第四節

 昼の十二時半に起きて、僕はようやく事の重要性を理解した。急いで準備をして駅まで向かい、電車に乗り込む。慌てて出たものだから、髪はボサボサだし服装も多少乱れているが、それはもうどうしようもないことだった。

 電車に揺られ、バスに揺られ一時間半くらい経った頃、ようやく僕は彼女の墓の前にたどり着いた。今日で亡くなって半年だ。

 頼りない人間でごめん、と墓石の前で頭を下げる。おごりすぎかも知れないが、あの時彼女を救えたのは僕だけだったし、救えなかったのは僕のせいだからだ。

 親しい人の死を乗り越えるのは厳しい。それが、片想いであれば余計に厳しい。あの時想いを伝えていれば、どうにか変わったのかもしれないのに。そればかりが僕をむしばんでいった。

 日が陰ってきた頃にようやく僕は墓参りの本質を思い出し、墓石を磨き、花を入れ替え、お供物を備えた。彼女の好きだった紅茶を添えて。


 帰り際、東屋あずまやで休もうとした時、一際強い風が吹いた。藤棚の藤が大きくなびいた。まるで彼女が早く帰りなさいと急かすように、忘れなさいと告げるように、僕の背中を強く刺す風が吹いた。その風はこの季節にしては暖かすぎる風だった。

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ウィステリアの花園 るなち @L1n4r1A

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