禁忌の7

寺澤ななお

禁忌の7

「頼む、今回だけお願いできないか?」


悪魔はささやく。

世の中のことわりに背く提案を


「金は払う。今回だけ、今回だけだ」


実行犯にも得があるかのように悪魔はささやく。もちろん、今回だけと言うことはない。

この禁忌が世の中に蔓延っていることは、ある程度の年を重ねれば誰でも知っている。


「ありがとう。助かった。がいて本当に良かった」


契りちぎりを交わしたとき、悪魔は微笑む。まるで、神を仰ぐかのように実行犯を褒め称える。普段は君なんて呼びはしない。「お前」「馬鹿野郎」「ポンコツ」の順に頻度が高い。


自らの意志で「7」に踏み入れるものもいる。


さらなる富を求めるもの、より高い能力スキルを追い求めるもの。理由は様々だ。


「世の中を良くしようと励むもの」


しかし、これはまずい。一番の禁忌と言っても良い。志が善であるがゆえに過ちに気付かない。理想を追うがゆえに盲目となり、己の身体を蝕む闇から目を背けてしまうのだ。


闇に染まってしまったらおしまいだ。むしろ、闇を好むようになる。寝る時間も惜しいとばかりに身を削るのだ。


「好きでやってるんだから、俺は幸せだよ」


完全に中毒状態だ。声を大にして言いたい。


豚のほうがマシだと。時には惰眠をむさぼる豚であることも大切だと。


破滅に至ったとき、彼らは完全なる「5」の素晴らしさに気付くだろう。刺激と緩和が適度に合わさった日々の煌めきを。


もし、愛しき人が禁忌に手を出そうとしているのに気づいたならば、すぐに伝えてほしい。


「金や地位など要らない。あなたが大切だからと」


禁忌は奪っていく。愛しきものを過ごす時間を。時には命さえも。


だるい、頭が少し痛む。


よくあることだと侮ってはいけない。


胸が痛い。

そういって倒れて、永遠の眠りについたものもいる。


「6」ならまだいい。「1」の猶予があるから。


ただ、7連勤はいけない。


一週間働きずめは、肉体的、精神的ともに無理がある。

雇用主、労働者どちらにも益はない。


真の働き方改革が推進することを切に願う。













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禁忌の7 寺澤ななお @terasawa-nanao

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