同棲生活、三日目

 許嫁である『関 咲良』との同棲生活が始まり、三日後。咲良と共に学校に通い、ラブラブな毎日を送っていた俺。


 けれど今日はちょっと違った。


 廊下を歩いていると、俺の前に立ちはだかる男が現れた。


「……よう、有馬。探したぜ」

「誰だ?」

「貴様、この顔を忘れたか!」


 誰だ、このボロボロの学生服を着た男子生徒。そもそも、俺に友達なんていない。となると……どういうことだ?


「誰だっけ」

「有馬、貴様ああああああ! 俺は『響士郎きょうしろう』だ!」


 響士郎……、響士郎……、響士郎!?


 ああ、そうだ、思い出した。


 彼の名は『いずみ 響士郎きょうしろう』。中学時代の同級生だ。……とはいえ、同じクラスだったのは一年間だけだったけど。そういえば、隣の席がコイツだから、多少会話をする機会もあったっけ。



「響士郎か」

「思い出したか――このボケ!」



 いきなり殴りかかってくる響士郎だが、俺の方に咲良が走ってきた。


「純くーん、おまたせ~」


 直後、響士郎の拳がピタリと止まる。それどころか顎が外れるくらい驚愕していた。驚きすぎだろう。



「…………なッ」

「そういうわけなんだ、響士郎。俺は忙しいんだ」

「なッッッッッ!!」



 咲良の手を握り、俺は屋上へ向かった。響士郎は愕然となって立ち尽くす。アホだ、アイツ。



 * * *



 屋上へ向かい、柵を背に座る。

 咲良も同じようにして俺の隣に。


「ねえ、純くん。さっきの男子、誰?」

「あー、アイツはただの人畜無害さ」


 そう説明すると咲良は「そうなんだ」と納得した。俺は懐から昼食のチーズポテトスティックパンを取り出す。最近のマイブームでもあった。これ、美味いんだよなぁ。


「ほら、咲良の分」

「わぁ、純くんのお腹から美味しそうなパンが出てきた」

「どうだ、凄いだろう」

「うん、まるで未来のネコ型ロボットみたい」


 出せるのはパンと飲み物だけだがな。

 紙パックのコーヒーも取り出し、昼食にした。


「ほら、コーヒー」

「ありがとう、純くんのこーゆー優しいところが好き」


 ハイビスカスみたいな繊細な笑顔を俺に向ける咲良。その一撃に俺は脳内でジタバタしていた。


 こんな可愛い女子が俺の許嫁だなんて、本当に信じられん。いつも夢心地な気分だ。もしかしたら、俺は夢の中にいるのだろうか。


 確認しようとすると、頭上に重みを感じた。誰かが乗ってきたんだ。



「くぉら、有馬!」

「……響士郎。なんだ、俺たちを邪魔する気か」


「ああ、邪魔させてもらうぜ。てか、この美人は誰だ! 紹介しろ」


「紹介もなにも、さっき許嫁と言ったはずだ」

「言ってねーよ! この嘘つき野郎、こんなアイドルみたいな女子がお前の許嫁なわけなかろうがっ」



 響士郎は俺の頭をグリグリとしてくる。事実なんだがな。対応に困っていると、咲良が説明してくれた。



「あ、あのぅ。わたしと純くんは本当に許嫁です」

「なにィ!? 本当に、この有馬と許嫁なのか」

「はい。ところで、あなたは?」


「俺は、泉 響士郎……同学年だ」


「そうだったんですね。泉くんですね、よろしく」

「よ……よろしく」


 なに顔を赤くしているんだ、響士郎のヤツ。呆れていると、響士郎はキリッと表情を変え、グワッと俺に迫ってきた。


「な、なんだよ、響士郎」

「有馬! この美人と許嫁だか何だか知らんが、決闘しろ!!」


「あ?」


「あ? じゃねええええ! てめーに相応しくねぇって言ってるんだ、タコスケ」



 この流れ、前にもあったような。ああ、そうだ。どこぞの先輩さんと戦ったな。――って、まずいぞ。このままだと対決するハメに。


「却下だ」

「なに!?」

「俺はもう戦わん。対決する暇があったら、咲良との時間を有効に使うね」


「貴様、逃げる気か」


 響士郎は、冷めた感情で言葉を放つ。


「…………んだと?」


 俺はつい“カチン”ときてしまった。

 普段の俺ならそんなゴミみたいな煽りはスルーするところだ。しかし、響士郎は例外だ。中学の頃を思い出したんだ。


 響士郎は、俺の昼食のカレーパンを盗み食いしやがったんだ! 今更ながら怒りが込み上げてきた。食べ物の恨みは恐ろしいぞ!!

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隣の席の関さんが許嫁だった件 桜井正宗 @hana6hana

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