アンラッキー7

hibari19

第1話

 昨夜から雨が降り続いていた。朝は小雨になっていたから制服の上にパーカーを羽織って走っていた。何故って、普段通り遅刻ギリギリだったから。

 あそこの角を曲がればあとは直線で100mくらいだ、少し余裕が出てスピードを緩めたその時だった。


 結構なスピードの車が横を通った時、思い切り水たまりの泥を撥ね、私に降りかかったのだ。

「うわっ! なんだよ、クソっ」

 私はおよそ女の子らしからぬ悪態をついた。いいんだよ別に、誰も聞いてないんだから。

「全く、ついてない……あれ、もしかして今日は7日か?」


 私は昔から、なぜか7という数字に相性が悪い。変なことが起きるのは決まって7日だし、模試の受験番号で末尾が7だと決まって成績が悪いし、この前自転車で盛大に転んだ場所は7丁目だったし。

 世間ではラッキー7なんて言うけど、私にとったらアンラッキー7なんだよ。友達に話しても、人ごとだと思って「そんなの気のせいだ」って笑われるだけだから黙ってるけど。


 玄関でパーカーを脱ぎ、タオルで濡れた場所を拭き取って、少し汚れてるけどまぁいいか。やれやれと思いながら、遅刻をせずに教室へ入って黒板を見て絶望する。

「うわ、日直だ」

 しかも相手があの子とは、今日はやっぱりツイてない。


「おはよう」

 私にいち早く気付いて挨拶してくれる七瀬さんだ。

「おはよ」

「今日、一緒に日直よろしくね」

「うん」

 最低限の会話で、私はそそくさと自分の席へ座る。かなり感じが悪いと自分でも思う。私は七瀬さんが苦手ーーではなく、気になっているから。笑顔が可愛くて優しくて、もちろんクラスでも人気者で、ぶっちゃけ好きなのだ、だけど。

 名前が七瀬だよ、アンラッキー7なんだよ。下手に近付いたら何があるかわからない。それが私にならまだいいが、万が一七瀬さんに降りかかったらと思ったら。七瀬さんを巻き込むわけにはいかない。だから私は、七瀬さんを遠くから眺めているだけで満足するしかないのだ。


「七瀬さん、日直の仕事は分担しよう。その方が効率的だから」

「え、あぁ、うん」

「大丈夫、力仕事は私がやるから」

 体を動かすのは好きだし、七瀬さんに負担はかけたくない。

 分担すれば一緒に行動することもないし、大丈夫だろう。


「あれ、日直の仕事一人でやってんの?」

 お昼休み、幼馴染の純ちゃんが声をかけてきた。

「ううん、分担してるから」

 決して七瀬さんがサボってるわけではない事を強調する。

「うわ、勿体ない。我がクラスのアイドル七瀬さんとお近づきになるチャンスなのに」

 そりゃ私だって、そう思うけどさ。

「あんまり関わりたくないんだよね」

 そう言った瞬間、後ろでガタンと音がした。


 振り向いたら、七瀬さんが立っていて、ポロポロと涙を流していた。

「え、七瀬さん?」

「大丈夫?」


 七瀬さんが泣いてる?

 誰が泣かせたの?

 クラスメイトが集まってくる。

 そのうちの一人に付き添われて、七瀬さんは保健室へ歩いていった。


 私が七瀬さんを傷つけて泣かせてしまった。




 午後の授業に、七瀬さんは出席しなかった。七瀬さんと仲の良い子に聞いたら、まだ保健室にいると言う。

 私は放課後、日直の仕事を全て終わらせて保健室へ向かった。

「先生、七瀬さんの具合どうですか?」

「うん、だいぶ落ち着いたみたい」

「話せますか?」

「ちょっと待ってて」

 先生は部屋の奥へ行って、すぐに戻ってきた。

「私ちょっと職員室へ行ってくるから、ゆっくり話して」

 先生は、そう言って出ていった。


「七瀬さん、大丈夫?」

 七瀬さんはベッドから起きあがろうとしていた。

「いいよ、そのままで。少しだけ話を聞いて欲しい」

 私は今までの事をすべて話した。

 笑われるかもしれないけど、私のアンラッキー7のことも。

 七瀬さんが嫌いで関わりたくないと言ったわけではない事を信じてほしくて。


「もしそういうのが何もなければ、私と仲良くなりたいって思ってるってこと?」

 七瀬さんは笑うことはなかったけど、不思議そうに言う。

「もちろん、仲良くなりたいし、もっといろいろ知りたいと思ってる」

 七瀬さんは、また涙をこぼした。

「あ、ごめん、ほんとにごめんね」

「違うの、今のはうれし泣き」

 落ち着いてから、ようやく微笑んでくれた。


 それから七瀬さんは起き上がって私に言った。

「私が、ラッキー7になれないかな?」

「え?」

「私と一緒にいたら、良いことが起こるって思って欲しい」

「あ、それは……実はもう思ってる」

「どういうこと?」

「今、この瞬間が。今までの不運を超えるラッキーだなって」


 七瀬さんは、とびきりの笑顔で私の手を握った。


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