甘えるしかない。


 結局、このブログの存在が、いろいろとあちこち波紋を広げたということに、なるみたいだ。

 その意味合いからも、何だか惜しい気もしないでもないけど。やっぱり、うちの父と母の恥ずかしい、人に知られたくないところまで書いちゃってるわけだから。この一連の書き込み、近いうち、全部消去することにします。

 その短いタイミングでこれを読むことができた人、ある意味ラッキーと思ってください。

 7月7日を機に生まれた、ラッキーだかアンラッキーだかよく分からない、これがその顛末です。

 お騒がせ、しました。

 でわでわ。

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