ラッキーセブンで当てたコーヒー

黒木メイ

ラッキーセブンで当てたコーヒー

 音が鳴った。自販機には『777』が表示されている。

「それ当たりよ。もう一本もらえるわよ」

 近くにいた親切なおばさまが教えてくれた。

 もう一本……迷った末にさっきと同じコーヒーのボタンを押した。

 ルーレットが回る。今度は外れた。


 インターホンを鳴らすと解錠の音がした。扉を開ける。

 目が合うと彼は流れるような土下座をきめた。


「ごめん! 彼女とは酔った勢いで……俺が愛しているのはおまえだけなんだ!」


 と変わらない彼の言い分に思わず溜息が出そうになる。


「わかってる」


 そう言うと彼は笑顔を浮かべて立ち上がった。


「わかってくれると思ってた。上がっていく?」


 もはや呆れて言葉もでない。首を横に振って答えた。


「今からお母さんを駅に迎えに行かないといけないから」

「それなら仕方がないか。わかった。じゃあ、また連絡ちょうだい」


 私は返事をせずに鞄から缶ボトルコーヒーを取り出した。


「コレ自販機で当たったの。あげる」


 鞄からのぞくコーヒーを見て彼はなるほどと頷いた。


「ありがとう」

「じゃあ」

「ああ、またな!」


 それ以上彼の笑顔を見ていたくなくてさっさと部屋を出た。


 足早に駅へと向かう。

 着いた時にはちょうど母が改札を出たところだった。


「お母さん」

「まあ、久しぶりね……だいぶ痩せた?」


 私の姿を見た母は開口一番にそう言った。

 思わず苦笑する。


「仕事が忙しいから」

「程々にしなさいよ。そういえばあの彼氏とはどうなの?そろそろ結婚は」

「しないよ」


 しまった。強く言いすぎた。


「あー……そうだこれ」


 鞄から缶コーヒーを二本取り出して片方を母に差し出す。


「ありがとう」


 母はプルタブを開けると早速口をつけた。

 私も手袋を外してプルタブを開ける。


「コレ自販機で当たったの」

「あら、今日はラッキーデイなのかしらね」

「かもね」



 ────コーヒーが苦手な彼にとってはアンラッキーだろうけど。特にあれはだから。

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