ダンサー

ここのえ九護


「7は幸せの数字なんだって!」


 今もふと思い出す。

 私の前で無邪気に語るあの子の笑顔を。


 決して悪い子ではなかった。

 明るく、勉強も出来て、運動神経もそこそこ。

 グループの中心人物にはならないが、決して外れにいるわけでもない。

 友人が困っていれば『大丈夫?』と声をかけ、できる限り相談にのる優しさもあった。


 少々夢見がちでミーハーな部分はあったものの、私とその子が親密だった学生の時分を考えれば、それは誰しも似たようなものだっただろう。


 7は幸せの数字。


 ある時。とある有名な占い師に直接そう言われたらしいその子は、その日を境に7とつく物を買い漁るようになった。


 グッズや縁起物を集めていた頃はまだ良かった。

 いつしかその子は、グループで集まった際のテーブルや電車の車両の番号にまで7を持ち出すようになる。


 いや、今思えばまだその頃はマシだったのだ。

 私も含む友人たちは、その子のラッキーセブンへの傾倒を煙たがりつつも、まだ付き合っていた。しかし――


「やっぱり7はだめ! 7は不幸の数字なんだって!」


 同じ占い師に、7は不幸の数字に反転したと言われたその子は、今度は別人のように7という数字を忌み嫌い、避け始めたのだ。


 三桁万円にも達するバイト代を注ぎ込んだグッズは全て捨て、日常生活でも、学校生活でも7という数字を徹底的に避けるようになった。


 あきれ果てた友人たちは、その子をグループから外した。

 私もその子と会う機会はなくなった。


 ちなみに、私の名前にも〝七〟という一字が含まれている。


 当時、私がどのような態度を受けたかは思い出したくもない。

 あの子にとって、きっと私はラッキーセブンにも、アンラッキーセブンにも見えていたのだろう。


 もうあれから何年もたつ。

 けれど、あの子はきっと今も踊っているはずだ。

 

 どこかぼやけた、蒙昧もうまいなステージの上で。

 世間と他人に吊された糸に縋る、人気のダンサーとして。



 

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ダンサー ここのえ九護 @Lueur

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