キスと新生活

 スマホを見ると、そこには着信があった。電話か。でも、相手が不明だ。詐欺の電話じゃないといいが――念のため出てみると。


『娘が世話になっているね、純くん』

「って、まさか! お義父さん!?」

『その通りだ。番号は娘から聞いてね……。それより、新居はどうかね』


 いつの間に教えていたんだー!?

 マジでびっくりしたぞ。


「さ、咲良……これはどういうことだ」

「ごめんなさい。お父さんの条件だったから」

「そうか。それなら仕方ない」

「許してくれる?」

「いいよ。咲良ならなんだって許す」

「ありがとう、純くん」


 となると、お義父さんにきちんと返事をしないとな。


「ありがとうございます、お義父さん。おかげで俺と咲良は幸せです」


『そうかね、そうかね。それは良かった。私はこれから海外出張だ。君に娘を任せる。だが、一週間後にはまた日本に帰ってくる。その時にきちんと生活ができていなかったら……結婚は認めんので注意するように』



 マジか!!

 つまりこれは試験でもあるってことか。俺がだらしないことをすればアウトってことらしい。なんとしてでも咲良を幸せにしてやらないと。



「分かりました。俺、がんばります」

『君を信用していないわけではないが、親として色々と不安なんだ。……まあ、純くんならきっと大丈夫だろうが、用心するように』


「肝に銘じておきます」

『良き返答だ。では、私はこれからアメリカへ行く。さらばだ』



 そこで電話は切れた。

 お義父さんに任された以上、俺はがんばらないとな。



「咲良、お義父さんからだ。規則正しい生活を心掛けろってさ」

「うん、そうだね。わたしと純くん、清く正しい同棲生活をしようね」


 手を握られ、俺はドキドキした。

 更にキスを迫られて……って、これではアウトに限りなく近づいてしまうのでは!?


「ちょ、咲良……」

「キスくらい……いいでしょ?」

「し、しかしだな」

「お義父さんもキスくらいなら許してくれるよ。それに、誰も見てないし」

「それもそうか」


 納得した俺は、咲良の両肩に手を置いた。見つめ合い、俺はそっと咲良にキスをした

 これがスタートだ。


 俺はまだまだ未熟だけど、この新しい生活から変われるような気がしていた。いや、すでに咲良のおかげで俺は随分と変わった。


 親が勝手に決めた許嫁ではあったけど、俺は咲良と出会えて良かった。

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