第④話 白濁セレブと『スタア★ウォッズ』
★★★前回のあらすじ★★★
今夜の21:00に合衆国の超大物、
アメリカ最上級国民の元大統領で支配者層の中の支配者、
ロナウド・ジョーカー氏がお忍びでお嬢様に会うために来賓する。
僕は、主賓のジョーカー氏に提供する唐揚げちゃん
レッドホットチリペッパー風味を調理させられる羽目になった。
唐揚げの調理は僕の専門外だから憂鬱だ。
★★★前回のあらすじ★★★
ローソンの唐揚げちゃんは冷凍されたものを
油で揚げるという単純な調理法だということを
Wikipediaで知り安心した僕は、
ローソンお嬢様御殿三号支店で二袋ほど、
唐揚げちゃんレッドホットチリペッパー風味を分けてもらい、
ジョーカー氏が来賓する一時間前の20:00まで、
仮眠をとることにした。
まあ、何のことはない。
安心ついでのお昼寝とでも言っておこう。
久方ぶりの安らかなお昼寝であったが、
そのまた一時間前の19:00に、お嬢様が僕を
忙しなく揺さぶって強引に叩き起こす!
「起きなさいよ!!早く起きないと生理的に永眠させるわよっ!!!」
生理的な永眠とはまさしく、死を意味する単語である。
「はい!すみません!今すぐ!今すぐ行きます!
ってお嬢様、まだ二時間前ですよ?早いですよね!?」
「はぁ!?!?!?」
「あんた、まさか、あたしが1秒たりとも遅刻できない立場だってことを
わかっているくせに、あたしの時間感覚を疑うわけ?」
「いえ、滅相もございません。」
「しかしお嬢様、ここは卑しい下級国民である僕の仮眠室なんですが、
あなたのような高貴な方が入ってこられてもよろしいのでしょうか?」
「はぁ~ん?あんた何言ってんの???」
「ここは、あたしが占有する敷地内よ????」
「はい。」
「そして、この部屋は、お嬢様の底辺奴隷である僕が住むための部屋です。」
「そう。」
「だから、この部屋にあたしが入ることに、なんの問題もないでしょ。」
「なるほど。」
「それにしても、あんたが、
こんないい部屋に住んでるなんて思わなかったわ。」
お嬢様は部屋の中を見回している。
「お嬢様のおっしゃる通り、この部屋も、お嬢様御殿の一部なんですよ。」
「でも、5年前の土砂降りの夜に、行き倒れになった僕を見つけて
『あんた、惨めすぎるからちょっとここに住んでみなさいよ。』
って言って助けて下さったんですよ?お忘れですか!?」
「は???????」
お嬢様は眉間にシワを寄せながら、僕を睨みつけている。
「ああ、ごめんなさい。
お嬢様は僕みたいなゴミクズ底辺貧民のことなんか
覚えてないんでしたよね。」
お嬢様に睨みつけられて萎縮した僕は
思わず皮肉を口にしてしまった。
「そんなこと一言でも言ったかしら?フンっ!まあいいわ!!
許してやるわよっ!!!あたしは大海の如く心の広い淑女ですもの。」
「ふんっ!気持ちよく寝てたのに、いきなり起こしやがって!
デリカシーのないクソボケ高慢ムシケラ女めっ!!」
しまった。ついつい心の声を口に出していってしまった。
どうしよう?お嬢様のご機嫌を損ねると後が怖い!
「あ、あの、お嬢様。これは、ついつい本音が……」
「はあ!?!?!?!?!?」
お嬢様は僕の言葉を遮るように、
手首のスナップを利用して僕の顔面に
すさまじい威力の平手打ちを繰り出した。
「ぐはあっ!?!?!?」
僕は壁に叩きつけられた。
鼻血が止まらない。
「すみません。お嬢様。申し訳ありません。」
僕は鼻血をぬぐいながらお嬢様に平謝りだ。
(くそっ!今に見ていろ!!いつか革命を起こして、
てめぇを僕の慰み者にしてやるッッ!!)
「くそっ!今に…おっとっと、
今日の大便はちょっと硬かったかな~。アハハ~。」
ヤバいヤバい、正直者が馬鹿を見るというのはまさにこれだ。
「そんなことより、あんたはジョーカー氏に
全裸ヒゲダンスを披露することになったのよ?光栄に思いなさい!」
なっ…!?唐揚げの調理に加えて、全裸ヒゲダンスだとぉぉ~!!!
「あたしの歌う『プリってぇんだぁぁ』にあわせてあんたは
全裸でヒゲダンスを踊るのよ?ジョーカー氏は好奇心旺盛な性格だし、
中々洒落た余興だと思わない!?クスクス。」
じょ、冗談でしょ?午前中の悪夢が現実に………。
「で、でも、お嬢様、どうして急に、
僕をジョーカー氏の接待係に任命したんですか?」
「え?あんた、そんなこともわからないの??」
「はい。わかりません。」
「仕方がないわね。」
お嬢様は腕を組みながら、僕に向かって話し始めた。
「あんたが、ジョーカー氏と会うのに
相応しい人間かどうか試したいのよ。」
「えっ!?」
「つまり、あんたが、あたしの奴隷として
相応しい器なのか見極めたいのよ。」
「あんたが、あたしの奴隷としてふさわしい男なら、
んたは、あたしにとって有益な存在になるわ。」
「逆に、あんたが、あたしの奴隷には不適格な男だったら、
あんたはあたしにとっては、
正真正銘廃棄処分に値する有害なゴミクズね。」
「だから、あんたが、あたしにふさわしい男か確かめるために、
あんたをジョーカー氏の来賓に招いたのよ。」
僕は試されているのか?これは試練なのだろうか??
またいつものようにお嬢様にからかわれ、
そして言いくるめられてしまうだけなのだろうか???
しかし………、
「やります!やらせてください!!
立派に僕がお嬢様の専属奴隷であることを、
ロナウド・ジョーカー氏にアピールいたします!!!」
気が付いたら僕は高らかに、お嬢様に向けて
「底辺奴隷宣誓」を行ってしまっていたのだ!
僕は超低能バカボンのパパなのだろうか!?
オリンピックのスポーツマン宣誓とはわけが違うぞ!?
いや、僕は生まれながらに
底辺ゴミクズウジ虫奴隷なんだから仕方がないのだ。
「そう?それじゃあ、よろしく頼むわよ?」
「もうあんたが裸でヒゲダンス踊るって、
ロナぽんにライン入れといたから、英語で。」
「え?あっ…はぁ!?は…はいっ!!!」
こうして僕は、お嬢様の底辺奴隷であることを証明するために、
結局全裸でアメリカの超大物主賓の前で、
ヒゲダンスを踊らされるハメになったのであった。
それにしても『ロナぽん?』確かにお嬢様はそう言った。
ロナウド・ジョーカー氏のことだろうか?
あだ名で呼び合う仲なのだろうか?
そして彼はお嬢様に気がある………らしい。
僕が『正真正銘のお嬢様専属奴隷』であることを
彼にアピールする以外道はないのか…。
僕は支離滅裂だが、意味不明の「覚悟」とやらを決めた。
お嬢様の『プリって』にあわせて全身全霊を込めて踊り狂う
全裸ヒゲダンスのリハーサルに余念がない僕は
もはや九割方羞恥心が消し飛んでしまったのだろうか。
そうこうしているうちに、
大資産家で元大統領のロナウド・ジョーカー氏が
お嬢様御殿に到着したらしい。
僕の予想通り、周りに2メートルを超えるような、
いかにも屈強なSPや軍人を従えての登場であった。
真っ赤な衣装で着飾った数人の美人秘書も何故か彼に同行していた。
お嬢様の周りには僕と執事長のハインリヒ近藤と
執事副長のセバスチャン土方、
そのほかに執事たちの中で有力武闘派として名高い
執事組長のアルフレッド沖田やシュナイダー長倉、
ベンジャミン斎藤らが続いた。
僕は一見正装だが、破れやすく脆い素材の服を着ている。
そう、素早く服を破り捨てて、お嬢様が歌うサプライズの
『プリって』にあわせて全裸ヒゲダンスを踊るためである。
それはさておき、
一瞬ジョーカー氏とお嬢様の間に緊張の空気が走った。
出会った瞬間によくあるアレである。
しかし、ジョーカー氏が顔を緩めて気さくな笑みを浮かべ、
「OH~ッ!サッチャ~ン!!オオキクナッタネ~!!!」と
お嬢様にいきなりハグをした。
僕は軽く自分の唇を噛んだ。
それが何故なのかはご想像にお任せする。
お嬢様も、「ロナぽんひさしぶり~♪
奥さんとは上手くいってるぅ~!?」
などと砕けたアメリカンジョークを飛ばしつつ、
ジョーカー氏のほっぺたに
アメリカン式のキッスを3回も繰り返した。
僕は今度は軽く舌打ちしてしまった。
しかし、それは誰にも聴こえない程度の密やかな抵抗だった。
そして二人はにこやかに固い握手を行った。
「サッちゃん?それがお嬢様のお名前なのか。」
ぼくは心の声をついついまた、ポロっと口から出してしまっていた。
僕の隣に立っていた、屈強な大男で執事三番隊組長である
普段は無口で通っているベンジャミン斎藤が、
重たい口を開き小声でつぶやいた。
「増多部サチコ、それがお嬢様の本名だ。
他言無用。外には漏らすな、消されるぞ。」
「マスタベサチコ…。」ぼくは唾をゴクリと飲み込んだ。
「消される」というワードに反応したからではなく、
お嬢様のご本名を生まれて初めて知ることができたからだ。
増多部サチコ、特に変わったところがない
お嬢様らしからぬ平凡なお名前だが、
僕にとってはとても崇高で気品に満ちた響きだった。
いかんいかん、お嬢様のご本名に感動している場合ではない。
このセキュリティーでテロなど起こる心配はまずないだろうが、
奴隷としてはご主人様である、お嬢様を注視しなければ。
お嬢様は頭にバラの花飾りと前開きシースルーブラウス以外は
いつもと同じホワイトサイハイソックスに
ホワイトエルボーグローブという生まれたままの姿に近い出で立ちだ。
ジョーカー氏は高そうなオーダーメイドのスーツに深紅のネクタイ、
そして何故か頭に真っ赤な広沢カーブの帽子をかぶっていた。
彼はカーブファンなのだろうか。
それにしても、これは「CMNF」というジャンルなのだろうか。
高級スーツで身を固めた米国の元大統領と、前開きブラウス以外は
ほぼ生まれたままの姿の「増多部サチコお嬢様」。
極上の名画である、エドゥアール・マネ「草上の昼食」のような
倒錯的雰囲気が妖しく辺りを包み込む。
お嬢様が「あ~ん、なんだか久々にロナぽんに会えて、
あたし興奮してきちゃった。」
「あっ、あっ、あっ、あぁあああああん♥」と
お嬢様がジョーカー氏に抱きつきながら喘ぎ声を上げ始めた。
お嬢様はもちろんこれまで、
僕たちにはこんな砕けた雰囲気を見せたことはなかった。
お嬢様のおちんちんが、想像を絶するほどに膨張し激しく脈打つ。
「んほっ♪んふっ!あはぁあああ!!
あひぃいいいん!イッ!イクゥウウッ!」
お嬢様は腰をくねらせ、ガクンガクンと身体を痙攣させ、
ジョーカー氏のスーツめがけて、大量の精液を放出した。
ジョーカー氏のスーツはお嬢様が放った
大量のザーメンでベトベトになってしまったのだ。
お嬢様は恥ずかしげもなく
「あっあっあっあっあっあっあっあっ
あっあっあっあっあっあっあっ……」
と絶頂の余韻に浸りきっている。
初めて見るお嬢様の意外な表情に興奮したのか、
僕もうっかり軽く射精してしまった。
栗の花の香りが周囲に立ち込めた。
ジョーカー氏のSPたちや、お嬢様の親衛隊である執事長たちは
全くそれには動じず、無言だった。
流石に彼らは侮れない。プロ中のプロである証拠だ。
ただ、僕とロナウド氏専属の美人秘書たちは
ほんのりと顔を赤らめ、ぽかんと口を開けて放心していた。
「ロナぽん、ごめんなさい。久々の再開で粗相しちゃた…。
バカでポンコツな私を叱って下さい!
ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」
お嬢様がジョーカー氏に謝罪の言葉を述べた。
こんなお嬢様は初めてだ。
「Oh, Sachiko!! Don't worry.(気にすることはないよ)」
とジョーカー氏が優しい笑みを浮かべ、
お嬢様の頭を撫でた。
「ロナぽん、許してくれるの?」と涙目になるお嬢様。
「ロナぽん」ことジョーカー氏は、お嬢様に微笑んだ。
「OKサッチャ~ン♪」
そう言うとお嬢様とジョーカー氏は濃厚なキスを交わした。
「ダメだぁぁぁーーーーーーーッッッ!!!!!!!」
僕は気づいたら大声で叫んでいた。
さすがにジョーカー氏も僕の突然の奇行に
怪訝そうに顔をしかめて、
「ナンデスカ?」「ダメーダ!?」「アイドンノー???」
「ワタシ、ニホンゴ、タンノーダケド、
ソノニホンゴ、ヨクワカンナイネ!!!」
と困ったように、広沢カーブの帽子を
ウルトラマン型に変形させていた。
しまった、僕が感情に任せて大声で叫んだせいか、
何だか気まずい雰囲気になってしまった。
無反応だったSPや軍人たちまでもが、僕を注視し始めた。
「大丈夫です、ミスタージョーカー、
彼は『ダークメイダー』と言ったんです。」
普段は無口である執事三番隊組長である
ベンジャミン斎藤が落ち着いた口調で
ジョーカー氏にこう告げた。
「最近日本で流行ってる一発ギャグでね、
彼はあなたが『スタア★ウォッズ』の大ファンだということで
サプライズを行ったのですが、
ちょっと感情が暴走して変な空気になってしまったと。
そういうことなんじゃないでしょうか。」
と、流暢な英語で弁解したらしい。
(後日談でハインリヒ近藤執事長から聞きました。)
僕は下級貧民であり申し訳程度の英語教育しか享受していなかったので
残念ながら聴き取れなかったが、
さすが『中級国民・執事親衛隊』と言ったところだろうか。
気をよくした、ジョーカー氏は、
「OH! チミモ、『スタア★ウォッズ』ノダイファンカネ。」
「スタア★ウォッズのファンニ、悪人ハイナイトイウカラナ!
チミノコトモ相当気ニ入ッタゾ?ウホホホッ!
ストロングアメ~リケ~ン♪」
ご機嫌にアメリカの歌を口ずさむジョーカー氏。
「ナイスだ、沖田ッ!」
セバスチャン土方執事副長はアルフレッド沖田の肩を軽くポンと叩いた。
アルフレッド沖田は半笑いの呆れ顔で、こう答えた。
「嫌だなあ、土方さん、お手柄なのは斎藤さんですよ?
いい加減に隊員の名前、ちゃんと憶えてあげてくださいよ~。」
ハインリヒ近藤執事長はそのやり取りを聴いて、
「エヘンエヘン」と小さく咳払いをした。
元大統領で大富豪のジョーカー氏を
歓迎する夜の宴はまだ、始まったばかりなのである。
つづく
お嬢様は働かない① なまけものシリーズ @sugayama_kouzo
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