第15話 二人の科学者?
「あのボケって、マウラーが撒かれるなんて相当な腕利きなんだろうねぇ」
先頃、彼から僕等宛に届いた極秘電には、こう記されていた。
「すまねぇ、ドジ踏んだ。逃げられちまった。チビに文句云われたくねぇから、意地でも奴を取っ捕まえてから合流する」 アルトゥル・マウラー。
彼等には、もう一人仲間が居るのである。今はソ連国内に潜入し、作戦行動中なのだ。スタインベックはマウラーを擁護する発言をしているが、反対にハルベルトは無茶苦茶に扱き下ろしている。
「腕利きだか足利きだか知らねぇが、あのカスが使えねぇだけだべさ。たくっ、あのクソはガキの使いも真面に出来ねぇボンクラだべ! おまけに人の事ぉ、チビ扱いしやがって……ウドの大木のゴミクズがぁ‼」
酷い謂われようである。どれだけ嫌っているのだか――スタインベックは執り成す様に、「そんな事ないでしょ、彼は優秀だよ。僕も君も何度も命を救われたでしょうが」と云うと、ハルベルトは平然と云い放つ。
「あれ等は計画上、必要最低限の働きをしただけに過ぎねぇべ。其の位ぇ、出来ねぇ様じゃあ本当の役立たずだべさ」
取り付く島もない。長い年月一緒に居るのに、如何して仲良くなれないのか不思議にすら思える。
「何にしても、其のGPUの連絡員の足取りは掴んで置きたいよね」
スタインベックは強調して云う。
「大して役に立つ資料とは思えねぇだぁなぁ……」と、やはり乗り気に為れぬ様子だったが、ふくれ面のスタインベックを見ると、少し態度が軟化した。
「単なる暇つぶしや出歯亀根性で無く、科学者としての興味だか?」と真面目な顔で問うて来たので、勿論だよと答えると、「そう云われちゃあ仕方無ぇべや」と不承不承に、GPUの連絡員を捕捉する事に同意した。
「一応、此処等辺りをウロチョロしてる、パルチザンの連中の中に仕込んだ諜報員共には、スウェーデン行きの奴が来たら連絡する様には云ってあるべがなぁ……未だ、報告は上がってねぇだよ」
ハルベルトは冷めた口調で淡々と云う。なんだ、やるべき事はやっていたのだ。流石だねと褒めたら、「あんまり期待しねぇ方がいいべ。オストレギオンだぁ、コサックだぁとイキがっちゃいるが所詮、山出しの盗賊紛いの連中だべさぁなぁ」と、あくまでも冷徹な物云いである。
本当にソビエトの人造強化人間計画には興味無いんだな。僕としては何等かの足しにはなるんじゃないかと思うのだけど。まあ、でも之でGPUの連絡員を捕まえる迄は此処に逗留して居られる。其の間にマウラーとも合流出来るだろう。あれ? 不意に重要な事を思い出した。
「ねえ、処であの飛行機の事だけど……」
「御前ぇが来たら直ぐフケられる様に、おらが手配しといただ」
「流石だねぇ。でも、如何やって?」
「遣り様は色々だべさ」と、得意ぶるでも無く平然と答える。実際、彼の調達能力には舌を巻くモノがある。彼に掛かれば飛行機から女性の下着迄、何でも揃えてしまうのである。其処で気になっている事を訪ねた。
「ねぇ、何でアレ二人乗り用なの?」
シュトルヒには二人乗り用の他に三~四人乗り用の型も有るのだ。特に此の様な僻地に駐屯する部隊では運用上、三~四人用の型を使うのが定石なのである。そう云うと、ハルベルトはキョトンとした顔で自分と僕を指差した――予想通りに――。
「マウラーは如何するの?」
「ガキじゃあんめぇし、行先記した伝言残しときゃあ、後は自力で来るべぇや!」
もういい、何も云わない。ハルベルトは僕の膝の上に乗せる。
僕の考えを察したか、ハルベルトは鋭い眼差しで、「膝の上には乗らねぇだよ」と云ったが、其れを無視して僕はベルリンの本部で入手した超人計画の資料の内容を淡々と報告し始める。其の間も、「おらをチビ扱いするでねぇぞ」とか、「絶対、膝の上には乗らねぇだ」等とブツブツと呟いている。
しかし何を云っても無駄だ。君は僕の膝の上に乗る、之は既に決定事項である。
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