第4話 未来
「ミライくん」
青年に声をかけると、彼は力なく振り向いて私を見た。どこか眠そうな表情に少し後ろめたい気持ちがわいてくる。
医師として、患者である彼とはとても長い付き合いだ。
人ではないと言われても、言葉を介して意思の疎通ができる。何が人と違うのか、私はいまだに分からないでいる。
「残念だったね」
基本は病院に暮らしているとはいえ、社会生活もそれなりに満喫していたようなので、あのニュースは既に彼の耳にも入っていたようだった。
彼と仲が良かった少年が退院した数ヶ月後に怪死したのだ。世間には事故死と発表されているが、さすがに一家心中で家族がひと塊になって発見されたことを世間は面白おかしくニュースにしている。
「トモくんの家族は鬼の影響に耐えられなかったようだ……。双子であるトモくんのお兄さんからも鬼の変異物質が検出された」
「知ってます。やはり、近いと影響がでやすいんですね……」
ミライは悲しげに笑った。
「トモくんは徐々にではあるが、鬼への変質は肥大化していたから。彼の家族もそれに侵食されたんじゃないかと言われてる」
「珍しいですよね。家族が全員気づきもせず今まで過ごしていたなんて」
彼の仲の良い子供がこんな事になって、社会に不安を覚えなければ良いが。私はミライくんを不安にさせないように、話を変えることにした。
「そうだ。ミライくん」
「明日の天気ですか?」
「あ、……うん」
「金曜日はデートですもんね。残念ながら雨だと思いますよ」
「やっぱりかい?」
「天気予報もそうですよ」
「ミライくんの天気予報はいつも百発百中じゃないか!!」
「夢で未来を見てるんですよ、俺は」
ミライくんはとても好青年だ。彼に鬼が巣食っているなど信じられないくらいに。
鬼への変異が完全に完了していて、けれども自我を保っている。彼が治療に協力的なのは国にとっても願ってもないことだ。
彼に症状として現れてるのは一日のほとんどを眠ってすごしていることくらいで、夢で未来を見る、というのはミライくんの鉄板ジョークだ。小さな頃から彼はずっとそう言っていた。
「先生、夢を現実にするのは僕でも大変なんですが、明日、晴れにしてあげましょうか?」
ミライくんはそう言っていたずらっぽく微笑んだ。
鬼とミライ 夏伐 @brs83875an
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