七は不吉の数字なり

シンカー・ワン

七人では多過ぎる

 冒険者だからと言って常に冒険している訳ではない。

 働き通しでは体はもたぬし、疲弊した頭はつまらないミスを招くことになる。

 危険とは馴染みの冒険者、ミスは生死に関わるというものだ。

 だから休息は必要。

 文字通りに休むもよし、冒険していては出来ないことをするもよし。鍛錬に費やすも遊ぶもよしだ。

 忍びクノイチたちの一党パーティも今は休息期。個々であれこれしたり、揃ってあちこち見たりと休みを満喫中。

 夜の定宿いつもの部屋、遊んで喰って飲んであとは寝るだけな一時いっとき

「そういや、なんで一党の面子って六人までなんだろ?」

 脈絡なく頭に浮かんだことを言い出すのは、やはりこの人熱帯妖精トロピカルエルフ

「なにをいまさら……」

 部屋の明かりを落とそうとしていた忍びが呆れた風に返すと、

「んじゃ、アンタ知ってるわけ?」

「――む、それは」

 口調が癇に障ったか熱帯妖精が詰め寄ると、圧された忍びは視線で夜着に着替えて床に就こうとしていた女魔法使いねぇさんに助けを求める。

「そうですねぇ……」

 助けを求められた女魔法使い、仕方ないなって表情かおをして、

「よく言われているのは、構成員を管理把握できる最良数が六人なのだとか」

 さらりと答える。

 大人数の冒険者集団グループもあるが行動単位は六人、と付け足したり。

 さすがは一党の知恵袋、賢人だなと感心しつつも熱帯妖精が次なる質問を飛ばす。

「じゃ、どうして六人になったんだろ?」

「あのなぁ……」

 間髪入れず忍びが突っ込むが、動ずることもなく熱帯妖精はワクワクしながら女魔法使いの答えを待っている。

 好奇心あふれる熱帯妖精のまなざしに、好意の笑みを浮かべ、

「経験則からというのが定説。随分と昔に迷宮に挑んで、何度も痛い目を見た上に導き出した最適解」

 楽しげな声音で答える女魔法使い。

「最初は何十人て規模で挑んでたらしいけど、ことごとく失敗した末に辿り着いた人数が六人だったとか」

 限定された空間において多過ぎる人数は行動の支障でしかなく、英雄でもなくば単独行など論外。学院ではそんな風に教えてる、とも。

「ふーん…… "冒険者は七を選ばず" ってジンクスも関係してたり?」

 これまた思い出したとでもいう感じで質問する熱帯妖精。

 あぁそれは、と前置きして女魔法使い。 

「大昔、勇者を筆頭に剣聖や賢者、大魔導士やら "七人の英雄" で魔王の大迷宮に挑んだ言い伝えからですよ」

「へ~。で、どうなった?」

 興味津々と身を乗り出して尋ねる熱帯妖精に、

「魔王討伐は成功するも勇者のみ帰らぬ人に。以来、"七" という数字は不運を呼ぶと忌避されているんですよ」 

 真実かは不明、と女魔法使いが軽い笑いを浮かべて告げる。

「……自分の里では "七" は普通に使われていたな」

 忍びが六番と呼ばれていた昔を思い返して言う。七番のあいつは今どうしているか……?

「学院も平気で "七" を使ってましたね。七番とか七号室だとか。学びの場で使えない数字とかあり得ませんから」

 根拠のない迷信扱いしていたと冷笑するねぇさんを見て、魔法学院に余程嫌な思い出でもあるんだろうと察するふたり。

「――世間じゃ幸運の数字なのになぁ」

 不可解だとでもいう顔をする熱帯妖精へ、

「ところ変われば違う解釈があるもの」

 女魔法使いが達観した口調で告げる。

「そんなもんかぁ」

「そんなものですよ」

 と交わし合うふたりを見て、忍びは口角をほんのりとあげる。

「ん~、じゃあさじゃあさ――」

 数字にまつわる疑問をあげてく熱帯妖精。

 まだ続けるのかって顔をする忍び。

 それはですね……と、蘊蓄を宣う女魔法使い。 

 夜はまだまだこれから。

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