第5話 ダンジョンに行こう
「ダ、ダンジョンなんて無理です!」
ルシェは真っ青になって叫んだ。
「あれ? もしかして、ダンジョンに行ったことある?」
「あるわけないですよ! あんな危険な魔物が沢山いるところになんて……しかも僕みたいな、なにもできないのが行ったところで、怪我して終わりです!」
「大丈夫、大丈夫! 今回はリタさんがついてるから」
リタはにこにこと笑う。
「なんでダンジョン……勉強ができるようになるコツとか、教えてくれるんじゃないの?」
ルシェは泣きそうになって言った。
「勉強ねぇ……リタさんはあまり勉強が得意じゃないから、ダンジョンに行った後で、どうしても勉強したいって言うなら別の奴を紹介するよ」
「……どうしても、行かなきゃダメですか?」
「行ったことがないなら、行った後のメリットが想像できないのも無理はないけど」
「メリット? そんなものありますか?」
「少なくとも、私にはあるよ。選択肢の一つの判断ができるからね。もし仮にうまくいかなかったとしても、単にこのルートじゃなかったんだっていう判断がくだせる」
「はあ……」
「明日も学校休みなんでしょ? 明日行こう」
「えっ⁉ 明日⁉」
「時間を置くとやらない方向に行く。変えたいと思うなら、時間は大切に使わないとね! 最低限の武器や防具は私の方で準備するから、ルシェ君は明日身一つで来てくれればいいよ。もし、どうしても行きたくなかったら、明日ここに来なければいいし」
「えぇ……」
ルシェは複雑な
「よし! 一緒に頑張ってかっこよくなろう! ルシェ君!」
落ちているその小さな肩を、リタはにこにこと笑って、ポンと叩いたのだった。
「さあ! 今日もいい天気だ! 頑張ろう、ルシェ君!」
「はあ……」
翌日、とぼとぼとやってきたルシェにリタは嬉しそうに笑った。
「本番前に、少し練習しておこう。さ、手を貸して」
リタはおずおずと差し出された小さな手を取り、瞬間移動する。
そこは人気のない空き地だった。
「えっと、武器と防具……重いと使いにくいから、軽いのを選んだよ……あと、滑り止め付きの軍手ね」
リタは次々と地面にそれらを並べる。
「行くんだ……本当に……」
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、リタさんがついてるんだから……それに、行くダンジョンは一番レベルが低いダンジョンだしね。はい、軍手はめて、防具をつけてみよう」
ルシェはリタに言われるまま、軽い革製の胸当てを装着し、滑り止めつきの軍手を両手にはめた。
「よし、じゃあ次は武器! 棍棒か軽い金属の長剣……どっちが扱いやすいかな?」
ルシェはまず棍棒を手に取った後、長剣を手にした。
「素振りとかしていいよ……重くない?」
「うん、思ってたより軽い……」
ルシェは両手で剣を構え、何度か振ってみる。
「素振り、完璧じゃない」
リタはルシェの姿勢に、にこりと笑う。
「学校で、剣術の基本は学んだから……」
「素振りできるのに、ルシェ君的にはバツをつけちゃうんだね?」
「……練習試合で勝ったこと、一度もないんだ……それに、試合じゃなくても、打ち合いって好きじゃない……素振りは、相手がいないから気が楽なんだ」
ルシェは弱々しく笑った。
「ルシェ君は優しいからね」
リタはにこりと笑った。
「よ、弱いんだよ、僕は……気持ちが……」
「私はそうは思わないよ。同じ事柄をどう思うかは、その人によるさ。じゃあ、リタさんに向かって打ち込むのも難しいかな?」
リタはルシェが選ばなかった棍棒を手にして言った。
「う、うん……」
「なら、しないでいいよ。ちなみにルシェ君を安心させるためにあえて言うと、ダンジョンのレベルは一〜五の初級レベル、リタさんのレベルは五十くらいだよ」
「五十⁉」
ルシェはまじまじとリタの華奢な腕を見た。
「一応、攻撃魔法や守備魔法も使えるよ。肉弾戦なら、私は投げ物が得意なんだ。ナイフとかね。今回は使わないけど。あくまでルシェ君の様子を見るだけだから……あ、ちゃんとピンチの時は助けるから安心してね!」
「リタさん、そんなに強いんだ……なら良かった……安心だ」
ルシェは、はぁと深いため息を吐く。
「うん! 安心したところで行ってみよう!」
「えっ⁉ 心の準備がまだっ!」
慌てふためくルシェの肩を抱え、リタは笑顔で瞬間移動したのだった。
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