7・7・7

7・7・7

 私には付き合ってる彼がいる。付き合った相手としては、七番目の男。

 彼…そう。あのひとじゃなく、彼。…かなり年下。ひとまわり以上違う……

 その年下の彼と、付き合ってる…うんうん、正確に言えば、付き合ってるつもりなのは私の方だけ。はっきりそう言われたワケじゃないけど、でもわかる。彼は、そういう人だから――

 私が知ってるだけでも、彼の周りには六人、私を含めて七人、アプローチをかけてる女性がいる。中には他の彼女の存在を知らない女性もいるし、知っててバチバチにライバル視してる女性もいる。身体だけの関係と割り切ってる女性もいるし、本命は自分で、他は遊びと高を括ってる女性もいる。

 私は、……全部知った上で彼に惹かれ、他の女性達をライバル視するでもなく、関係を割り切るでもなく、かと言って、他を見下し、驕るワケでもなく、でも嫉妬し、時に悲嘆しながらも、ズルズルと関係を続けてる。


 彼との出会いはホテルのバーだった。

 彼は酔っ払ってた。付き合ってるつもりのない女性から、一方的に攻められ、別れを告げられ、こっぴどくフラれたそうだ。

 私はたまたま彼の近くの席にいて、そんな話を聞き、愚痴を聞き、同情し、…そしてそのまま部屋へ……

 何とも陳腐な出会いだった。私もそう思う。バカにしてたそこらの尻軽女と大差ない。うんうん、全く違わない。

 その時の私は彼の事を、流れでそうなっただけの軽い関係…そう思ってた。

 まさかこんなに彼に惹かれる事になるなんて、想像もしてなかった。


 その後も軽い気持ちで食事をし、身体を重ね、…そんな関係だったからなのか、それともひとまわり以上も違って、恋愛対象としては全く意識してなくて話しやすかったからなのか、彼は私に悪びれる事もなく、いろいろと話をした。私以外の六人の話もその一つ。

 他に聞いた話では、彼はまだ、誰かを好きになったことがないらしい。最初は冗談だと思ってた。よくある、男女の間の駆け引き――テクニック。

 でもどうやら本気らしい。最近の子達には多いそうだ。

 恋愛したくないワケではないけど…

 好きになればしたいとは思ってるけど…

 そこまで感情が盛り上がらない。かと言って無理して恋愛しようとも思わない。そんな感じだそうだ。

 そんなだから誘われるままデートをして、唇を重ね、身体も重ねる。だけどそこに恋愛感情はない。そんな状況が成り立ってる。男女の間の駆け引きなんて、そんなゲーム感覚なんかも彼は持ち合わせてない。

 先刻さっき悪びれる事もなくって言ったけど、全くその通り。彼には悪い事をしてるっていう気持ちが全くない。だからこそ、私を含めて七人の女性と…なんて、今の状況に……

 彼にとってそういった行為は、生活をしていく上での、一つの流れや、リズムといった、そんなモノでしかない。


 そんな彼も、ベッドの隣で眠る女性を見て、ふとその女性を好きになったらと考えた事があったそうだ。

 でも持った事もない感情になった事を考えたところで、わかるワケもないからと、すぐにやめたという。

 私も中学生の頃に似たような経験をした事がある。告白されて、好きでもないのに付き合って、ある時ふと、その彼を好きになったらと考えたのだ。その頃は私もまだ初恋というモノをする前だったから、シチュエーションとしては彼と同じ。でも私には、保育園の先生や、近所のお兄ちゃんや、アイドルへの憧れといった、比較出来る、近い感情があった。

 彼にはそれすらない。すぐにやめたというのは、…そういう事…

 どうして私はそんな彼に、こんなにも惹かれてるんだろう。

 見た目?

 確かに彼は格好良い。でもそれなら、軽い気持ちじゃなく、最初から好きになってた。

 …でも年齢差がある。私が恋愛対象として見てなかった?

 うんうん、違う。格好良いけど、それ程ってワケじゃない。

 じゃあ、中身?

 確かに優しい。人懐っこいところもあって、よしよしって、頭を撫でたくなる時がある。付き合ってみて、それに気付いたから、だから好きに?

 うんうん、それも違う。悪びれる事もなく、同時に七人と関係持ってる男よ。それを早い段階で知ってて?

 ああ、頭撫でるとか、悪いところ知っててとか、母性?

 ダメな子ほどってやつ?

 刺激されちゃった?

 年齢としもひとまわり以上年上だし?

 ……うんうん、やっぱり違う。決してこれはそんな感情なんかじゃない。私のこの想いは、女性から男性への、紛れもない、愛だ。母性なんて陳腐に言葉をすり替えたくない。


 間違いなく、最初は軽い気持ちだった。

 見た目なんかじゃない。

 自分の他に、六人の女性と関係にあるって聞いても、「何それ?」って、年上の女らしく、フフッて微笑わらってた。

 中身なんかじゃない。

 ひとまわり以上年齢が離れていても、彼を母親目線で見たことなんて一度もない。

 母性なんかじゃない。

 全部違う。

 …全部?

 七人から同時にアピールされるぐらいだし、そういう事?

 …やっぱりわからない……

 いつだろう……いつから私は軽い気持ちじゃなくなったんだろう…いつから私は年上の女らしく微笑えなくなったんだろう…いつから私は彼を一人の男性として見るようになったんだろう…いつから私は他の女性に嫉妬するようになったんだろう……いつから、一人の女性として、私は……

 ……!

 やっぱり、好きなんだな…私は、彼を愛してるんだ…たとえ、…たとえ自分でも、それは否定させたくない。

 …うんうん、させない。決してさせない!

 私は、…何だろう……悔しいな……でも、……私は、………



 彼を愛してる。



 彼は、…彼もそう思ってくれる日が、いつか来るんだろうか。それは、……

 …そう言えば、彼と出会ってもう七か月。七か月も……七か月しか……そのと比べて、今はどっちなんだろう……それとも、そのなんてモノは、やっぱりずっと来なくて、存在しなくて、七か月は、ただの、七か月でしかなくて――

 …七か月…フフッ…フフフッ…七か月か。

 彼と出会って7か月。そして、彼は私の7番目の男で、彼の周りには7人の女――

 フフフ…777ラッキーセブンだ。

 …いや、……やっぱり、アンラッキーセブンか………

 ……私はいつまでこうやって一人で悩んでるんだろう

 ……私はいつまでこうやって一人で苦しんでるんだろう

 ……私はいつまでこうやって一人で泣いてるんだろう

 ……私はいつまでこうやって一人で、私は……!……


 ……哀しい………寂しいよ…………――

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7・7・7 @LaH_SJL

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