【KAC20236】僕のラッキーは、誰かのアンラッキー
リュウ
第1話 【KAC20236】僕のラッキーは、誰かのアンラッキー
「よっ、圭介、帰り?」
僕の背中を突いたのは、同級生の直哉だった。
「お前かぁ、何して……」と言いかけて隣にいる女性に気付いた。
沙也加だ。
ストレートの艶のある長い髪に清潔感のある制服だった。
沙也加は、僕らの憧れだった。違う高校に通ってたけど。
なぜ、沙也加がここに?
僕は、目を丸くして沙也加を見つけた。
僕の瞳孔が開いていたことに気付いたかもしれないと思った。
「そこで会ったんだ」
直哉が、言葉が出ない僕の肩を叩いた。
「久しぶり」
彼女は笑いながら言った。
「暇なら、一緒に話そうよ」
「えっ、俺も?」
邪魔にならないかと気になったけど、僕も沙也加が好きだったので、ついていくことにした。
結局、一階のファミレスに入った。
直哉は、気合が入っていた。
エンジン全開で、沙也加にアピールしている。
なぜ、僕が誘われたかが、分かって来た。
僕を引き合いにだしたかったのだ。
嫌だったけど、沙也加の声が聞けるだけでもいいかと思っていた。
僕は、二人の話の聞き役だ。
ただ、うん、うんと聞いていた。
直哉と僕は、正反対だった。それだから、一緒にいれたのかもしれない。
直哉は、運動系でオールランドプレイヤーって感じだった。
なので、体育の時間なんか目立って結構、モテたと思う。
僕は、反対の文化系というか、読書や映画が好きだった。
楽しそうにしゃべる二人を見ていた。
だが、それは突然、やってきた。
直哉の話が止まったのある。
話題が尽きたという感じだ。酔っ払いの親父のような同じ話をクドクドと繰り返すと印象がマイナスになってしまう。
ちょっと、トイレと言って直哉は席を外した。
沙也加は、直哉がトイレに入るのを見届けると話しかけてきた。
「話さないのね、圭介君は……」と、カシスオレンジジュースをストローで飲んだ。
「いや、二人の話を訊いているだけで、楽しいよ」
「そう、それならいいんだけど」
「私、あまり、運動系の話は苦手なの。何というか、興味が……」
「えっ、何の話が好き?」
「本とか、映画とか……」
これは、ベースボールで言えば、ラッキー7ではないかと思った。(ラッキー7の語源を考えると、”野球”ではなく、”ベースボール”のラッキー7だ)
野球の7イニングが流れが変わるのと同じように、直哉の話題も尽きて来たようだ。
これからは、僕の攻撃。
「こんなのは、どう?」僕は、鞄から小説を取り出した。
「あ、知ってる。私、まだ、読んでいないの。面白かったぁ。いや、待って、話さないで」
と、小説を手に取った。
「それ、読み終わったから、良かったらあげるよ」
「いいの?ありがと」沙也加は、嬉しそうに鞄にしまった。
これは、ラッキー7どころか、9回裏での逆転ホームランになるかも。
「実は、私、話を訊いてくれる人が好きなの」
沙也加は、声を潜めて言った。
これって、本当にラッキーな展開では。
僕のラッキーは、直哉のアンラッキーとなった。
それから、本や映画の話をした。
僕は、キラキラした目で語る沙也加が大好きになってしまった。
そして、僕たちは「またね」と別れた。
「あ、沙也加さ。空手部の佐々木に交際を申し込まれているんだって。佐々木はヤバいよな」
直哉が別れ際に言った。
沙也加を好きになったことは、僕にとってラッキーかアンラッキーなのかは、神様が知っている。
【KAC20236】僕のラッキーは、誰かのアンラッキー リュウ @ryu_labo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます