七瀬七恵は七転び

味噌わさび

第1話

 俺、八尾京介の幼馴染である七瀬七恵は、非常に運がない。


 運が無いのかドジなのか、鈍くさいのか……とにかく、何かと不幸な目に遭う。


「おはよう! 京ちゃん!」


 朝。七恵が俺を迎えに来る。いつものように満面の笑みで笑いながら。


「あぁ。おはよう」


「ふぎゃっ!?」


 と、挨拶をしているのに夢中だったのか、七恵は豪快に転んでしまった。


「お、おいおい……。大丈夫かよ?」


「え、えへへ……。だ、大丈夫……」


 恥ずかしそうにしながら、七恵は顔を上げて俺に苦笑いする。


 こんな感じで七恵はとにかく、不幸な目に遭うのである。


 学校にいく途中でもまたしてもコケそうになっていたし、学校についてからも教科書を忘れてきていたり、昼食を食べようとすれば、そもそも弁当を忘れていたり、かといって、学食に買いに言ってもすでに売り切れていたり……等など、挙げていけばキリがない。


 といっても、単なる不幸や七恵自身がドジなだけに過ぎないのかもしれない。


 ただ、これがほぼ毎日のように起きているとなると、流石に不憫に思えてくるのは、俺が幼馴染だからだろうか。


「はぁ~……今日も疲れたぁ~」


 帰り道。七恵はとても疲れていた。そりゃあ、あれだけ不幸な目にあっていれば、疲れてしまうものだろう。


「……なぁ。七恵」


 俺は思わず訊ねてしまう。


「ん? 何?」


「その……大丈夫か?」


「え? あぁ。うん。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだし」


「いや、その……お前、いつもそうだけど、コケたり、忘れ物したり……なんというか、不幸な目に遭いやすいというか……」


 俺がそう言うと七恵は少し悲しそうに視線を伏せる。流石にストレートに言い過ぎただろうか?


「……私さ。好きな言葉があってね」


「え? 好きな言葉?」


 と、いきなり七恵がそんなことを言ってくる。


「うん。『七転び八起き』なんだけどね」


「……そうなのか。それは……」


 七恵は急に笑顔になって俺の事を見る。


「私、確かに不幸な目に遭うし、ドジもたくさんしちゃうよ? だけど、どんなにダメダメな日でも、こうして、京ちゃんと一緒に帰ることができるって思うと……そんなに悲しくならないんだよね」


 ……普通に恥ずかしいことをさらっと言ってくる七恵。むしろ、俺のほうが恥ずかしくなってきた。


「……そうか。だったら……大丈夫なのか」


「うん。それにさ、このことわざって……なんだか、私達の名前みたいでしょ?」


 そう言って七恵はニッコリと笑った。俺は恥ずかしくなって思わず視線をそらす。


「そ、そうかもな……」


「うん。だから、大丈夫だよ。じゃあ、帰ろっか……って、おっとっと!」


 と、七恵がまたしてもコケそうになったので、俺は思わず七恵の手を掴む。七恵はバランスは崩したが、コケるのは間一髪回避することができた。


「あ、あはは……ごめんね。言っているそばから……」


「……いや。別に大丈夫だよ」


 俺と七恵は思わず手を繋いでいる状態になってしまっていることに気づき、慌てて手を話す。


「と、とにかく! 帰ろっか?」


「……あぁ」


 俺と七恵は再び歩きだす。確かに七恵の言う通りかもしれない。


 例え、どんなに転んでも……俺が七恵が起き上がれるようにすればいいだけの話なのだから。

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