殺人屋アンラッキー7

久河央理

第1話 不幸を呼ぶラッキー7

 捕縛されることも、拷問紛いなことをされることも、よくないことだろう。殺人屋ならば尚更だ。


 だが、その青年はいとも簡単にそうされる。それを防ぐ必要がない、というのが大きな理由だった。むしろ、都合がいいまである。


「よし、この7も乗り切った。大丈夫だろ、しばらく7のつく時間は来ない」


 彼を多少なりとも知るのならば、大抵こう言う。


 二十代前後で、仲間もいなさそうで、それなのに毎度きっちり依頼をこなす――そんな男を警戒しないわけがない。だが、人間は油断をする。


 倉庫で天井から吊るされたまま、青年は薄っすらと口角を上げた。



 ……そうでなければ大丈夫だと、言った覚えはないのに。





 青年は昔、奇跡の子と呼ばれた。セブンに愛され、祝福を一身に受けた少年だと。


「おーい、こっちだ! 7号車!」

「7列目D席! 通路側に7歳の男の子が!」


 息を呑むほどの大事故で、たったひとり生還した。彼の家族を含む乗員乗客が全滅する中、唯一生き残った男の子は――祝福アンラッキーセブンを利用する殺人屋となった。





 数字とは案外、生活に潜んでいる。プロならば当然、潜ませようと思えば、いくらでもできるのだ。



 倉庫のすぐそばで大爆発が起こり、敵組織に動揺が走る。


「何事だ! 7は避けた、こんな爆発事故が起きるわけが……!」


「拳銃、弾、ピアス……どこにも数字は潜んでいる。そして、一日が二十四時で終わる必要はない……」


 ようやく口を開いた彼は、にんまりと笑った。


「午前三時……いや、27時7分」


 奇跡の祝福を与えるために、土台となる周囲を巻き込む不幸アンラッキーが付きまとう。


「7は……僕にとっての不幸の数字。7が揃えば、僕以外はいなくなる」


 もはや残骸となった倉庫を後にする。今日もまた、7の勝ちだった。




 自ら手を下すまでもなく、周囲を巻き込んだ祝福アンラッキーセブンが起こる彼の望みは、たった一つ。


 いつか、このラッキー7の祝福を――アンラッキー7の呪いを壊したいだけだった。

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殺人屋アンラッキー7 久河央理 @kugarenma

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