追放されたアンラッキー7

沢田和早

追放されたアンラッキー7

 その日は7にとって人生最悪の出来事で始まりました。唐突にアンラッキー7法が施行されたのです。


「本日より7の使用を禁止する。そのために10進法を廃止し7進法とする。7は国外追放。用済みとなった8と9はこの国に留まってもよいが活躍の場は一切ない。なお7が退去した後は7進法を10進法と呼称する。以上」

「じょ、冗談じゃないよ。いきなり出ていけって言われて素直に出ていけるわけないだろ」


 憤慨した7は用済みになった8と9と共に王城へ向かいました。驚くべきことに王様が直接出迎えてくれました。その国はずっと以前から国力が衰退の一途をたどっており、優秀な家来は全員、逃亡したり亡くなったり精神に異常をきたして使い物にならなくなったりしていたからです。


「で、君たち何の用事?」

「王様、教えてください。なぜ私が追放されなければならないのですか」

「ああそのこと。なんかさあ、旅の占い師に『7はアンラッキーなので使わないようにすれば国は繁栄する』とか言われちゃったんだよね。で、7進法にしちゃったわけ。7進法なら6の次は10だから7を使わなくて済むでしょ」

「そんな根拠のない戯言を信じるとはどうかしております。もう一度お考え直しください」

「だったら君が国を繁栄させるためのもっといい政策を教えてよ。そしたら考え直してあげてもいいよ」

「うっ!」


 7は困りました。単なる数字である自分にそんな政策を考え付けるはずがありません。8と9も一所懸命に知恵を絞りましたが所詮は数字、何も思い付きません。結局3人は諦めて国を出ていくことになりました。


「すまない8、9。アンラッキーはボクだけなのに君たち2人まで巻き込んでしまった」

「気にするな7。あんな貧乏王国、こっちから願い下げだ」

「そうだよ。世界にはもっといい国がきっとある。そこで暮らせばいいだけのことさ」


 こうして3人の長くつらい旅路が始まりました。

 7の意気消沈ぶりは見ていて哀れになるほどでした。なにしろ7には「ラッキーセブン」という二つ名があり、幸運をもたらす数字として国中の人々に愛されていたのです。

 その7が、数字界のトップアイドルとして君臨していた7が、一夜にして転落し国外追放を言い渡されてしまったのです。受けたショックは都落ちした平家一門の比ではなかったことでしょう。


「ふふふ、おまえたち、かなり落ち込んでいるようだな」


 荒れ地をとぼとぼ歩く3人の前に、突然怪しい人物が現れました。


「お前は誰だ」

「私は占い師、しかしその正体は悪魔だ」

「占い師の姿をした悪魔だと。もしや王様にアホな政策を吹き込んだのはおまえか」

「その通り」

「7を追放したくらいで国が繁栄するわけないだろ。どうしてこんなアホでもわかる戯言で王様をだまそうとしたんだ」

「おまえをこの世から消し去るためだ、7」


 それから占い師の姿をした悪魔の話が始まりました。悪魔は7をとても憎んでいたのです。それは7に宿っている幸運属性があまりに強すぎるためでした。

 悪魔が徹夜して人々を苦しめる方法を考え、汗水たらしてその方法を実行に移し、ようやく人々を不幸のどん底に突き落としても、7の幸運力によって簡単に不幸から立ち直り幸福を掴んでしまうのです。その度に悪魔ははらわたを煮えくり返らせて悔しがっていたのでした。


「7は敵だ。自分にとってアンラッキーの象徴だ。アンラッキー7はこの世から抹殺されなければならぬ!」


 ということで今回の復讐とあいったわけです。


「弱小国に取り入って7進法を採用させ経済活動を混乱させる。国力は低下しあっという間に他国に滅ぼされる。これを繰り返していけば世界はやがてひとつの国に支配されるようになるだろう。その時、最後の仕上げとして統一国家に7進法を採用させるのだ。これでアンラッキー7はこの世から完全に消滅する」

「7だけじゃなく8と9も消滅するじゃないか」

「何事にも犠牲はつきものだ。運が悪かったと思って諦めてくれ」

「く、くそ。おまえの思い通りにはさせないぞ」

「ふっ、たかが数字如きに何ができる。それにもう私の思い通りになっているではないか。せいぜい頑張って荒れ地で野垂れ死ぬがいい。はっはっは」


 占い師に化けた悪魔は高笑いをして去っていきました。


 それから3人は旅を続けました。まだ悪魔が訪れておらず10進法を採用している国を見付け、仕官を申し出ましたが、


「7、8、9は埋まっているんだ。きはないよ」

「そこを何とかお願いします」

「ダメダメ。無理に雇ったら数字の並びが6778899になってしまうだろ。よそを当たってくれ」


 だいたいこんな感じで追い払われてしまうのです。7進法の国を見付けて元の10進法に戻すことを提案しても、


「だったら7進法に代わる国力増強の名案を教えてくれ」

 と言われるか、

「それでは検討させていただきます」

 と言われて返事を待っていうちに他国に攻め滅ぼされてしまうか、そのどちらかでした。

 3人はすっかり元気をなくしてしまいました。


「やはり諦めるしかないのか」

 8がポツリとつぶやきました。

「オレたちは消え去る運命なのかもな」

 9がその場にしゃがみ込んで肩を落としました。


 7は申し訳ない気持ちでいっぱいでした。そして自分のアンラッキーに巻き込まれてしまったこの2人だけは絶対に助けなくてはならないと思いました。ついに7は決心しました。


「2人とも聞いて。実は現状を打開する方法がひとつだけあるんだ」

「なんだって!」

「どんな方法だい」


 詰め寄る2人に向かって7は静かにゆっくりと言いました。


「悪魔に協力するんだよ」


 7が思い付いた方法は単純明快でした。


「悪魔は自分を憎んでいる。その理由は自分の幸運属性が悪魔の邪魔をしているからだ。では悪魔の邪魔にならないようにするにはどうすればいいか。自分の幸運属性を不運属性に変えてもらえばいいんだよ。そして不幸をまき散らす存在になるんだ。そうすれば悪魔の仕事ははかどり、自分を憎むこともなくなり、7進法を広げるなどという愚行もしなくなるだろう」


 7の話を聞いた2人は沈黙しました。それが問題解決の唯一の方法であることに疑問の余地はありません。しかしそのためには7を犠牲にしなくてはならないのです。


「そんなことをしたら、おまえは本当にアンラッキー7になってしまう」

「いいのか7。幸運の象徴として世界中の人々に愛されたおまえが、今度は不幸の象徴として忌み嫌われるようになるんだぞ」

「いいんだ。君たち2人を救えるのなら、アンラッキー7の汚名を着せられるくらい安いものさ」

「7、おまえってヤツは……」


 7の意思は変わりません。8と9は7の友情に感激して涙を流しました。


 こうして7はアンラッキー7として生まれ変わりました。7が自分の側に付いたことで悪魔の「7進法普及復讐大作戦」は中断し、数字界は以前と同じように10進法が主流になったので8と9は無事復帰することができました。今では7は不幸の数字として世界中の人々から疎んじら、嫌われ、避けられています。


 そんな様子を苦々しく眺めている者がいました。天使です。


「7は目障りですね。私が幸福にしてあげようと努力しても、強力な不運属性のためにすぐ不幸になってしまいます。アンラッキー7、追放しなくてはならないようですね」


 天使は占い師の姿に変身すると地上に降りました。世界に7進法を広めてアンラッキー7を駆逐するためです。アンラッキー7のアンラッキーはまだまだ続くようですね。めでたしめでたし。

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