偏執者たち

冬野瞠

怪談の聞き取り

 私は今、喫茶店で友人のNから聞き取りをおこなっている。

 Nの知人のOは、ある時をさかいに異様に七という数字にり始めたという。


「ラッキーセブンとか言うけど、そいつは全然げんを担ぐようなタイプじゃなかったわけ。なのに急に取りつかれたみたいになっちゃってさ。例えば日用品を何がなんでも家に七個ずつストックしなきゃ気が済まないとか、電車の七両目にしか絶対に乗ろうとしないとか。そこまでいくと異常でしょ?」


 確かに異様だ。Nは鮮やかな紫色のバタフライピーのお茶で唇を湿らせる。


「さすがにおかしいっていうんで、家族が病院に連れていったのね。でも、精神科じゃ何も分からない。内科に回されて色々検査して……どうなったと思う?」


 ――体の中にいくつも腫瘍が見つかったんだよ。それも、七つ。


 囁いたNが目元を弓形ゆみなりに歪め、カラコンの入った瞳で私を見る。


「やっぱりさ、急に人が変わったようになるのには物理的な理由があるんだろうな。Oは腫瘍についてはアンラッキーだったけど、そうやって気づいてもらえたことだけはラッキーだったと言えるかもね。君の周りでも、そういう異常な執着を見せ始めた人間が出てきたら気をつけなよ」


 薄ら笑いを浮かべながらNが忠告してくる。

 ちなみにOはその後手術に成功し、脳にできていた腫瘍のせいで後遺症は少し残ったものの、概ね健康に過ごしているという。

 私は紅茶を一口飲んでからNを眺めた。、しかしそれを何とも思っていなさそうな友人を。

 頭髪、カラコン、シャツ、ジャケット、マニキュア、パンツ、そのどれもが目に痛いほど彩度の高い紫色だ。木訥ぼくとつとして生真面目なNはもういない。

 Nはじっ、とチーズケーキの上のブルーベリーを見つめている。青ざめた不健康な顔は、心なしか私の目に紫色っぽく映った。


 私は、何も言わなかった。

 その方が記事にできるネタが増えると思ったから。

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