就職面接の順番はラッキーセブン

夏空蝉丸

第1話

 就職の最終面接会場で俺は信じられないことを聞いた。応接室の入口前で自分の番を待っていた時のことだ。多分、会社の志望理由を問われていたのだと思う。それに対して、


「金だ、金だ」


 と大きな声で答えているのが聞こえてきたのだ。


 馬鹿なやつ。と思っていると、中から就活生が出てきた。きっと、落ち込んでいるか逆ギレして怒っていると予想したが、何事もなかったように平然としている。


 はぁ? 意味がわからない。就活で志望理由を答えるのは、女性に告白するのに似ている。


「女なら誰でも良かったんです」


 なんて告白して成功する人は普通いない。これで成功するのは、芸能人レベルのルックスか石油王並みの財力がある人間くらいだ。就活だって同じで、もし、普通の人にはない特別な技能や知能を保有しているのであれば、


「金のために志望しました」


 でも許されるだろう。だが、こちとら十把一絡げの就活生。懇切丁寧に滔々と志望理由を述べて相手に気に入られようとするしか無い。


 俺が呆れ返りながら部屋に入ろうとしたら、中から声が聞こえてきた。


「今の人物の元気さは素晴らしい。採用確実だな」

「金だ……が良かったな」


 えっ? 嘘だろ。そんな馬鹿な。ありえない。確かに部屋の外まで聞こえてくる元気さはあったがおかしいだろ。俺は動揺しながらもノックをして部屋の中に入る。終始混乱しつつも面接を無難にこなしていき最後の質問に辿り着く。


「志望理由は……」


 答えに迷っていた。用意していた言葉はあまりにも陳腐で詰まらない。それならば、さっきの就活生のように……


「金です。お金のためです」


 と部屋の外にも聞こえるような大声で発言する。絶対に合格確実と考えて面接官たちの様子を窺うと態度がおかしい。


「面接番号7は外れか。アンラッキー7ってところか」

「さっきの金田くんとは大違いだな」


 俺は何かヤバい勘違いをしていたのではないかとこの時に気づいた。

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