7年の不幸

くまの香

7年の不幸

この会社に入社して今年で7年目。

いい事なんかひとつもなかった。

嫌な事は山ほどあった。

何でこんな会社に入っちゃったかなぁ。


そもそも7年前にこの会社に決めたのは、当時凄く仲の良かった親友が「同じとこを受けようよ!」と強引に誘ってきたからだ。

彼女の勢いに流されてふたりで受けたけど、受かったのは私だけだった。

それから彼女の態度は変わった。

私からの連絡を全て無視するようになり、グループLINEも私以外が一斉に抜けた。

あとで知ったけど、彼女が私の悪口を言いまくって別にグループLINEを立ち上げたんだって。

けど私は私で、あの頃は仕事を覚えるのに手一杯だったし、同期や同僚といった新しい人間関係もあったので学生時代の友人と疎遠になった事はさほど気にならなかった。


2年目には同じ課で彼氏が出来た。

けど、同期の女に奪われた。

相談にのるフリをして実は…。あ〜あ、女の敵は女。

しばらく恋愛はいいや、と仕事を頑張った。


3年目、上司から褒められるようになると、同僚から嫌がらせを受ける様になった。

同僚と言っても向こうは入社25年、高卒だから43歳のお局さま。

毎日聞こえよがしの悪口を言う。

放っておいたら、離席のたびに物が無くなるようになった。

重要書類をゴミ箱に捨てられた時はヒヤッとした。マジ勘弁して。

仕事に支障をきたす事が増えたので、上司に相談した。


4年目、いきなり本部の人事課から呼び出された。

会社宛に無記名で私への苦情の手紙が届いたそうだ。

私を加害者にした被害者からの訴えのように見せかけた手紙だったが、書かれていた内容が支離滅裂だったため、人事課も頭から信じていなかった。

逆に心配され、何かあったらすぐに相談する様に言われた。

もう脱力と寒気が止まらなかった。

幼稚な文章がお局の悪口に似ていた。あのおばさん、マジこわ。


5年目、新人の教育を任された。

5分前に言った事も覚えていない。

どうしよう、どうしたらいいの?この子。

とりあえず重要な事は忘れないように付箋をデスクに貼ってみた。

上司に呼び出された。

仕事を押し付けてる?重箱の角を突くように説教してくる?机に悪口の付箋を貼られた?

上司から教育係を外された。………結果オーライ?


6年目、上司のパワハラが始まった。

あの新人ちゃんの言う事を間に受けて私を責め立てるのに生き甲斐でも感じてるのか。

部長が離席した途端に呼び出して、私を立たせたまま1時間説教する。

最初の頃は言い返していたが、ひと言言い返すと百倍になって返ってくるので最近は言い返さない事にした。

新人ちゃんとお局さまが私を見てニヤニヤ笑いながら話をしてる。

急に説教が止んだと思ったら、ああ、部長が席に戻ってきたのか。


もう、疲れたなぁ。

これじゃ会社にいびられに来てるようなもんだよ。

普通に仕事がしたいなぁ……。辞めよっかな。


7年目、全職員が受けているメンタルチェックに引っかかり、カウンセリングコースになった。

受けてみたら休職を勧められた。

けど、辞めた方が絶対スッキリする。うん。退職しよ。

退職届を持って出社した日、何気にチェックした宝くじが当選してた!

うそでしょ!7億円!

即、退職届をパワハラ上司に叩きつけてスキップで職場を後にした。

その足で宝くじ売り場へ、そして銀行へと手続きに向かった。

当選金の振込口座を登録して銀行を出た交差点で、車に撥ねられた。


視界が暗くなっていく中、最後に浮かんだ言葉。


『何で!7億円…まだ1円も使ってないのに!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7年の不幸 くまの香 @papapoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ