いつもの挨拶
喫茶店のテラス席で、紅茶を飲んでいた。木枯らしのかわいた風が、ティーカップから立ち上る湯気を運んでいく。パラソルが正午のさんさんとした日光を程よく吸収してくれる。
注文したのはミルクティー。砂糖を小さじ1杯分入れるのが、私の好みだ。ミルクの風味を邪魔せず、程よい甘さを味わえるから。
テラス席に他の人はいない。この寒さの中で優雅にお茶をする余裕がないのだろう。私が「テラス席でお願いします」と言った時、店員さんは若干嫌な顔をしていた。道行く人も少ない通りにある店なので、この空間を、わたし1人で独占しているよう気分になる。
その上で、さらに私だけの空間に入り込むために、カバンから小説を取り出す。お気に入りの作者の新作だ。今回はクラゲをテーマに書いたらしい。前はサメだった。海洋生物が好きなのだろうな、と思いながら栞の挟んであるページへと飛ぶ。
────
気づけば、14時を回っていた。ティーカップにはあと1口分のミルクティーが残っている。たった1杯の紅茶で、ここまで長居するのは相変わらず申し訳ない気持ちにはなる。だが、1度も注意されたことがないし、そもそも人でごった返すほど繁盛していない。私のような常連には、ある程度寛容なのだろう。
残りのミルクティーをグイッと飲み干す。本に栞を挟んで、カバンにしまう。食器を店の中に持っていき、返却口へ置く。
「ご馳走様でした。また来ます」
いつもの挨拶を残して、私は帰路についた。
お焚き上げ短編集 玄米 @genmai1141
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