【KAC20236】エイプリルリール
あきカン
第1話
早朝のパチンコ屋の前には、毎朝大勢のクズ共が群がっている。
煙草をくわえ、笑いながら灰を地面に落とすジジイ。
どこで手に入れたのかも怪しい一万円を、両手で挟み込み念仏を唱えるようにぼそぼそ言っているババア。
誰ひとり救いようがない。
そして九時ちょうど、中から店員が表れて俺たちに向かって言った。
「みなさん! 今日は4月1日つまりエイプリルフールです! そのため本日は機械がエイプリルフール仕様になっておりますのでご注意ください」
エイプリルフール仕様?
その場にいた全員が首を傾げた。
とにかく店が開いたので、俺たちは整理券を席券と交換して中に入った。
よし、ツイてる!
席番をみてすぐさま俺は心の中でガッツポーズをした。
席番が7の台はこの店じゃ有名な当たり台だったのだ。
興奮を抑え切れず、俺はペットボトルを台の上に置いて席を立った。
そして喫煙室に向かい、十分ほど心を落ち着ける。
――設定6は概算約7割の確立で大当たりが出る・・・しかも今日は軍資金を多く持ってきたから勝ち額は通常より上!
喫煙室を出てホールに戻ってきたところ、叫び声のようなものが聞こえた。
「いやぁー! 返して、返してよぉ」
それは店の前で念仏を唱えていた例の女だった。台にしがみつくように体を密着させ、入札機に手を伸ばしている。
「お客様、どうされました?」
騒ぎを聞きつけ、すぐさま店員がやってきた。
「この機械がおかしいのよ!」
女は真っ赤な顔で台を指差した。
「大当たりが出たのに、玉が返ってこないよぉ!」
よく見ると女の台は、俺と同じ設定6だった。
「なるほどそうですか」店員は思案顔を浮かべた。「まあそういう日もありますよ。元気出してください奥様」
「そんなことできるわけないでしょ! お金返してよお」
「まあまあ、あちらでお話聞きますから」
促すように言って、店員は女を奥へ連れていった。
俺は嫌な予感がして、急いで自分の席に戻った。
試しに万札を投入し、レバーを引く。
数回の検証で気づいたことは、大当たりが出ても画面の数字が増えないことだった。
「エイプリルフールって・・・まさか」
悪魔の仕業か、いやこの店がすでに悪夢の巣窟だった。
試しに他の空き台も覗いてみたが、全てが設定6。摘発すら受けるくらいの激甘環境なのだが、今日に限ってはこれ以上ない地獄の数値だった。
俺は仕方なく席に戻った。これまでの計算を全て頭の中で逆にする。
他の台を回ってわかったことだが、単にハズレが当たりに変わるわけではなく、絵札の強さが逆になっているということだった。
つまり本来ならばたわしに毛が生えたくらいの配当しかないものが、ハワイ旅行に化けるようなものだ。
金色の玉が出ても、18金にすら届かないのだ。
俺は席に戻って、万札を投入した。とにかく、三割の確率を引けばいいのだ。そう、いつも見ている光景を再現すれば良い。
あの無価値なレモンを呼び出せばいいだけの話だ。俺たちはすでに恋人の域である。
何度も絶交を申し出たが、今日だけはこちらから手を差し伸べてやることにした。
それなのに既読無視しやがったあのクソフルーツ、ぜってー許さねえ・・・。
【KAC20236】エイプリルリール あきカン @sasurainootome
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