異世界ジンクス 〜消えた幸運の象徴〜

明里 和樹

幸運の行方

 どうも! 多少の魔法と現代知識はあるものの、特別なチートも無ければ前世の記憶も無かった転生者、デリシャといいます! 栗色の髪の三つ編みお下げと飴色の瞳した、八歳の女子です!(挨拶) 家は『宿里木亭やどりぎてい』という宿屋兼ご飯屋さんを営んでおります。


 これはそんなわたしの、ある日のできごと。




「セブンがいない……?」

「うん、最近見ないんだって……」


 そう、しょんぼりとした様子で話す茶色い髪と目の女の子。彼女はシエスタちゃん。わたしのお父さんのお姉さんである、ここ宿里木亭の女将さんの子どもで、わたしと同い年の従姉妹さんです。


 で、セブンというのはこの辺りでたまに見かける猫さんです。全身真っ黒なのですが、所々☆マークみたいな感じの白い毛の部分があって、それが七つあるので『セブン』と呼ばれているそうです。……ほんとに普通の猫さんなのでしょうか……?


 日本では不吉とされることの多い黒猫ですが、この国では逆に幸運の象徴と言われております。ですので見かけたら“良いこと”がある、とまことしやかに言われてまして、同じ黒猫のセブンもまた、見かけたら良いことがある、と言われています。

 なので近所の子ども達は「探険だー!」っと言って、セブンを探したり、見つけたら餌を上げたり、一緒に遊んだりしているそうです。……ただの餌付けされた野良猫さんなのでは……?


「だから近所の子達が“悪いことが起きるぞー”って言ってて……それに」

「それに?」

「怪我とかしてないといいんだけど……」

「あー確かに……」


 危うく「そんなの迷信だし、誰かいい人が拾ってくれたんじゃないかな?」とか、大人みたいなことを言うところでした。反省。彼女のように純粋な、優しい心を持ち続けたいものです。……それにしても姉妹同然に育ったのに、一体どこで差が付いたのでしょうか……?(遠い目)


「まあ、たまたま誰も気付かなかっただけかもしれないし、わたしも気を付けて見てみるよ」

「そ、そうだよねっ!」


 わたしのその言葉に、パッ、と明るい表情を見せるシエスタちゃん。彼女のように純粋な、優しい心を持ち(以下略)。


 彼女の笑顔(ついでに近所の子ども達)のためにも、セブンには早いとこ、元気な姿を見せてほしいものです。……こういう打算的なところが、わたしと彼女の決定的な差なのでしょう……。


 まあでもたぶんそのうち、きっと誰かが見つけることでしょう(ポジティブ)。




 ……そう思っていた時期が、わたしにもありました(真顔)。


 あれから早一ヶ月、未だにセブンは見つかりません。近所のちびっ子達は「ふきつだー! ふきつだー!」と毎日のように騒いでおります。君達意味わかって言ってるぅー?


 まあ、近所の子達が騒いでいるのはともかく、ほんと一体どこに行ってしまっ……。


「いた……」


 大絶賛帰宅中のわたしの視界の端に、白い斑点のある黒猫が一瞬映りました。


 ちょっ、待てよ!(一度言って見たかった台詞)


 口に食べ物を咥え、素早く裏道に入っていくセブンに気付かれないように、わたしも物陰に隠れて周囲を確認。誰もいないことを確認すると《闇魔法》を使って気配を消し、こっそりと後を追います。いちおうわたしが魔法を使えることは、周りには秘密だからね。気を付けないとね。

 狭い道を通り、塀の上を歩き、道無き道をひょいひょいと身軽に歩いて行くセブン。……途中から《身体強化》の魔法も追加で使い、なんとか振り切られないように、付かず離れずの距離を保ったまま付いて行きます。……初歩の魔法とはいえ並行使用は、チートの無いわたしには地味にキツイんですよね……。



 そんなこんなでようやく辿り着いたのは、ちょっとした雑木林でした。緑豊かな島を開拓してできたこの街は、こういう場所がちょいちょいあります。そこに周囲を警戒するようにタタッ、と駆けて行くセブン。見つからないように木の陰に隠れ、視力を魔法で強化したわたしの目に飛び込んできたのは──


「にゃあ、にゃあ」


 ──と小声で鳴きながら、わちゃわちゃと動いているちっちゃい子猫ちゃん達と、それらを見守るように地面に体を横たえている、一匹の白い大人の猫ちゃんでした。


 はわぁ……ちっちゃあ……あにあれ可愛い……。ひぃふぅみぃ……五つ子ちゃんかぁ……。


 その可愛さの塊のような集団に、トテトテと近づいていくセブン。


 あー……なるほど。奥さんが妊娠して子猫が生まれたから、ここを拠点にしていて姿を見せなかったんですね。出産で弱っている奥さんと、生まれたばかりの子ども達を守るために、普段以上に警戒して姿を見せなかったのかな?


 咥えていた食べ物を奥さんの前に置き、一緒になって仲睦まじく子猫ちゃん達を見守るセブンを見て、わたしは、なんだか心がぽかぽかとしてくるのを感じました。


 姿を見せなかったのは近所の子達にはアンラッキーなことだったけど、セブンにとってはラッキーなことだったんだね……。しかも七匹家族とか……縁起が良さそう!



 幸せそうな七匹の猫ちゃん家族の姿を見て、わたしはこのことはしばらくの間、黙っていようと思いました。……まあ、口の堅い、シエスタちゃんには内緒で報告しますけどね。心配してましたから。


 ただし近所のちびっ子達、君らは駄目だ!(騒ぐからね)

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