スズメおし

葉月りり

第1話

 我が家の前に古い二階建ての家がある。多分、誰も住んでいない。壁こそしっかりしているが、屋根には錆びた太陽熱温水器が乗っていて、所々瓦が崩れて間から草が生えている。庭には梅や椿の木があるけれど、下は草ぼうぼうだ。


 我が家はマンションの三階にある。ベランダに出ると前の古家の二階の屋根を見下ろす感じになる。手すりまでよれば庭もよく見えて、その庭や屋根には鳥たちがよくやって来る。


 春、梅が咲けばメジロが花をつつきに来るし、夏は草むらの虫を狙ってヒヨドリが来る。秋になるとジョウビタキがやってきてアンテナで縄張り宣言をする。


 冬、ごくたまにだけど、可愛いものが見られる時がある。私はこの可愛い現象を「メジロおし」にちなんで「スズメおし」と呼んでいる。

 古家の二階の雨樋にスズメが数羽並んではまり込んでいる様子だ。羽を膨らませてピッタリくっついて、日向ぼっこしているんじゃないかと思う。めちゃめちゃ可愛くてそれを見られたら「ラッキー!」と、嬉しくなる。


 今朝、洗濯物を干していたら、古家の屋根に来た、来た、来た、スズメの集団。一、二、三、七羽いる。雨樋に入るかな。あ、入った。


 一羽目が雨樋の日の当たるところに入ると、二羽、三羽と一羽目の左に並んでいく。なんと律儀。というのは、右隣は温水器の陰になっていて日が当たらないから。


 四羽、五羽、六羽目がはまると、雨樋は端まで一杯になってしまった。七羽目は六羽目の左に入りたいけど隙間がない。無理やり入れば行けそうな気がするけど、七羽目は少しホバリングのような動きをした後、日陰になっている一羽目の右隣に収まった。


 そこは暖かくないでしょう。ついてないね。


 でも、となりにぴったりくっついていれば暖かいのか、七羽目もふわふわ膨らんで気持ちよさそうに目を閉じたりしている。私は「スズメおし」に元気をもらって、布団も干そうかなと考えている。

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