七福神巡りをしたら災難ばかりだったけど、憧れの彼と急接近しちゃいました!

みすたぁ・ゆー

七福神巡りをしたら災難ばかりだったけど、憧れの彼と急接近しちゃいました!

 

 私――安楽あんらく南菜ななは寺社を巡って御朱印集めをするのが趣味だ。


 パワースポットを巡って幸運を掴みたい――という気持ちはゼロじゃないけど、それよりは建物に施された彫刻やキレイに整えられた庭、その地域の歴史などを知るのが楽しいからという理由の方が大きい。


 それと神社やお寺の空気が好きだから。澄んでいて厳かで、その場にいるだけで心が洗われていく気分になる。


 そして高校へ進学して初めて迎えたお正月。すでに元日に近所の小さな神社へ初詣をしているけど、今年はそれとは別に寺社を巡ろうと思っている。


 というのも、私の地元には七福神を祀る寺社が7つあり、1月1日から7日までそれらを巡って参拝するという『七福神巡り』が行われている。それをやろうというわけだ。


 参拝者は宝船が描かれた色紙を持って巡り、各寺社で御朱印をいただいていく。その色紙は持ち帰り、自宅の玄関や神棚などに飾って幸運が舞い込むことを祈る。


 もちろん、色紙じゃなくて御朱印帳にいただくのでも構わない。ただ、色紙の方が飾っておきやすいということで、そちらを選ぶ人の方が多い。私も今回の七福神巡りでは色紙に御朱印をいただいていくつもりだ。


 それに普段から使っている御朱印帳だと、一気に7ページ分を使うことになってしまうから。




 こうして迎えた今年の七福神巡りの最終日となる1月7日。私はスタート地点となる一先いちさき神社へ徒歩でやってきていた。ここには毘沙門天びしゃもんてんが祀られている。


 私は鳥居の前に立ち、まずは一礼。そのあと左足から境内へ入る。


「やっぱりお正月はたくさん人がいるなぁ。地元の小さな神社だから、普段はほとんど人がいなのにね」


 お正月ということに加え、七福神巡りのスタート地点ということもあって周囲にはたくさんの参拝客がいる。ただ、満員電車みたいな混み方じゃなくて、見える範囲に十数人いるかどうかといった程度だ。


 早速、私はお社へ向かう。参道は神様の通り道である中央を避け、左右どちらかを進む。ちなみに右側か左側は神社によって異なるので、中央さえ避ければ大丈夫。この神社では私は左側を歩いていく。


 そして手水舎ちょうずやに着くと柄杓ひしゃくを右手で取り、水を汲んでまずは左手を清める。次に持ち替えて同様に右手。さらにまた持ち替えて左の手のひらに水を注ぎ、その水で口をすすいで静かに吐き出す。


 あとは最初のように左手をもう一度清め、最後に右手に持った柄杓に水を汲んで、それを立てかけるようにしての部分を清めて元の位置に戻す。


 ――少しややこしいけど何度もやっているうちに自然と覚えちゃうんだよね。


 もっとも、感染症が今よりも流行っていた時期は手水舎が使用中止になっていた神社も多かった。そういう時は心の中で清めたことをお祈りする。


 こうして辿り着いたお社では、お賽銭を入れて二礼二拍手一礼。拍手の手はわずかに左手が上に来るように。そしてお祈りの時は神様への自己紹介とお伝えしたいこと、神様に対する感謝と敬いの心を忘れずに。


 参拝が終わったら社務所の受付へ行き、七福神巡りの色紙をいただく。毘沙門天の御朱印を含めた初穂料はつほりょうは1500円のようだ。


 私は自分より何歳か年上くらいの巫女さんに声をかける。


「すみません、七福神巡りの色紙と御朱印をお願いします」


「それでは1500円をお納めいただきます。番号札をお持ちになってお待ちください。初穂料は色紙の受け取りの際にお渡しください」


「はい、分かりました」


 そう言って私は巫女さんから番号札を受け取った。そしてそれを見た瞬間、私は目を見開きながら思わず『おっ!?』と小さく声を漏らす。


 ――というのも、番号札に書かれていたのは『7』という数字だったから。


 新年早々、しかも福神巡りでラッキーセブンとは縁起が良い。もしかしたら今年は想像以上に良い年になるかもしれない。そんな期待が私の心の中で膨れあがる。


 一方、巫女さんは社務所の中にいる人へ合図を送り、その人が色紙に筆で御朱印を描き入れ始める。その作業は何人かで対応しているようだ。確かに七福神巡りをする人は私のほかにもたくさんいるわけだし、ひとりだと手が回らないもんね。


 手作業なので多少の時間がかかるけど、私は受付から少し離れた場所で焦らずじっと境内を眺めながら待つ。


 吐き出す息はまだまだ白くて寒い。でもこうしてお日様に照らされていると、ほのかに暖かさを感じる。今日は風がないから、なおさらそう思うのかも。平和って良いなぁ……。


「番号札7番でお待ちの方、お待たせしました」


 やがて巫女さんから声をかけられ、私は社務所の受付へ移動した。そして番号札とおカネを彼女に手渡す。


「ようこそお参りくださいました」


 巫女さんからそう声をかけられながら、私はビニール袋に入れられた色紙と七福神巡りのパンフレットを受け取った。


 色紙はA3サイズくらいで、中央には印刷された宝船。その回りは空白になっていて、そのうち右上の辺りに毘沙門天の御朱印が描かれている。要するに7つの寺社を全て巡って御朱印が揃うと、全体の見栄えも良くなるというわけだ。




 次に向かうのはここから1キロメートルくらい離れた二継ふたつぎ神社で、そこには大黒天だいこくてんが祀られている。


 私はパンフレットの地図で場所を確認し、そちらへ向かおうとする。




 ――と、その時!




 不意に太ももの辺りに何かがぶつかってきたような重い衝撃を感じ、私は前へ倒れ込んでしまった。咄嗟に手を付いたものの、右足首は痛みと熱を帯び始める。どうやら少し捻ってしまったようだ。


 顔を上げると、そこには4歳くらいの男の子が私と同様に尻餅をついている。つまりこの子がよそ見をしながら走るなどして、私にぶつかってきたんだと思う。


「キミ、大丈夫っ!? 怪我はしてない?」


 私が優しく声をかけると、その子はキョトンとしたまま静かに頷いた。それを見て私はホッしながら立ち上がり、男の子が立つのを手助けしてあげる。


 直後、その子の母親と思われる20代くらいの女性が駆け寄ってきて私に頭を下げる。


「すみません、うちの子がぶつかっちゃったみたいで。お怪我はありませんか?」


「あ……は、はい。大丈夫です」


 本当は少し足首が痛かったんだけど、気を遣わせてしまうのは悪いので黙っておくことにした。男の子だって悪気があってやったわけではないんだろうし。それに幼い子どもが元気なのは良いことだ。


 その後、母親は何度も私に頭を下げ、男の子とともに去っていった。私はその子に笑顔で手を振りながら、姿が見えなくなるまで見送る。


「やれやれ……」


 私は苦笑しながらその場を離れようとする。でも右足を踏み出した瞬間、電気のような痛みが足首全体に走り、思わず表情を歪める。


 じっとしている間は一時的に痛みが収まっていて、足を捻っていたのを失念していた……。


「軽い捻挫……かな……」


 屈んで右足首を優しく擦ってみると、ちょっとだけ感じがする。


 ――よし、この程度なら骨に異常はなさそうだ。


 もし骨にヒビが入ったり骨折したりしていたら、もっと痛くて動けないはずだから。とはいえ、無理をしたり走ったり体重を掛けすぎたりするのは避けた方が良いとも思う。


 だから私は近くのベンチに座って少し休み、それから出発することにする。幸いにも休んでいるうちにかなり痛みが収まってきて、だいぶ楽になってくる。この状態ならゆっくりであれば歩けるし、七福神巡りも続けられそうだ。


 ゆえに私は静かに立ち上がり、歩幅を狭めて静かに歩き出す。こうして私は二継神社へ向かい、普段より移動の所要時間がかかったものの無事に参拝を終えることが出来たのだった。




 次の寺社は三顧寺さんこじ。ここには布袋尊ほていそんが祀られている。三顧寺は二継神社の隣にあるので、二継神社の境内から道路へ出て何歩か歩けばそこが三顧寺の山門となっている。


 そして私が山門をくぐってお堂へ向かって歩いていこうとした時に事件は起こる。


 なんと門の上に留まっていたと思われる鳩がフンを落としてきたのだ。今の私は怪我で素速く動けない上、その足首に気を取られていたばっかりに気付くのが遅れ、コートの左腕の部分に大当たり。


 ほんの数秒でも腕を前へ出すタイミングがズレていれば、回避できたのに……。


「うぅ……最悪……」


 私はカバンからウェットティッシュを取り出し、直撃を受けた部分を応急処置的に拭いておいた。コートが白色で目立ちにくいのは良か――って、全然良くないッ!


 七福神巡りが終わったら、すぐにクリーニングに出さないとなぁ……。


「はぁ……」


 私は思わず深いため息を漏らした。新年早々、ツイていない。今年は厄年でもないのに、なんだか一年が不安になってくる。


 最初の御朱印をいただく直前には『番号札がラッキーセブンで縁起が良くて、もしかしたら今年は想像以上に良い年になるかも!?』なんて思っていたのに、それはとんでもない勘違いだった。あれはきっと『アンラッキーセブン』だったんだ。


 よく考えてみると、来週には13日の金曜日がある。西洋の一部ではその日が不吉とされているけど、私にとってはきっと7日の土曜日が不吉な日なのだ。


「はぁ……」


 またしても自然とため息が漏れる。ため息をつくと幸せが逃げるなんて言われるけど、私にはすでに不幸しかないので遠慮なんかしない。


 もはや怖いもんなんてないもんっ! はっはっは! ははは……はは……は……はぁ……むなしい。


 私は重い足取りでお堂へ向かい、お賽銭を入れてお参りをした。ちなみにここはお寺なので二礼二拍手一礼ではなく、静かに合掌する。


 そして寺務所じむしょで御朱印をいただき、七福神巡りを続ける。



 これくらいのことで負けるもんか! きっとこれは神様や仏様からの試練なんだ。乗り越えれば良いことがきっとある。それに今以上に悪いことなんて、そうそう続かない。



 私はそう自分に言い聞かせ、寿老人(神)じゅろうじんが祀られている次の四除寺しじょじへ向かって歩き出す。距離は約800メートルだ。


 ――が、私の災難は続いた。


 四除寺では階段を踏み外し、危うくスネを強打しそうになってしまった。さらに恵比寿えびすを祀る五功ごこう神社では御朱印の初穂料のお釣りを間違えられ、弁財天べんざいてんを祀る六波羅ろくはら神宮では境内にある池にハンカチを落としてしまう。


 こうして最後に辿り着いたのが、福禄寿ふくろくじゅを祀る七界しちかい神社。お参りを済ませて御朱印をいただけば、ようやく七福神巡りも終わりとなる。


 もちろん、これだけ災難が続けばここでもまた何かが起きそうな予感がしてならない。だから私はビクビクしながら参拝をする。ただ、結果的にその不安はなぜか杞憂に終わり、社務所で御朱印をいただくまで平穏に時が過ぎていったのだった。


 手の中にある色紙には、宝船を中心に七福神の御朱印が揃っている。苦労して集めただけあって、過去に色々な寺社を巡った時よりも感動が大きいような気がする。


「やったぁ……」


 私は万感の想いを噛みしめつつ色紙を優しく抱きしめる。


 自宅へ戻ったら玄関へ飾って毎日拝もう。あ、まずはコートをクリーニングに出さないといけないけど。


 私はホッと息を吐き、自宅へ帰ろうとゆっくり歩き出す。



 ――その時のことだった。



「あっ!」


 不意に突風が吹いてきて帽子が飛ばされてしまい、ストレートのロングの黒髪が激しくなびく。咄嗟に手を伸ばしても届かず、虚しく空を切るだけ。一先神社で七福神巡りを始めた時にはわずかな風さえ吹いていなかったというのに……。


 空高く舞い上がった帽子は遠くへ飛ばされ、程なくゆっくりと落ちてくる。ただ、急いで拾わないとさらにどこかへ飛ばされてしまうかもしれない。なのにこの痛む足では走れない。


 やっぱり災難は終わっていなかったのだ。


 ささやかな幸せに浸っている中から不幸のどん底へたたき落とされ、思わず泣きそうになる。


 私は必死に帽子の方へと歩いていく。どうか辿り着くまで飛ばされないでいてと祈りながら足を動かす。でも無情にもまた強い風が吹いてきて――。


「っと、危ない危ない」


 まさに帽子が飛ばされる寸前、誰かが私の帽子を拾ってくれた。その人は軽く帽子を叩いて砂埃を落とすと、それを持って私の方へ歩み寄ってくる。


 そしてその顔を見た瞬間、私は心臓がドキッと高鳴って全身が徐々に熱くなっていく。


「あれ? もしかして安楽か?」


 帽子を拾ってくれたのは、なんとクラスメイトの発田はった光雲こううんくんだった。彼は温かそうな茶色のモコモコジャケットにクリーム色のマフラー、藍色のジーンズを身につけている。


 発田くんはサッカー部に所属していて、学業成績は中の下くらい。性格は明るくて優しくて、ルックスは結構カッコいい。


 実は私が密かに想っている相手なんだよね。まさかこんな形で出逢えるなんて……。


 発田くんは目の前まで駆け寄ってくると、帽子を私の頭へ無造作に被せてくる。その際に彼の指がかすかに私の髪に触れ、私は照れくさくて瞬時に顔全体が熱くなる。


「安楽、帽子を飛ばされないように気をつけろよ」


「あ……う、うんっ! 拾ってくれてアリガトっ!」


「お前、こんなところで何してるんだ? って、その色紙、もしかして七福神巡りか?」


「そ、そうだよ……。ちょうど終わったところ」


「そりゃ、そうだろうな。七界神社がゴール地点だからな。へぇ、安楽って信心深いんだ」


 発田くんは感心したように述べ、さわやかな笑みを浮かべる。


 当然、それをこんな至近距離で見ているのだから、もう胸がキュンキュンして苦しくなってくる。きっと顔は真っ赤になっているだろうな。変に思われてないかな?


 私はせめて態度だけは必死に平静を装って答える。


「うーん、どうなのかな? 私、御朱印集めが趣味なだけだから」


「おっ! だったら隣の八善寺はちぜんじにも寄っていったらどうだ? 御朱印を受け付けてるぞ」


「そうなのっ? じゃ、これも何かのご縁だからいただいていこうかな」


「そうしろそうしろ! 案内してやるよ!」


 なぜか大喜びしながら私を先導する発田くん。でもその時、私の歩く様子を見て彼の表情が瞬時に曇る。その視線の先にあるのは私の右足だ。


 ちょっと引きずったように歩いていたから、違和感を覚えたのかな?


「……お前、足、どうした?」


「あ、七福神巡りの途中で足首を捻っちゃったみたいで。少し痛むけど歩けるから大丈夫」


「見せてみろ」


 発田くんは真顔になってすかさずしゃがみ、私の右足首を触らずにじっくりと観察する。


「少し腫れてるな。うちに湿布があるから貼ってやる。それとテーピングもな。俺や部の連中も練習中によくやるから慣れてるんだ」


「えっ? い、いいよ、大丈夫だよ」


「酷くなったらどうするんだ! 素直に治療されておけ!」


「あっ! ちょっ!?」


 戸惑う私を他所よそに、発田くんは有無を言わさず私に肩を貸して歩き始めた。彼のガッシリとした筋肉と力強さ、肌の温かさが伝わってくる。


 なにより私の顔のすぐ横には凛々しい彼の顔。しかも息がかかりそうなくらいに超接近しちゃってるっ!



 ――ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!



 私の顔も全身もインフルエンザにかかったみたいに熱い。照れくさすぎて何も話せない。


 でもこの時間が永遠に続いてくれたらとも思ってしまう。もちろん、彼は私の怪我を心配してくれているわけだから、不謹慎かもしれないけど。




 その後、私は発田くんと一緒に八善寺の敷地内へ入り、寺務所の方へ進んでいく。そしてその途中で彼はニヤリと頬を緩める。


「この寺ってさ、実は俺の家なんだ」


「えっ? そうだったの!?」


 思わず私は目を丸くしながら裏返った声をあげてしまった。もっとも、それなら御朱印をいただいていくように勧めたこととか七福神巡りの事情に詳しいもの頷ける。


 そっか、『光雲』って名前もなんとなくお坊さんっぽいイメージがあるもんね。


 こうして私は玄関に案内され、そこで治療を受けた。さすが慣れているというだけあって、テーピングをしてもらうと痛みが和らいですごく楽だ。湿布も気持ちいい。


 もう難なく立ち上がることが出来るし、歩くのもそんなに苦にならない。


 なにより発田くんに治療してもらっちゃうなんて最高っ! 嬉しすぎて天にも昇る気持ちって言うのかな。今すぐこの場で『きゃーっ!』って黄色い声をあげたい気分だけど、さすがにそれは我慢する。


「ありがとう、発田くん。助かったよ」


「治療代は御朱印の書入れ料のオマケってことにしておいてやるよ。だから早く御朱印帳を出せ。持ってないなら書き置きを渡すことになるが」


 書き置きというのは、前もって御朱印帳のサイズの和紙などに御朱印が描かれているものだ。神職さんが常駐していない神社や初詣で参拝客が多い場合などにすぐ手渡せるように、そういう措置をとっていることがある。


 あとは感染症が今より流行していた時は、接触機会を減らすために多くの寺社でそうなっていたことがあるけど。


 ちなみに私は御朱印集めをする時には常に御朱印帳を持ち歩いているので、それをカバンから取り出して発田くんへ渡す。すると彼はそれを持って寺務所の受付へ移動し、その場所で御朱印を描き始める。


 なかなかの達筆で、今までに何度もそういう場面に接してきている私でも思わず見とれてしまう。


「すごいね、発田くんが御朱印を描くんだ。字も上手いね」


「ま、家族の手が空いていない時は俺がやらざるを得ないからな。字は子どものころから練習させられてたし」


「文武両道なんだね。ステキだと思う」


「バ、バカ……。おだてても何も出ないぞ……」


「本気だよ。カッコイイよ」


「……うるせ」


 発田くんは照れくさそうに御朱印を描き続けていた。でも心なしか嬉しそうにも見える。私もなぜか浮かれた気持ちが消え、しかも緊張せずに心の底から素直に今の気持ちが言葉になって出ている。


 不思議だな、寺社にお参りしたことで煩悩が抑えられたのかな。ご利益りやくなのかな。七福神巡りでは色々大変だったけど、お参りをしてきて良かった。


「そうだ、安楽。こうして御朱印をいただくからには、本堂の横にある小さなほこらへのお参りを忘れるなよ? あそこには八福神はちふくじんの8番目の神様が祀られているんだからな」


「八福神?」


吉祥天きっしょうてんだ。昔はこの地域の七福神巡りも、ここの吉祥天を含めて『八福神巡り』だったらしい。ただ、色々な事情があって、うちはやめちゃったらしいんだけどな」


「そうだったんだ……」


 それは初めて聞く話だった。やっぱり当事者に聞かないと分からない歴史ってたくさんある。だからそうしたことを知る機会になる御朱印集めは楽しいのだ。


 ちなみに吉祥天は地域によっては弁財天の代わりに、七福神として祀られていることもあるんだったっけ。


「安楽、今年の正月に八福神の全てを巡ったのはたぶんお前だけだぜ。ご利益を独り占めかもな」


「そっか、『アンラッキーセブン』が『ラッキーエイト』になったから幸運が……」


「ん? なんだそれ?」


 キョトンとしている発田くんに対し、私は慌てて首を横に振って笑顔を作る。


「ううん、なんでもない! ――発田くん、またここにお参りに来て良いよね? 地域の歴史の話をもっと聞かせてよ!」


「もちろんだ! 俺も安楽ともっとたくさん話をしたいし」


「……えっ?」


「っ!? いやっ、なんでもないッ!」


 なぜか発田くんは目を白黒させながら下を向いてしまう。頬も少し赤く染まったみたい。


 嘘……っ!? もしかして……これはもしかするかもッ……?


 それを認識した途端、私まで頬が赤く染まって熱くなってくる。やっぱり今年は良いことがたくさんありそうだ。



 ――そうだよね、悪いことはすでにたくさん起きちゃって、あとは運気が上がるだけだもんっ!



(おしまいっ!)

 

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