第5章 人の夢

<シュンシュンしてる暇があったら開拓してえ>

 現生人類は船内の36名、つまりサムと生き残った乗員たち以外はすべて滅びた。正確には、近いうちに滅びる、だが。誰もが意気消沈しシュンシュンする中、サムだけは違った。

「皆、【うめおま】だ」

 皆が再び奮い立った。こんなこともあろうかとバニヤンが搭載していた探索システムで近隣の星系を探したところ、地球に怖ろしくよく似た惑星を見つけた。直径、表面温度、表面重力、酸素濃度、植生…

「「「いいねえ~~」」」

 満場一致で決まった。命名・SAM-0036。この系外惑星に狙いをつけ、Meteoraid號は出力を上げた。


<めておれ牧場への道>

 いまや冒険者たちは開拓者となった。これまたバニヤンが開発したテラフォーミング装置を使って大気組成や除菌を行った後、大地に降り立って一呼吸すると、何だか甘酸っぱい匂いがした。小高い丘を見つけると、まずはモドゥーセと聖・リセイトンを埋葬した。サム・ジーヴァ帝、いや、もはやただのサムは、仲間に語りかけた。

「slow but steadyでやってゆかう」*7

 これが、この惑星で生きる基本方針になった。念のため宇宙船に積んでおいた種子や動物のコレクション<NOAH>を使い、「めておれ牧場」を設立した。

 少しずつ、牧場の陣容は整っていった。かつて殺伐とした毎日を送っていたPJも、笑顔でアルパカを乗り回している。

 人々は穏やかな日々を過ごしていた。不思議なことに、全く争いが起こらない。これはサムの人徳かと思われたが…


<バイバイ、サム>

 名誉牧場長となったサムは御年120歳。ロッキングチェアに揺られ、めておれ牧場の全全男女に囲まれながら死の床に就こうとしていた。彼は言った。

「今こそすべての矛盾が一つの深い調和に帰しようとする。そしてこの世での様々の苦しみが一つとして無駄ではなかったことが解ろうとしている。(しみじみした独白の如くになる)なにもかもがよかったのだな。わしのつくったあやまちもよかったのだな」*1

 ここで息を引き取ると思われたが粘り、

「究極の理想に通じた人が、この平安の境地に達してなすべきことは、次のとおりである。

 能力あり、直く、正しく、ことばやさしく、柔和で、思い上がることのない者であらねばならぬ」*3

 と言った。これがサムの最期の言葉になるかと思われたが、まだ息があった。最後の息を振り絞って言うには、

「運命がお前を育てているのだよ。ただ何事も一すじの心で真面目にやれ。ひねくれたり、ごまかしたり、自分を欺いたりしないで、自分の心の願いに忠実に従え。それだけ心得ていればよいのだ」*1

 言った。逝った。行った。

 ここに、サム・ジーヴァ帝国は完全に滅亡した。


<シン・人類>

 偉大な男の死から100年。めておれ牧場の中心にある憩いの広場に立つ彼の記念碑には、今日も暖かな春の陽が射していた。そこに生まれたばかりの赤子の声が響いた。「おいおい、こりゃあ…」人々はその赤子の姿に目を瞠った。人類は次の種に変化しはじめていたのた…。

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