米川くんのひとりごと ~アンラッキー編~

篠崎 時博

米川くんのひとりごと アンラッキー編

 あっ。

 

 あーあ……。


 キーホルダー、落としちゃった……。


 ない。

 ない。

 鞄の中も、来た道にもどこにもない。


 あー、やっちゃった……。

 あのキーホルダー気に入ってたのにな。一点ものだったのに……。


 ……今日は本当にツイてない。


 そういや、さっき少し肩が触れてただけで、すごい舌打ちされたし。


 買ってきた本はよく見たら帯が破れてたし。


 着てきたコートはボタンが取れる。


 そういや朝、テーブルの脚に小指をぶつけたなぁ。

 

 乗る電車は、10分遅れてやって来るし。


 おまけに、ほら、傘持ってないのに雨降ってきた。


 数えたらもうこれで7つ目だ。


 これってもはやラッキー7ならぬ、アンラッキー7ってやつ?


 因果応報ってあるじゃない?

 良いことも悪いことも自分に返ってくるってやつ。

 

 こんだけ、アンラッキーなことが重なるって、つまりそれ相応の悪いことを僕がしたってこと?


 7つの悪いこと……。


 あ、この間休憩室のテレビをつい見いっちゃって、お昼休憩を10分延長したな。

 

 あと、お一人様一点をもらうため、変装して卵2回買いに行ったし、車内に落ちてた手袋を、届けないでそのままにしちゃった。

 

 昨日の朝、職場の掃除のおじさんが挨拶してくれたのに、返事返さなかったな。


 同僚が欲しがってた最新の髭剃りも、どこで売ってたか知ってたけどその場で教えなかったし。

 

 エアコンのフィルター掃除を面倒くさがって先延ばしにした。


 スーパーのスイーツコーナーで、小さな子が欲しそうにしていた最後のケーキ取っちゃったし。


 ――これで7つ。

 きっとこれがさっきの7つに繋がったのかもしれない。


 

 ……ってあれ?あの人、今定期落とした……?


「すみません……!」

 急に声をかけたからか、落としたその人は驚いた顔をした。


「これ、落とし物です」


「あ……、ども」

 定期券を受け取るとその人はそそくさと、その場を去った。


 いつかの僕のために、どこかでラッキーを貯めないと、ね。

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