第4話 洗い出し

「では、早速なんだがルシェ君! 君について教えて欲しい!」

 言い、リタは新しい紙をルシェに手渡した。

「と、その前に、私に聞きたいことはあるかな? なんでもいいよ!」

 リタはルシェににこりと微笑みかける。

「なんでも?」

 ルシェはリタの頭頂部を見た。

 そこには、天に向かって伸びている兎の耳がある。

 白い毛色に先端の部分だけが黒い。

「おっ、さすがルシェ君、お目が高い! 可愛いでしょ、兎耳!」

「うん……それ……」

「アクセサリーじゃないよ、本物! てことは、人間っぽいけどリタさんは人間じゃないってことだ! あはは!」

「えっ?」

 ルシェは途端に不安げな表情になった。

「そこはハッキリさせておかないと、後でトラブルの元になるからね。私を含めて、たすけ手のスタッフは全員魔族の部類に入る」

「ま、魔族!」

 ルシェは目を丸くしてリタを見た。

 丸くて大きい瞳が可愛らしい。

「……僕、魔族に会うのは初めてです……」

「うん! いいリアクションだ! いきなり精霊魔法をぶっ放してくる奴もいるんだよ!」

「それは……怪我、しますよね……」

 おや、優しいなこの子は。

「まあ、私は逃げ足が早いし、その時点で契約が成り立たないってのがわかるから、わかりやすくていっかな、と思ってるけどね……怖くないかな? 私のこと?」

 ルシェは小さく頷いた。

「ありがとう……他に聞きたいことはあるかな?」

「あ、あの……お金の事なんですけど……」

 ルシェは視線を己の手に移し、言いにくそうに切り出した。

「ああ、お金ね! 最初の電話でも言った通り、成功したら納得した分の払いをくれればいいよ。私ら魔物は、人間のお金がなくても生きていけるから、別に収入がないと困るわけじゃないんだ。だから、そこは気にしなくていいよ。私はお金より人の変化が好きなのさ」

 リタはにっこりと笑った。

「人の変化?」

 ルシェはおもてをあげる。

「そっ。私が関わることで、相手がどう変わっていくのか、その過程や、変わった後の姿を見て自分がどう感じるのかが楽しいんだ……まあ、つまり人は金より面白いってことだ!」

「……変わらないかもしれないですよね……」

「変わるよ。少なくとも、ルシェ君は変わる」

「だ、だって、僕はなにをやってもうまくできないんですよ!」

 ルシェは辛そうに言った。

「うまく行ってるよ。ルシェ君がそれに気づいていないだけさ」

 リタは笑った。

「え?」

「何かを変えたくて、たすけ手に電話して、私と会って話をしている。これは、君が選んで行動した結果なんだよ。君が勇気を出さなければ、なにも変わらず、ずっとそのままだっただろう?」

「まあ……そうかも……でも、この後はきっと何も変わらないです」

「まあ、未来は一切決まってないからね!」

 リタは言い、ショルダーバックから取り出したペンでルシェの膝の上の紙を指し示した。

 そこには、フローチャートが書かれている。

 一、今の状態を書いてみよう

 二、一を見ながら、どうなりたいか考えよう

 三、二に近づくためには、どうしたらいいか考えよう

 四、実際に行動してみてどうだった?

「この一から四の流れに沿って考えよう。まずは、一から。自由に記入してみて。はい、ペン」

「う、うん……」

 ルシェはリタからペンを受け取り、考えながら紙に書き込みをしていく。

「勉強バツ、運動バツ、魔法バツ、友達バツ……書けました」

「うん、じゃあ二に行く前に、一で書いた部分を掘り下げよう。まずは勉強。勉強好き?」

「嫌いです」

「運動は?」

「嫌いです」

「魔法は?」

「嫌いです」

「ほう……で、それらを好きになりたいかい?」

「うーん……好きにというか……上手になりたいです」

「なるほどね」

 うん、とリタは頷いた。

「勉強や運動や魔法が上手くなると、どんないいことがあると思う?」

「えっ……と……」

「いいよ、時間をかけて、ゆっくり考えて」

 しばらく考えた末に、ルシェが出した答え。

「かっこいい……と思う……勉強ができたり、走るのが早かったり、強い魔法を使えたりすると」

「うんうん、それは周りの子を見て、そう思ったのかな?」

 リタからの問に、ルシェは小さく頷いた。

「よし、じゃあ二のところにかっこよくなりたいと書こう。友達は、どう? 正直に言っていいよ」

「意地悪な友達はいらない……優しくて、一緒にいると楽しい友達が欲しい」

「うん! そりゃもっともだ! じゃあ、それも二のところに書こう」

「リタさん……こんなの書いて、なにか意味があるんですか?」

 ルシェは紙に丁寧に文字を書きつけながら問う。

「大いにある! 紙に書くと、冷静な目で物事を見ることができるようになる。大事なのは客観的に見て、それをどう思うかだよ。頭の中に描いているだけだと、ごちゃごちゃしてしまうからね……書けたかな?」

「はい」

「よし、じゃあ次は三。二、のところで君は二つのことを書いた。かっこよくなりたい、優しくて一緒にいると楽しい友達が欲しい、この二つだ。この二つの結果をゲットする為に、なにをするか?」

 リタは細長い人差し指で、紙面を指し示しながら言った。

「勉強、運動、魔法、これらに関しちゃ既に学校で体験している。私が君に提案するのは、課外授業だ!」

「課外授業?」

 ルシェは首を傾げる。

「私が君の色々を判断したいというのもあるが……ダンジョンに行こう!」

「えっ⁉ ダンジョン⁉」

 張り切って提案するリタの言葉に、ルシェは困惑の表情を浮かべた。

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