不幸な俺の7人の神様

うめもも さくら

七福神様だと思ったら

7という数字は見るとちょっと嬉しくなる数字だと思ってた。

ラッキーセブンなんて言葉とか縁起えんぎのいいものばかりだと思ってたから。

でも今思えば七つの大罪たいざいも7って数字だったな。

7がいいものの数字ばかりではないって今になってわかったよ。

彼女たちに出逢った今になって。


彼女たちとの出逢いは本当にひょんなことだった。

たまたま立ち寄った本屋の本。

『七人の神様』

そんなタイトルだった気がする。

その本が突然光って気がついたら彼女たちが目の前に現れた。

あれよあれよと彼女たちとの生活が始まった。

もう、彼女たちと過ごしてだいぶつ。

でもさ、七人で立っていた彼女たちが全員神様だと言うからてっきり。

七福神しちふくじん様かなって思うじゃない。


今日も俺の腹が盛大せいだいに鳴った。

「私のせいでごめんなさい……ごめんなさい……」

愛らしい見た目の少女が涙目になって俺に謝ってくる。

「君のせい……だけど、気に、しないで……」

目の前の少女を慰めようと、空腹状態の回らない頭でなんとか言葉を振り絞った。

「貴方、優しい。大好き。ずっと一緒にいる」

先程まで涙目だった少女は今は嬉しそうに笑っている。

ヤバイ。

ずっと一緒にいられるのはすごくヤバイ。

なぜなら彼女は

貧乏神びんぼうがみ!ちょっとそこどけよ!ボクもこいつに用があるんだよ!」

そう、そこの愛らしい少女は正真正銘しょうしんしょうめい、貧乏神なのだ。

鬼神きじん。邪魔しないで。私はずっと一緒にいるって決めてるんだから」

鬼神は自身のことをボクと言うが長身痩躯ちょうしんそうくの美しい女性だ。

貧乏神ちゃんはじろりと鬼神をにらむ。

鬼神は貧乏神ちゃんの目つきなど気にしていない様子で小柄な彼女を押しのけて俺に飛びついてくる。

「今日こそボクと結婚してもらうぞ!!」

無理です。

「鬼神、大きい声を出さないでおくれ。貧乏神も邪魔だよ。此奴こやつの妻になるのはわっちだよ」

違います。

胸元がはだけた着物を身にまとい、妖艶ようえんにしなだれかかってきた美しい女性に二人は非難の目を向ける。

「邪魔とか、疫病神やくびょうがみに言われたくない」

「おまえにだけはこいつは渡さねぇ」

口々に文句を言う貧乏神ちゃんと鬼神のことなどどこ吹く風で疫病神さんは更に体を寄せてくる。

べりっという音が聞こえそうなほど強く俺から疫病神さんを引き剥がしたのは黒い外套がいとうに身を包んだ美麗な女性だ。

「疫病神さん!近いですよ!胸を故意に押し当てて誘惑しないでください!!あなたたちもわたくしの旦那様にご迷惑をかけないでくださいませ!」

正直助かった。

「いつ、こいつがおまえの旦那様になったんだ!!死神しにがみ!さらりと嘘つくな!!」

聞き逃してた。

「旦那様、お食事のご用意が整いましたわ。ぜひ召し上がってくださいませ」

わーい!ご飯だぁ!

鬼神の怒声を無視して死神がニコリと俺に笑いかける。

「食べない方がいい。こいつは死神だから何が入ってるかわからない。毒とか」

貧乏神ちゃんが、ぎゅっと俺に抱きついて言う。

「私が旦那様のお食事に毒など入れるわけがないでしょう!!言いがかりをつけたら許しませんよ、わっぱ

死神の声に貧乏神ちゃんがこわぁーい、と言いながら更に強く抱きついてくる。

「こらこら、今のは貧乏神ちゃんがいけないよ?死神はいつも美味しいご飯を作ってくれるだろう?ありがとうね、死神。すごくお腹が空いてたんだ」

俺がそう言うと、死神が頬を赤く染めて嬉しそうに微笑った。

貧乏神ちゃんも素直にごめんなさいとポツリと呟いた。

俺の言葉に素直に謝る貧乏神ちゃんの姿に一瞬面白くなさそうに顔をしかめた死神だったが、すぐに興味なさそうに彼女を見て俺に甘い笑みを向けて俺の腕を引いて食卓に誘う。

右腕を引いて前を歩く死神をみつめながら、左手を貧乏神ちゃんがぎゅっと握る。

待てって!と言いながら鬼神が俺の服のすそを後ろから掴む。

疫病神さんが右肩に顔を寄せる。

「あらあらぁ!!4人の間に立たされちゃって、モッテモテだね!!それでこそぉ、つじちゃんのカレピだね!!」

カレピじゃない。

辻神つじがみ、口には気をつけな。わっちの夫に馬鹿なこと言ってると頭かち割ってしまうよ」

「ふんっ!!やれるもんなら、やってみなよ!おばさん!」

疫病神さんと辻神が睨み合う横で黙って静観せいかんしているのはたたがみだ。

彼女は物静かであまりおしゃべりをしない。

けれど、俺と目が合うと嬉しそうに微笑む可愛らしい美人さんだ。

「今日の食材を持ってきてくれたのは祟り神なんですよ旦那様」

死神がそっと俺に耳打ちをする。

俺は部屋のすみで座っている祟り神に近づいて声をかけた。

「祟り神、今日のご飯の……お手伝いをしてくれたんだって?ありがとな」

食材を持ってきてくれて、というのはなんだか味気ない気がしてお手伝いという言葉にした。

横目で料理を作ってくれた死神を見たが、気を悪くしていないようなので、もう一度祟り神に視線を戻す。

「ご飯食べに行くから一緒に来るか?」

祟り神は嬉しそうに何度も頷いた。

そして祟り神はひょいと俺と死神、鬼神と貧乏神ちゃん、そしていがみ合っている疫病神さんと辻神をまとめて持ち上げてスタスタと食卓に向かった。

いつものことだが、慣れない。

「おっそいデスヨォ!ゼンブ食べちゃうデスヨ?」

先に食卓に来ていた金髪美女が料理を頬張りながらこちらに笑いかける。

横の死神からブチッと何かがちぎれるような音が聞こえたのは気のせいだろうか。

「おまえのために作ったんじゃないですよ邪神じゃしん?その髪全部引っこ抜いてなわでも作りましょうかねぇ」

やめてあげて。

俺は死神の手を掴んで首を横に振った。

「まったく野蛮やばんデスヨォ、死神ちゃんはぁ。ニッポンのヤマトナデシコとは思えないデスヨォ。ねぇ、マイダーリン?」

マイダーリンじゃないし、お願いだからこれ以上、口開かないでもらえる?かばいきれなくなるから。

ほら、横の死神から絶対出ちゃいけない黒いオーラ出ちゃってるし。

「おい、死神!相手にすんな。冷める前にこいつに食わせたほうがいいんじゃないか?」

鬼神が料理と俺を交互こうごに指差して、死神に声をかける。

その声を聞いて、ちらりと死神が俺を見る。

少しずつ死神から出ている黒いオーラがおさまっていく。

鬼神ナイス!

俺がニコリと笑いかけて食卓につく。

そしてはしを手にとって死神に声をかけた。

「いただきます!」

俺の言葉が合図あいずのように、各々わらわらと席につく。

醤油しょうゆ取って、疫病神」

「まったく甘えるんじゃないよ、貧乏神」

「これ、めっちゃおいしいー!写真とろうっと!」

「おぎょうぎ悪いデスヨォ、辻神ちゃん」

「あ!それボクのコロッケ!食うな!祟り神!!」

「……(モグモグ)」

そんな様子をしばし眺めていた死神が困ったように笑った。

「まったく。私の旦那様の周りは、騒々そうぞうしい方ばかりで、困ったものですね」

死神が微笑みながら俺の横に座る。

ひょんなことから出逢った七人の神様は、誰ひとり幸福の神ではなかったけれど、なぜだろう。

今、俺はとっても幸せだ。

俺は七人のわざわいの神様と平和に楽しく幸せに暮らしている。


わざわいてんじてふくとなす。

めでたしめでたし、なのかな?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不幸な俺の7人の神様 うめもも さくら @716sakura87

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ