Encore Story 新米パーティーとオピオタウロス

「ほらよ」

「わぁ…………これは…………!!」


「祝福の杖。世界樹の御神木から作られたマジックアイテム。触れれば相手の傷を癒やす。金貨6枚の超お宝だ。

 お前にやる」


「いいの?! こんな、こんな激レアアイテム!!」


 フラウラが泣きそうに感激している。キノはそれをにんまり笑顔で眺めた。





 



 なんとか命からがら(?)森を抜けた翌日。三人は無事金貨10枚を手に入れ、さてこれからどうする。という話になり。ヨハネスは案内もこれきり、とばかりにフラウラと別れようとしたが、キノが断固それを拒否した。


 昼時の酒場。ガラの悪い冒険者が多数出入りするランクのそれに、甲冑を脱いだラフな格好のヨハネス、同じくシャツとハーフパンツ姿のキノ、そして少年のような繋ぎを着たフラウラが円卓を囲んで座っている。

 机の上には水分補給としてのアルコール、ようやくありつけたまともな食事。散々動いて腹が減ったヨハネスは、むしゃむしゃと鳥の素揚げを食べ続けた。


 議題は3人がこれからどうするか。

 あくまで、3人でどうするかである。

 

「フラウラは女の子だぞ、一人で放り出すつもりか?! 情報屋にしても商人にしても、外で仕事するなら一人じゃない方がいいと思う!」

「でもよー、これまでずっと一人でやってきたんだろ? 一人じゃ危ないなんて、本人が一番わかってることだ。これまで特定の誰かと組んでないのはなんか理由があるからじゃねェの?」

「いやぁ……正直案内代、新規マッチング代が美味くてなぁ……命の安全も魅力的だけど、組む相手さえ見つかればこっちのが儲かってイイんだよなぁ……」


 ここでバン! と机が叩かれる。

 当然憤慨するのはキノである。


「駄目! 今まではそれで良かっただろうさ、でもこれからは? 今回、他のパーティーが犠牲になってようやく生き残れたんだろ、次同じようなことが起こったら? その時、真っ先に囮にされて他の全員が逃げ出したらどうするんだ?!」

「「………………」」

「優しいパーティーに、君だけでも生きてくれって逃してもらったんだ。せっかく助かった命と犠牲になってくれた他人を無碍にするなんて、オレは絶対許さないぞ!」

「それ、は…………」


 真剣に見つめるキノの圧を受け、フラウラの目が泳ぐ。戦の続く昨今、命の価値が揺らいでいる。誰も彼もあっという間に死ぬ。だからこそ、どうせなら太く短く派手に楽しく。ついそんな事を考えて無茶な生活をしていた彼女だったが、まだ戦の火の手が届かない地域から出てきたキノに、その理屈はわからない。


 幸運で生を掴んだと思っている彼に、生き急ぐ理由は一つもない。


「お願いだよ、今回せっかく生き残れたんだから! 連れてってあげようよぉ!!」

「………………」


 実質、彼らの命を預かるのは一番強いヨハネスである。それが解っているキノは、ヨハネスに必死に縋り付いた。小さい身体に見合わぬ馬鹿力でがくがく揺さぶられ、呆れ顔の彼だったが。深くため息をつき、ぼりぼり頭をかいた後、ちらとフラウラを見て。


「ま、冒険者一人雇うにも金かかるしな。こんだけキノが食い下がって温情で守ってやるって言ってんだ、タダで来てくれるよな?」


 折れた。それはキノの熱意に負けたのもあるが、それ以上に。戦う技術を習得した者として、キノの言う通り、フラウラは生き残った義理を果たすべきと考えたからだ。

 決してこれをダシにパートナー代がケチれるなどとは考えていない。

 

「ぐぅ…………同行代は貴重な収入源だったのに……仕方ない…………」


 一方フラウラ。これまで、女一人で生きていくなら金が全てと思って集めて回っていたが……自分の目の前で死んだ他人に何も思わないほど冷淡ではない。誰かに守られる生活が悪いなんて思いもしない。

 ただ、収入が減るなぁ。それだけがネックなのであって。

 

「収入が減る?! じゃあ、オレたちがその分たくさんクエストこなすから! フラウラが情報を探して、オレたちが仕事する! これでいいだろっ」


 結局、終始にこにこしていたのはキノだけだった。フラウラは冒険者から高い同行代を巻き上げることが叶わなくなり、ヨハネスは実質荷物が増えた状態になり、キノのお人好し具合に何も言えないのは同じだったが。二人共が同時に、苦い表情でため息をついた。


「…………あれ? ここはその、いえーい! みんなで頑張ろう、えいえいおー! ってなるとこじゃないの??」

「お前は気楽でいいな……」

「本当に……」

「あれれ〜〜??」


 最終的に、明るい門出とはならなかったが……これにてでこぼこトリオは正式に、一つのパーティーとなった。何度となく仕方ねぇなァ、とぼやいたヨハネスは、しかししっかり事務仕事をこなしてくれて。

 冒険者ギルドにて、リーダーヨハネス、メンバーキノとフラウラ、という三人パーティーの書類を提出した。ハンコが押され、届け出が受理される。これで晴れて、三人は一蓮托生の仲間となったのである。


「何あのパーティー名、だっさぁ〜〜」

「はァ? だったらお前が考えれば良かっただろ」

「まーまー! オレたちにぴったりじゃん! あのクエストで出会ったんだからさぁ」


 パーティー名、Blue birdあおいとり

 今後も少しでも、幸運にあやかれますように。









 




 そして冒頭のやりとりに戻る。フラウラを正式にメンバーに加えるにあたって、ヨハネスが考えたのは彼女を回復役にすることだった。


「回復役の魔法使いを雇ったら、それこそえらい額だからな。だったら仮にクソ高くても、金がある間に先行投資。買い切りで回復用アイテム買って、お前に持たしとくに限る」

「はわわ…………本当に、本当に私が使っていいのこれっ」

「その代わり! 絶対に手から離すなよ! いざって時お前が死んだら終わりなんだからな!」

「はぁい!!」


 フラウラは綿あめのような白髪のショートヘアを煌めかせ、にこにこ笑顔で杖を抱きしめた。そしてそれを、これまたキノが笑顔で見つめる。ああ、いいなぁこういうの。なんだかんだ反目しあってた二人が仲良くなっていく。外の世界に出てきて良かった。楽しくて幸せなことがいっぱいある。


 しかし笑顔なのは二人だけだった。概要を説明し終わったヨハネスが眉間にシワを寄せ、フラウラに詰め寄る。ヨハネスはキノと買い物をしている間、フラウラに頼み事をしていたのだ。


「……で、情報屋。次のクエストの情報は掴めたか?」

「うーーん、それがね」


 本来、冒険者は一旦ギルドに登録すれば仕事に困ることなどない。現にここ数年、舞い込んだクエストの情報を張り出す掲示板は溢れんばかりにメモが貼られている。安易に考えるなら、これを片っ端からやればいいのだが……

 現実問題、あまりにも仕事が多すぎる。

 

 例えばモンスター退治に行くにしても、難易度も行き先も必要アイテムも違う仕事を情報ゼロで行くわけにはいかない。何をするにしてもある程度メモに目を通さねばならず、目的、報酬、条件、難易度……と精査していると、時間がいくらあっても足りない。


 なので、ここ数年はもっぱらフラウラのような情報屋が隙間産業として脚光を浴びていた。情報屋はそれぞれ集める情報の得意分野を掲げ、こういう仕事がしたいなら今はこれがオススメだよ、などと冒険者にクエストを斡旋する。合法ではないが、違法でもない。グレーの範囲で冒険者から金を巻き上げ、儲ける仕事。それが情報屋だ。

 ちなみに、フラウラの得意分野は当然と言うべきか、儲かる仕事なわけだが。


「次の仕事、いい感じのはあったけど、ちょっとヨハネスに相談したくてさぁ」

「なんだ?」

「オピオタウロス? って何? こういう見た目の化け物、じゃなくて名指しって有名なモンスターなの?」

「あーー、オピオタウロスかぁ……」


 聞き慣れない名前である。世間知らずのキノは黙って二人を眺める。


「そりゃあ上半身が牛、下半身がヘビのモンスターだ。何、それを倒せばいいのか」

「これを倒せば金貨1枚だって」

「よし行こう、今すぐ行こう」

「早っ。なんでなんで?」


 ヨハネスはキノが見る限り歴戦のツワモノ。彼がいけると判断したら、それは「いける」のである。にんまり笑みを浮かべ、フラウラを見やる彼は得意げだ。

 

「なんでって? 大きさによるとは思うが、オピオタウロスは何度も戦ったことがある鈍重なザコだ。俺が居ればちょろいちょろい」

「へぇ〜〜、じゃあ受けてくる?」

「一応聞くけど、場所と期限、依頼主は」

「場所西の草原、期限一年、依頼主近辺の集落の長」

「うんじゃモンスターに困った村人が頼んだってタイプのクエストか。早いもの勝ちだな。受理頼んだ」

「合点!」


 途端に、フラウラはぴゅーっとギルドのカウンターに向かってしまった。残された二人は設えられたテーブルセットで飲み物を飲んで待つ。ヨハネスが余裕の笑みを浮かべており……キノは、思わず小声で尋ねてしまった。


「ねぇ、さっきの。本当に大丈夫か?」

「またか。お前、変なとこで心配性だな」

「だって。まだよくわからないけど、金貨一枚ってすごいお金なんだろ? ヨハネスがちょろいっていうような相手に金貨一枚って、どういう理屈なんだ? 確かにヨハネスは強いけど、そんな冒険者なかなか見つからないのかもだけど……」

「ああ、それか……」


 すると、ヨハネスは腕を組んでうーん。と言ったっきり黙ってしまった。ヨハネスはとかく金に弱い。彼もまた、たくさんの部下を抱えて仕事していただけあって、儲かるかどうかがこれまでの最重要事項だったのかもしれないが……

 しばし後。ヨハネスはうん、と頷くと、にっこり笑顔で返してきた。


「そうだな、もしかしたらヤバいかも!」

「ええええ」

「確かに、冷静に考えりゃオピオタウロスごときに金貨一枚って高すぎる。でも群れって注意書きもなかったし、残るセンは個体として強いってとこかな。

 だからお前が忠告してくれて良かった。だったら最初から油断せず、全力で戦うまでだ」

「そしたら、勝てる?」


 ふとした疑問。キノは彼らが心配なあまり、無意識に眉をしかめていたのかもしれない。それを見たヨハネスが小さく微笑む。

 

「あとはお前らの活躍次第だろうな。キノ、せっかくお前にも新しいイイ武器買ったんだから、ちゃんと戦えよ?

 戦棍メイスの基本は相手の機動力を削ぐことだ。まずは足を狙え。そんで相手が体勢を崩すなり倒れるなりしたら、悠々と振りかぶって最大の力で頭を殴れ。これなら出来るだろ? お前、身体能力はかなり高めに見えたからな」

「……うん、頑張る」

「よし」


 ぽんぽん、と頭を撫でられた。この辺りでおーい、とフラウラが帰ってきたので直接伝えることは叶わなかったが……


(頭ぽんぽんて、女子じゃなくてもときめくんだな……!!)


 じわじわ頬が熱くなる。ハッキリ言って子供扱いされただけだろうが……思わずくだらないことを噛み締めてしまったキノであった。













 午後、穏やかな陽光が降り注ぐ西の草原。3人が装備を整え、ヨハネス所有の馬とは別にもう一頭借りて乗り込み、黙々と向かうと……居た。牛と蛇の合体した合成獣キメラモンスター、オピオタウロスが。

 

 こちらから見る範囲では、怪物は丁度背中を向けている。草でも食べているのか地面に鼻先を下ろし、こちらを警戒する様子はない。先を行くヨハネスがすっと腕を伸ばす。“止まれ”のハンドサインだ。フラウラを抱えて馬に乗っていたキノは、緊張した面持ちで馬の手綱を引いた。

 

「ターゲットはあれだな。まだこっちに気づいてない。さて、どうするか……魔法使いか軽装のアタッカー、あるいは狙撃手アーチャーがいれば先制攻撃を仕掛けられるんだけどな」

「二人は出来ないの?」

「俺たちはどっちも重装備だ。基本一撃の重さを重視した武器だから、馬で行こうが走って行こうがどうしても敵に気づかれる方が先になっちまうんだよ……」

「へえ」


 全身鎧を着て、あまつさえ兜までがっちり被ったヨハネスと、軽装ながら旅人の服を着たフラウラがヒソヒソ言葉を交わす。残るキノは再びの革鎧姿だが、男二人が鎧を着込んでいるのにはそういう理由ワケがある。長剣にせよ戦棍メイスにせよ、走り込んで敵に襲われるより早く攻撃を食らわせることなど出来ない。それ故、近づいた後あちらから一発食らっても余裕なように、がっちり守備を固めているのだ。


 それを聞いていたキノはふんふんと頷き、二人同様難しい顔をして口を開く。


「よし、じゃあオレがいってくる!」

「お前、今の俺の話聞いてたか? その装備で相手から攻撃される前に先制で食らわせるのは難しいと思うぞ?」

「いいや、出来るよ」

「「?!」」


 目を丸くするヨハネスとフラウラの前で。キノは軽やかに馬から飛び降りると、ブンと戦棍メイスを振り回し、笑顔でなんなく肩に担ぐ。


「だって


 そう言ったが早いか、彼は駆け出した。


「キノ!! 待て!」


 ヨハネスの静止の声は聞こえない。届かない。だがキノは彼の予想より遥かに早く、疾風のごとくオピオタウロスへ迫る。そして本当に相手に気づかれるより早く辿り着いて──


「やッ!!」


 ガツン!!!!


 走り込む勢いそのままに、頭に一撃食らわせた。びゅうと血が飛び、オピオタウロスが濁ったでキノを見る。生きている。


(なんだ、気絶しないのかよっ)


 思い切り食らわせたはずなのに、タフだなこいつ。キノは飛び退り、血のついた戦棍メイスを振って余計な水分を飛ばす。仕方ない、こうなりゃ根比べだ。どちらの体力が先に尽きるか──勝負!

 

 再び肩に戦棍メイスを担ぎ、殴りかかる。このまま待てばいずれヨハネスも来るだろう。自分はそれまで、出来るだけこいつにダメージを与えておかなくては。伸び上がるように襲いかかってくる猛牛の角を避け、何度でも武器を振り上げ、打ち下ろして。戦局を制すべく攻撃を加えていく。

 


 一方、距離の空いたヨハネスは。


 

「チッ、昏倒すりゃ良かったのに!」


 キノと同じことを考えて唸り、馬の手綱を引いた。ヒヒン、と引っ張られた馬がいななき、前足を持ち上げる。


「フラウラ、ここを動くなよ。何かあれば戻ってくる。そん時ゃその杖で回復してくれ」

「わかった!」

「行くぞ!」


 パァン!

 必要な言葉を全て伝えたヨハネスは両足で馬の腹を蹴り、力強く駆け出した。馬上ですらりと鞘から剣を抜く。視線の向こうのキノはなんとも器用に戦棍メイス一本でオピオタウロスと渡り合っていて──素早く突き上げられても闘牛士のごとく立ち回り、致命傷を与えさせない。想像以上の体捌きだ。


「キノ! 無理するな、こっちへ寄越せ! 俺が掻っ捌いてやる!!」

「いいのか!? こいつでかいぞ!!」


 年下ガキにイイトコ持ってかれてたまるか。意気込み仲間の元へ駆けつける彼の目に、さっきまで入らなかった、だが今改めて飛び込んだ重大な情報は。


「んなッ……!」


 ゆうに5メートルを超えるであろう、大蛇の身体をくっつけたオピオタウロスの異様なサイズ。ブオオオ、ブルルル!! 間近で見ると牛部分も半端なくでかい。さしものヨハネスも顔色がさっと青くなる。


「なんだよこいつ、規格外かよ! だから報酬金貨だったのか!」

「怯むな! 殺られるぞ!!」

「うるせェ、チビが指図すんじゃねェ!!」


 それまでキノが散々殴っても倒れなかった猛牛である。気を抜いた方が殺られる。そんな事は火を見るより明らかだ。


「キノ、眉間を狙え! お前なら出来る!」

「合点!!」


 即座に気持ちを切り替えたヨハネスが指示を出し、キノが走り込む。直線で距離を保つと一気に詰め寄られる。下半身が蛇の相手ゆえ、とにかくそれを避けてぐるぐる間合いを取り。


「うらァ!!!!」


 キュ、と急激に角度を変えて飛びかかる。鮮やかな金髪を靡かせたキノの身体が宙を舞い、放物線を描いて落ちて。


 ガ ヅ ン!!!!


 重たい音が響いた。牛部分がぐらりとかしぎ、ついにいい一発が入ったと知れる。好機チャンスだ。


「おっし気合い入れろ相棒! 軍馬だろ、ビビんじゃねェぞ!!」


 そこで再びヨハネスが馬を蹴る。とん、と地面に降りたキノと入れ替わりにグングン怪物に迫り、


「吹っ飛べえ!!!!」


 オピオタウロスの脇を通るように走り抜ける。長剣を横に構えたヨハネスの一撃は一瞬の隙を突き、黒い猛牛の太い首に食い込み、



 ボ  ッ



 そのでかい頭をすっ飛ばした。あちこちに太い蛇の身体がのたくっているので、馬は慌てて何度も跳ねたが。ドスンと頭が落ちる頃には無事スピードを緩めていた。


 血溜まり。

 噴水のように血を吹き出す牛の身体が揺らぎ、地響きと共に落ちて。


「かっ……」

「勝ったぁ……!!」


 二人は思わず互いの手をパン! と打ち鳴らした。振り返ればキノが多少角をひっかけられていたものの、二人共ほぼ無傷。パーティー初陣としては素晴らしい戦果を上げることが出来た。


「二人共〜〜!」


 そこで遠くから甲高い声が聞こえてくる。その声にどちらともなく顔を向けると、フラウラがなんとか馬を宥めながらこちらに向かってきていた。ぽこぽこ、ぽこ。乗馬に慣れていないらしい彼女の指示に、馬の足取りは重かったが。


「おう、今そっち行く!」


 ヨハネスが手を上げ、無事合流する。フラウラは真っ赤な目に負けないくらい頬を紅潮させ、二人を馬上から見下ろした。


「すごいすごい! あんなに強そうなのをあんなにあっさり倒しちゃうなんて!」

「いや、だから、サイズさえ普通なら大したことないんだって……あれはデカすぎだけど……」


 照れつつ謙遜するヨハネスに対し、モンスター退治初体験のキノはにこにこ笑顔でフラウラに答える。


「えへへ〜〜、オレ頑張ったよ! だから今日は皆でご馳走食べよ! なっ、いいだろヨハネス! 金貨一枚手に入るんだもんな?」

「いいねぇ、今日はパーティーだ〜〜! いいよねヨハネス! これで拒否ったらリーダーじゃないぞ!!」

「えっ??」


 ちびっこ二人にきらきらした目で見つめられ、いつの間にかご馳走を食べる話をまとめられたヨハネスは。


「〜〜〜〜、わぁったよ! はいはい今日はご馳走! 何が食べたい?!」

「「わぁーーい!」」


 正直、彼自身もまだまだ若者故。カロリーの高いご馳走を食べたくないわけもなく、あっさり二人の提案を受け入れた。キノがいそいそ馬に乗り込み、三人で街を目指す。着いたら夕刻。着いたらご馳走。三人は明るい気分で帰途に着いた。


「そーだなぁ〜、まずはステーキでしょ〜」

「私林檎酒シードル! あと甘いプディングが食べたい!」

「あーじゃあ俺はミートパイ! それから牛乳たっぷりのシチューとチーズトーストとサーモンのマリネと、ブランデー!」

「「いいねぇ〜!!」」














「「「わぁあああ、ご馳走だ〜〜〜〜!!!!」」」


 夕刻。街に戻って金貨一枚手に入れた彼らが向かったのは、昼よりグレードの高い酒場。料理が美味いと評判の店だった。


「はぁカスタードプディング♡甘い♡最高♡♡」

「わぁ〜〜牛肉のステーキ! こんなでかくて柔らかいの初めて食べた!!」

「あーーーーッ、バトった後生きて飲む強い酒ブランデーは美味ぇな〜〜!! サイコー!!」


 目の前に山と料理を広げ、次々平らげていく。美味い美味いと食べ続け、ノームで小柄なフラウラは女子故、ほどなく満腹になったが。食べ盛り伸び盛りのキノとヨハネスは延々料理をかっ込み続けた。


「やだ……大丈夫? あんま食べるとお腹壊さない?」

「平気平気! 今まで食べたくてもこんなに食べられなかったからさ、腹いっぱい食べられるの本当に嬉しいんだ!」

「おーおー、せっかくだから食え! どうせ今まで栄養足りてなかったんだろ、だからこんなにチビなんだ。大きくなれよキノ!」

「全く……最後は自分で部屋に戻ってよね?!」


 大皿に積まれたステーキが消え、サーモンのマリネが消え、気持ちばかりのサラダも一応なくなったが、ミートパイ、ソーセージ、シチュー、ニシンのフライ、チーズトースト、ボロネーゼパスタ、ドライフルーツの入ったクランブル、カスタードプディング、林檎酒シードル、エール、そしてブランデーが立て続けに消費された。

 それをただ眺めていたフラウラは若干青い顔だ。


「やば……若い人間ノーマン男やば……こんなに食べるの……引く……」

「大丈夫大丈夫! あーーっ食べた! お腹いっぱいだ〜〜幸せ!」

「おーー、今日はめちゃくちゃいい気分だ! おかげで気持ちよく寝れる……むにゃ……」


 ハッ。

 ヨハネスの意識が混濁しかけているのを見て、キノとフラウラが必死に目を合わせる。待て、一番図体のでかいヨハネスにその辺で寝られては困る。いくらなんでもこの二人では運べない。慌ててヨハネスの頬を叩く。


「ヨハネス! こんなとこで寝ちゃ駄目!! ほら宿屋行こ! 今日は羽毛でふっかふかの高級ベッドに寝ようって言ってたじゃんか〜〜!」

「いや、宿屋のグレードとかこの際どうでもいいから! とにかく寝ないで! 立って歩いて! ヨハネスぅ〜〜〜〜!!!!」


 キノが服を引っ張り、フラウラが肩を揺さぶる。半分閉じかかっていたヨハネスの瞼は、二人の必死の呼びかけによりぱかりと開いた。


「んぅ……なに、なんだって……?」

「ヨハネス! ほらぁ、立って歩いて! 歩けなくなる前に帰ろうよ〜〜」

「わかったわかった……」


 ぐらりと身体を傾がせ、なんとか立ち上がる(推定)最年長のリーダー。しかしいざ立ち上がった彼が口にした言葉は、


「…………きもちわる…………」

「「えっ」」

「やば……調子に乗って飲み食いしすぎたかな……それともブランデーが効いたかな…………」


 不穏極まりない一言。言われてみれば若干顔が青い気がするが……そんなことを聞いてしまったキノとフラウラは、当人のヨハネス以上に真っ青になった。


「待って落ち着いて! ゆっくり、ゆっくり歩いて帰ろう?! それなら大丈夫だから……!」

「いや、もういっそ外出て茂みで吐いてくればいいんじゃない?! 無理して帰って宿屋汚したら最悪なんだけど!!」


 おろおろする二人に、すっかり顔色が悪くなったヨハネスがかけた言葉は。


「じゃあ、うん、後者でよろしく」


「「ヨハネスーーーー!!!!!!」」

 


 これを前途多難と見るか、仲良きことは良きことかなと取るかは。読者のあなたの判断に委ねる。

 とりあえず、二人は此度の騒動を受けてめちゃくちゃ誓った。

 二度とこいつにアホみたいに酒を飲ませないと。



「ヨハネス!!! せっかくかっこよかったんだから台無しにしないで!! お願いだからぁ〜〜〜〜!!!!」



 悲痛な声が暗くなりかけた冒険者街に響き渡り、あたりの通行人に笑われたのは言うまでもない。


 

 


 

 

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【KACアンラッキー7】でこぼこトリオと青い鳥 葦空 翼 @isora1021

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