邂逅のダイヤモンド【KAC20236】
銀鏡 怜尚
邂逅のダイヤモンド 〜或るメジャーリーガーの回想〜
時は10年前の2033年3月。ラッキーセブンの7回表についに均衡が崩れ、俺のチームは盤石な投球を続けていた相手チームのエース、中日ドラゴンズに所属する左腕、タマシロ・キョウタから、ついに連続タイムリーヒットで一挙3点を獲得した。
終盤の3点リードは、相手に致命傷に近いダメージを与える。なぜなら、俺のチームも鉄壁の投手リレーと堅牢な守備で、大量失点を許さなかった。それが、この決勝戦へと繋がっている。
そして、7回裏の守備。ここからはリリーフで俺が登板する。
先発のランディー・リチャードソンも好投していたが、相手も巧打・強打のチーム。0点に抑えていたとはいえ、ヒットは打たれていたし、何と言っても球数が多くなっていた。
しかしながら、ここでリリーバーとして俺の名前が告げられたのは偶然ではない。なぜなら、今戦っている相手は、ある意味で旧友なのだ。
⚾ミ
19年前、21歳だった俺は、オリックス・バファローズと育成契約をした。マイナーリーグで
コーキは、驚くべきことに高校から野球を始めて、高校3年間の練習でプロからドラフトで指名されるというセンスと才能の塊だった。今ではライトのレギュラーを勝ち取り、クリーンアップでチャンスメイクに貢献している。
コーキには本当に感謝している。困っているときには積極的に声をかけてくれるし助けてくれた。唯一助けてくれなかったのは、コーキの故郷、ミヤザキ県の高校のチームメイトだったという『ブーゲンビリアのサウスポー』という異名がついた140 km/h超えの豪速球を投げるスーパーガール、メグルちゃんに会わせてくれなかったこと。超絶美人で、俺のタイプ直球ど真ん中だから、俺は紹介してくれと何度も何度も頼んだが、それだけは聞き入れてもらえなかった。何でだ? コーキの
それはさておき、オリックスで技術を磨いた俺は、右肩を酷使した結果ケガを負ってしまった。ちょうどそのとき、運悪く若手投手の台頭で来季の構想から外れてしまったが、故郷アメリカの球団が俺を拾ってくれた。それから奇跡的に復活を遂げ、何と夢だったメジャーリーグのマウンドで闘っている。
そして、この年の
⚾彡
俺は日本の野球を知り、打者の特徴を知り、さらには日本代表の監督は、オリックス時代にお世話になったオカダ・トモキさんだから、監督の戦略も知り、これ以上ない機会でマウンドに送り出されたのだ。
しかし、2アウトまでは簡単に獲ったが、上位打線を迎え、俺は気負ってしまった。1番打者、ソフトバンク・ホークスのシャカゴーリ・ツカサを内野安打で歩かせてしまった。シャカゴーリは、日本にいたときからとにかく歩かせたくない選手の1人だった。この男が塁に出ると、何か仕掛けてきそうで、投球に集中できなくなる。
コーキの情報によると、この男も、同じ高校で高校から野球を始めた選手だとか。メグルちゃんのファンで有名だったらしい。メグルちゃんは、天才野球美女というだけじゃなくて、野球を上達させる魔法でもあるのだろうか。あぁ、今からでも遅くないから、俺にメグルちゃんを紹介しろ、コーキ。
いけないいけない。邪念を抱えて、ますます打者への集中が乱れる。それは投球への乱れに繋がり、2番の広島東洋カープのセト・ハヤト、3番の千葉ロッテマリーンズのヨシザワ・ナオキを連続フォアボールで歩かせてしまう。
マウンドにチームメイトが集まる。どうした、とか、交代した方がいいか、とか声をかけてくる。でも、次の打者は4番に入った元・チームメイトで旧友、クリハラ・コーキ。
「悪いが、俺に投げさせてくれ。
「お前の親友なんだな。分かった! でも、打たせてもいい! 俺らを信じてバッター集中で投げろ!」
『4番、ライト、
今大会絶好調のコーキ。マウンドで初めて
行くぞ、コーキ。俺だってオリックスに残っていたかった。一緒にプレーできないのは寂しいけど、それでもこんな大舞台でお前に投げられるのが楽しくてたまらないよ。
渾身のストレートは150 km/hをゆうに超える感覚。しかも、コーキの内角膝下ギリギリにレーザーのように決まった、かと思った──、が、しかし!
コーキは腕を綺麗に畳んで、一気に振り抜いていた。打球は快音とともに美しい
逆転満塁ホームランを与えてしまった……。
「完敗だよ……、コーキ」俺は
🏏
結局、試合は3対4で敗北を喫した。
試合後、俺は真っ先にコーキのもとに歩み寄って、久しぶりの
「イイ試合ヲアリガトウ、コーキ、イイ
「アミルカルもいいボールだった。満塁のチャンスの場面だったから打てたんだ」
俺、アミルカル・リケルメは、一部から諸悪の根源だとして非難を浴びたが、あれは失投ではなかった。むしろ、絶好の決め球のストレートだった。
あの球を打たれたのは、相手が随一の巧打者のコーキだからであって、他の打者だったら、三振に切ってとれたはずだ。だから、紛れもなくアンラッキー。アメリカにとっては魔の7回『アンラッキー7』かもしれない。でも、俺にとっては、互いに成長した姿で親友と対戦し、真っ向勝負の渾身のストレートを打ってくれた想い出。あの涙は、悔し涙でもあり、嬉し涙でもあった。
その後、俺はメジャーリーグでセットアッパーとしての地位を不動のものとし、30歳を過ぎてからサイ・ヤング賞にも輝いた。もし、コーキに打たれたホームランがなければ、ここまで頑張れなかったかもしれない。だから、実は『アンラッキー7』ではなくて、長い目で見ると本当は『ラッキー7』だったのだ。
もちろん現役時代そんなことは語れなかった。しかし、40歳でメジャーリーグを引退した今、はじめてコーキとの決戦を振り返り、記者に当時のことを初めて語った。
邂逅のダイヤモンド【KAC20236】 銀鏡 怜尚 @Deep-scarlet
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