7つの不幸を脱ぎ払え!
矢木羽研(やきうけん)
服も下着も脱いでお清め?!
「なるほど、最近不運が続く、ということですね」
「はい……」
私は友達に紹介してもらった占い師に見てもらっている。ここのところ不幸というか不運な出来事が連続しており、なにか悪いものが憑いているのではないかと思ったからだ。本気で信じているというわけではないのだが、お値段も手頃だし、占いというのがどういうものか体験して見たかったというのも理由である。
「ふーむ」
占い師の先生は私の目をじっと見つめる。想像していたよりも若く、私と同じくらいの歳のように見える。そして何よりイケメンだ。友達が推していたのもそういう理由かも知れない。
「見えました。あなたは7つの呪いを身に着けています」
「呪い、ですか?」
「はい。あなたの身に着けているものが呪われている、という意味です」
呪われた装備なんて、まるで昔遊んだRPGのようだ。本当にそんなものがあるのだろうか。
「つまり、その呪われたものを捨てろ、ということですか?」
「いえ、捨てる必要はございません。こちらでお清めしていただければいいのですよ」
先生はそう言って、香炉のようなものを取り出した。上にはカゴが取り付けられており、なるほどここで物品をお清めするのだと思った。
「あ、お香の代金を追加でいただいたりはしませんので」
私が聞こうとしたことを先回りで答えると、香炉に火を入れた。良い香りの煙が漂ってくる。
「これは私が独自に調香したものでしてね」
「いい香りですね。……それで、呪われたものというのは一体?」
「ああ、そのことですね。まずは、上に着ているカーディガンですね」
「はい」
私は、言われるがままにカーディガンを脱いで、香炉の上のカゴに入れた。
「では、残りの6つというのは」
「とりあえず、ブラウスとスカートとストッキングですね。後の3つはおそらく下着かと……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
呪いを解くためと称して、この男は私を脱がそうとしている。これはいくらなんでも占いにかこつけたセクハラではないだろうか。
「あ、失礼。こちらをご使用ください」
そう言って、私にバスローブを手渡してくる。
「私は隣の部屋にいますので、準備ができたらノックをお願いします」
「準備って、どういうことですか?」
「呪われた服を全て香炉の上のカゴに入れていただければ大丈夫です」
ということは、私はこの男の前で、バスローブ一枚の素っ裸になるということだろうか。
「あの、もし抵抗があるようでしたらおやめになることもできますよ。それでしたら今回はお試しということなので料金もいただきません」
躊躇する私に声をかける。退路を塞ぐような卑怯な手を使う人ではないことに安心したが、それでもここで脱ぐというのは……。
「一応、真面目なお祓いの儀式なので信用していただけるとうれしいのですが」
きれいな目で私を見つめる。ちょっとドキドキする。
「……はい、わかりました。言われたとおりにします」
少し考えて、とうとう私は首を縦に振ってしまった。
「ありがとうございます。では別室で待機しておりますので」
*
私は服を脱いでいった。気分としては、病院で検査着に着替えるようなものだ。バスローブも大きめで露出も少ないので大して気にならないだろう。スカート、ブラウス、キャミソール、ブラ、ストッキング、ショーツ。最初に脱いだカーディガンと合わせて7つ。これをお清めすれば不運続きも終わるのだろうか。
私はバスローブを羽織ると、脱いだ服を丁寧に畳んでカゴに入れた。当然、下着は目立たないように中に入れる。これで大丈夫だろう。私はドアをノックして先生を呼んだ。
「どうも、お待たせいたしました」
「はい、それでは始めましょうか」
先生はさっそくカゴの前に立って、両手をかざして呪文のようなものを唱え始めた。そして脱いだ服の中に手を突っ込んで、大きくかき混ぜはじめた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
かき回されるカゴの中身。隠していた下着も見えてしまう。こんなことになるとは思わなかったから地味でヨレヨレのやつを付けてきたのに。
「え、でもこうしないとお清めできませんよ?」
「そうですけど……そうですね。続けてください」
先生はまったく意に介する事なく衣服をかき混ぜる。直接触れたブラやショーツが宙を舞う。私はものすごく恥ずかしかったが、先生はあくまで淡々と作業しているので、そのうち気にならなくなってきた。
*
「はい、終わりましたよ」
時間にして1分くらいだろうか、お祓いが終わったらしい。再び先生は別室に移動してくれたので、私は服を身につける。お香の煙でほんのりと温かくなった下着が気持ちいい。すっかり気分も晴れやかになってきた。お祓いの効果というのは本当にあるのかも知れない。
*
「おかえり、どうだった?」
会計を済ませて友人と待ち合わせる。今回の占いを紹介してくれた子だ。
「最初はびっくりしたけど、今はすごく心が軽くなった感じ」
「ねえ、やっぱり"服のお清め"やったの?」
「うん。まさかあの場で全部脱ぐなんて思わなかったけど」
友達と笑いながら今日あったことを語り合う。
「私の今の彼氏ね、このお祓いのすぐ後に逆ナンして捕まえたんだよね」
「えー、ほんと?」
「ほんとほんと。ここだけの話、その日のうちにホテルに行っちゃったりして……」
聞けば、このお香には興奮作用とか催淫作用とか、とにかく「その気にさせちゃう」力があるらしい。
「さすがに逆ナンは無理だけど、ちょっと気になる子がいるから今夜誘ってみようかな……」
「いいじゃん、その調子!」
「でも下着がいまいちだから着替えたいんだよね。駄目かな?」
さすがにヨレヨレの下着はちゃんとしたのに着替えたいところだ。
「うーん、お清めしたての下着が一番パワーあると思うけどねぇ。それに男の子って下着なんかろくに見ないでしょ」
「それもそうか。いざとなったら自分から全部脱いじゃえばいいんだし」
「きゃー、大胆!」
確かに、普段の私なら思いもつかないようなことを平気で口にしている。これもお香の影響かもしれない。今の私ならなんでもできる気がする。生まれ変わったボディで彼をメロメロにするんだから!
7つの不幸を脱ぎ払え! 矢木羽研(やきうけん) @yakiuken
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