見つけた手がかりと怪しい雲行き

「じいちゃん~、発動機直ったー?」


 「核」をどうするか話し合っていると格納庫の中に一人の女性が入って来た。


「モニカ! 今修復師さんに見て頂いているところだよ」

「そうなんだ。こんにちは!」


 モニカと呼ばれた女性はリーシャとオスカーに挨拶をすると分解された発動機を前に「わっ」と声を上げた。


「なにこれ! この『核』こんな色だったっけ?」

「それが、魔法の強度に耐えられなくて『焼けた』状態らしくてなぁ。この『核』よりも質のいい石が必要みたいなんだ」

「うーん……。じいちゃんの発動機の性能が高すぎるってこと?」

「そういうことだな。嬉しいやら悲しいやら」


 オリバーの話によると、この発動機は今回のレースのためにオリバーが組んだ特別製の発動機らしい。


「せっかくの性能ですし、『核』に発動機の性能を合わせるのではなく発動機の性能に合った『核』を見つけるのが一番ですよね」


 リーシャの言葉にオリバーとモニカは頷く。


「自分で言うのも恥ずかしいのですが、職人人生で一番の出来と言って良い発動機なのです。このレースは品評会のような役割もありまして、うちのような小さな工場にとってはもう一度日の目を見るチャンスでもあるので……」


(小さな?)


 大きな格納庫をぐるりと見まわし、「これでも小さな方なのか」とリーシャは驚いた。


「失礼ながら、こちらの工場が『小さい』とは俄かには信じられないのだが」


 同じ疑問を持ったオスカーの言葉にモニカはため息を吐いた。


「昔はこれと同じ格納庫があと二つあったんだ。向こうの方にある大きな造船所を見た? 十年くらい前に新興企業が周辺の工場と土地を買い取って大きな工場を作ってね。それ以来仕事も人もどんどん取られて規模を縮小せざるを得なくなったんだよ」

「なんでも外国の御曹司が作った造船所らしく、うちの職人もほとんど引き抜かれてしまいまして……。財力があるようで船渠をいくつも作って海外からの発注はほとんどこの工場に流れてしまいました」

「それは……大変だな」

「だからこそレースでうちの飛行船の良さをアピール出来ればと思っていたのですが……」


 オリバーだけではない。周辺の中小造船所は皆同じ思いでレース用の飛行船作りに励んでいた。資金力には劣るがノウハウはある。それをレースでいかんなく発揮出来れば再び大きな仕事を得るチャンスが巡って来ると信じているのだ。


「ちなみに、そのレースと言うのは賞金が出たりするんですか?」

「ええ。賞金と賞品が出ますよ。確か今年は北の鉱山で出た『最後のルビー』だとか」

「最後のルビー?」

「北の鉱山は最早枯渇寸前なのですが、そんな中で少し前に出た良質な原石だそうで、『核』の材料として注目されているんです」


 オリバーはそう言うと飛行船レースのチラシの裏側を二人に見せた。裏面には賞金額と賞品の写真が掲載されている。握りこぶしほどはあろうかという大きくて真っ赤なルビーの原石だ。その写真を見たリーシャは「あっ」と言う声を発して固まった。


「どうかされましたか?」

「いえ、立派なルビーだなと。オリバーさんはこのルビーにご興味は?」

「はは、私はどちらかと言うと賞金の方が嬉しいですよ。目先の生活に必要な物ですから」

「そうですか」


 リーシャは何やら考え込んだあと、意を決してオリバーにある提案をした。


「オリバーさん、もし宜しければ『核』を私に作らせては頂けませんか?」

「え?」


 突然の提案にオリバーとモニカは顔を見合わせる。


「そして優勝した暁には、そのルビーを譲って頂きたいのです」

「それは構いませんが、一体どうして?」

「そのルビーはこの国の鉱山から出た物ではありません。私の祖母の蒐集物コレクションなのです」


 リーシャはオリバーとモニカに「盗まれた祖母の蒐集物」について話した。蒐集物のリストに載っている写真とチラシの写真を見比べると確かに形や色、傷の場所が酷似しており「同じ物」だと言って差し支えないように思われる。


「なるほど。確かに同じ物のように見えますね」

「じゃあ、何で北の鉱山から出たルビーだなんて嘘を?」


 そう。問題はそこだ。わざわざ「北の鉱山から出た最後のルビー」などと偽りの物語を付けずとも、無難に「『核』に使える最高品質のルビー」とでも言っておけば良いのではないか。物語を付与することで付加価値を付けたいのか、それとも……


「考えすぎかもしれませんが、入手経路を探られると不味い事情があるとか」

「レースには裏があるということか?」

「どうでしょう。でもなんとなくきな臭い感じがします」


 これだけ大ぶりで高品質な原石だ。買い付けたにしろかなりの金額になったはず。それも、レースの賞金なんて「子供の小遣い」に思えるほどの。それを出自を偽って賞品に据える。何かある、とリーシャの勘が告げていた。


「このルビーに代わる新しい『核』を作って、元々頂く予定の料金に加えて足りない分のお金を賞品のルビーで支払って頂くという形で如何でしょうか」

「『核』を作るって……お姉さん修復師なんでしょ?」


 『核』を作る、即ち魔工宝石を作るのは修復するのとは訳が違う。困惑するモニカにリーシャはニコリと微笑んだ。


「魔工宝石の作り方も祖母にみっちり叩き込まれましたので。ご心配なく」

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