第6話 ダンジョンは出会いの場

「リ、リタさん、本当に助けてね!」

 ルシェは繋いだリタの手を、ぎゅうっと握りしめた。

 リタは背に混紡をくくりつけ、左手に携行ランプを持ち、右手でルシェの手を取っている。

 ダンジョン内の空気はひんやりとしていて不気味だ。湿った土の匂いも気味が悪い。

「もちろん助けるよ、君がピンチになったらね! おっ、さっそくお出ましだ!」

 ピョコン、と二人の目の前に鮮やかなオレンジ色のスライムが現れた。

 ぷるぷると震える、まるでゼリーのような半透明のボディをしている。

「でっ、出たぁ‼」

 ルシェはすぐさまリタの後ろに隠れた。

「ルシェ君、大丈夫……ひとまず落ち着いて。深呼吸しよう。はい、吸って、吐いて、吸って、吐いて……どう? 少しは落ち着いたかな?」

「は、はあ……」

「よし、じゃあ行ってみよう! 構えて!」

 リタは深呼吸を終えたルシェの背を押す。

「あわわわ……」

 ルシェは初めて目の前にするモンスター、オレンジ色のスライムを前に剣を構え、がたがたと震えた。

 スライムはルシェに襲いかからず、ただぷるぷるとしている。

 数分、両者はそのままだった。

「あ、あの、リタさん」

「なあに?」

 リタは笑いを噛み殺しながら応えた。

「た、倒したくないんですけど」

「あらま、どうしてかしら?」

「だって、なにもされてないです」

「……確かに、その通りだね……じゃあ、襲われたら、君はその剣を振りおろせるのかな?」

「多分……無理そうです……」

 ルシェは暗い面持ちで剣を構えるのをやめた。

「だって……きっとモンスターだって、痛いのは嫌ですよね……僕は、痛いの嫌だから……」

「よし、合格だ!」

「はい?」

 リタの明るい声音に、ルシェは怪訝そうな表情かおで振り返った。

「もういいよ、レオ君。協力感謝する」

「レオ君? リタさん、スライムに話しかけてるの? それに合格ってどういう意味……」

「あっ、もういいの、リタさん? あぁ、肩凝ったぁ……いつ斬られるかとヒヤヒヤしたわぁ」

「ス、スライムが喋ったあ⁉」

 ルシェは目を丸くして、オレンジ色のスライムを凝視した。

 よく見ると、スライムには目と口が付いている。

「よう、俺はオレンジスライムのレオっていうんだ! よろしくな、坊主!」

「あ、はあ……えぇ……?」

「驚いた? 合格ってのは、君が私の相棒バディとしての素質があるかどうか、その判断結果だよ」

 リタはにこにこと笑った。

相棒バディ?」

「うん。君は人にも魔族にも優しい気持ちを持てる、貴重な存在だ。どうだろう、我々に手を貸してくれないか?」

「えっ……僕が?」

「実は、彼ら低レベルダンジョンモンスターは、けっこうストレスが溜まっていてね……話し相手になって欲しいんだ。えっと、カウンセラーというやつかな」

 ルシェはしばらくポカンと口を開けていた。

「話し相手って……そういうのって、モンスター同士でするものなんじゃないの?」

「いや、低レベルなりにさ、俺らにもプライドってもんがあってよ」

 オレンジスライムのレオが口を挟んだ。

「プライド?」

 ルシェは首を傾げる。

「そっ。確かにモンスター同士ってのは仲間なんだけど、成績を張り合ってるみたいなとこがあってさ……どうも相談とか困りごととか愚痴とか、言いにくかったりするんだよ……その点、おたくはまるっきり無関係、利害関係が一切ないから気が楽なんだ」

「モンスター相手とは言え、誰かの役に立つというのは、自信にもつながる。どうだろう、引き受けてくれないかな? カウンセラー?」

「うーん……急にそう言われても……そりゃ、誰かの役に立てるのは嬉しいような気もするけど……」

「まあ、そもそもがルシェ君側からの依頼だからなぁ……もしルシェ君がこちらの依頼を引き受けてくれたら、勿論報酬はチャラにするよ」

 リタはにこりと笑う。

「報酬かあ……」

 ルシェはぼんやりと呟いた。

 確かに、リタから成功後に納得する額を、と言われてはいたが、十歳の自分の小遣いでは、たかが知れていると後ろめたい気持ちがあった。

「うまくできるか、わからないけど……それに、リタさんも一緒にいてくれるなら……やってみても……」

「よし! 決まりだ!」

「おお! やった!」

 リタとレオは同時に声をあげた。

「剣は預かろう……邪魔になるだけだからな」

 リタはルシェから長剣を預り、背負う。

「じゃ、私はルシェ君を送ってくるから……またな、レオ君」

「ああまたな、リタさん! 坊主、また来いよ! 絶対だぞ!」

 レオはぴょんぴょん跳ねながら、入り口に向かって歩く二人の背を見送った。

「さあ、こうしちゃいられない! 隊長や皆に報告しなくっちゃ!」

 レオはソワソワしながら、ダンジョンの奥に向かって飛び跳ねて行ったのだった。

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