第39話 終戦
其の後、僕は五時間近く歩き続けて、漸くに白い兎のアジトに辿り着いた。
状況報告に付いては勿論、嘘を付いた。
一部分は本当の事を織り交ぜて、なるべく簡単な内容にしたが意外に誰もがアッサリと信じてくれた。
セミノロフとズボルトビッチの裏切りで、黒い鼬のアジトがドイツ軍に襲われたが自分は木箱の中で眠っており難を逃れた。
其処に居た一人の奇怪なドイツ兵が突然暴れだし、尋常ではない怪力で味方のドイツ兵を皆殺しにしてしまった。恐らく、ドイツ軍の人造強化人間ではないかと思われるが詳しい事は解らない。
其れから自分は仲間の遺体を整列させて弔った。其の後、真相を探るべくドイツ軍の人造強化人間が作られたと思われる施設に偵察に行ったが、何と其処でも件の奇怪なドイツ兵が大暴れをしており、其の施設に居た兵士達をも皆殺しにしてしまった。
自分はもう、何が何だか解からずに其の場を逃げ出して此処、白い兎のアジトに救援を求めに来た。
僕が報告したのは以上の内容である。だが其れだけで十分であった。
僕の話を聞いた者は、「きっと、ドイツ軍の『人造強化人間』に違いない」「感情が制御出来ないんだ」等と口々に憶測を並べ立てた。
白い兎の面々も、例の赤軍の秘密部隊の手伝いをしているので、人造強化人間の事に付いては十分承知しているのである。
一応、事が事だけに調査は赤軍指導の下で行われた。
僕は赤軍の情報将校やGPUに三度程、尋問を受けたが後は例の如し、「此の事は他言無用にせよ」と又、誓約書を書かされただけで解放された。やはり赤軍の指導部も此の件に関しては、出来るだけ内密に処理したいのだろう。
しかし赤軍がケムラー達を見つけられる事は無いだろう。僕はドイツ軍の人造強化人間と思われる者の容姿を、ケムラーとは似ても似つかぬ姿として報告したからだ。
其の後、赤軍部隊と幾つかのパルチザン部隊の協力を得て黒い鼬の仲間達の遺体を埋葬した。僕は其の侭、白い兎に加入させてもらい再び戦い続け――そして終戦を迎える事となった……。
――何と僕は生き延びた。
だからと云って死に損なったとも思わないが兎に角、僕は生きている。
常に『死』を覚悟していた僕だけど、生き残ったのなら、之からも生き続けてみようと何故か唐突に思った。
複雑に考えるのがユダヤ人の性の筈だけど――今は唯、単純に生きてみようと思う。『生』の意味は後から考えよう。子供の僕には未だ時間は充分に有るのだから。
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