逆位置の7

闇谷 紅

アンラッキー7

 この領都では割と有名な類の話の一つにこうある。


「『アンラッキー7』に気をつけろ。決してかかわるな」


 と。


「何だよそれ、怪談か何か?」

「んー、まぁ近いな」


 学生寮の部屋の中、マットレスと底板を一枚挟んだ二段ベッドの上からの声が僕の問いに答えた。


「上下逆に書かれた『7』ってのと関わり合いを持つと不幸になるってたぐいの話だ。それが何なのか詳しいことはわかっちゃいないんだがな」

「へぇ」

「一説には『犯罪組織に所属する構成員の証』だとか『暗殺者が依頼人とのやり取りに使う符丁』だなんていう説もあるらしいが」


 僕の生返事にルームメイトのジェームスは饒舌に解説を続け。


「多分、どれも違うんじゃないかな?」


 敢えて僕はそれを否定する。


「うん? なんでだ?」

「だって、ジェームス、君の背中にでかでかとその『アンラッキー7』が書かれてるからさ」

「はっ?」


 二段ベッドの上にあがるには梯子を上らないといけないのだが、梯子を上るルームメートの背には確かにそれが書かれていて。


「おいおい、冗談でもやっていいモンと」


 その直後だった。窓を割って何かが飛び込んできたのは。


「「うわぁっ」」


 ルームメイトが直前まで解説してたとこにコレだ。僕が本気でビビったとしてもどこに非があろうか。上のベッドでジャームスの方も驚いていたようで、声はかぶって。


「痛たた……って、うわぁ。窓破っちゃったのか。もー、窓は開けとくって約束だったの……」


 顔を顰めつつ身を起こした侵入者は僕と目が合って硬直した。


「誰?」


 割と可愛らしい少女だった。若干茶色みを帯びた肩までの金髪。背は僕より頭一個分は小さく、顔立ちは整っていて、胸の膨らみは暴力的に大きい。ただ、見ない顔でもあり純粋な疑問は口を突いて出て。


「ご存じないのかしら? 『アンラッキー7』よ」


 気をつけろ、関わり合いになるなと話にあったそれを少女は堂々と名乗ったのだった。


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逆位置の7 闇谷 紅 @yamitanikou

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