宝船アドベンチャー

Shiromfly

いざ初夢

 近年、年始の初夢需要はますます減り、七福神たちの営業成績は悪化の一途を辿っている。


 いまどき枕の下に宝船の絵を仕込んで寝るような者は、決して多いとは言えない。

 

 それに比べてサンタクロースはどうだ。

 あの軽薄な、あっかい服で目立つだけでは飽き足らず、空飛ぶトナカイにソリを引かせてプレゼントをバラ撒くなどという姑息な手で人気を博している。子供騙しとはいえ、判り易くてキャッチーなロマンで負けていることは否定できないが、クリスマスの雰囲気でテンションが上がった民衆は挙って靴下を飾り、プレゼントというブツに釣られて喜んでいるのには辟易していた。一般家庭に暖炉や煙突なんて殆ど無い国の癖にだ。


 時期的にも近いサンタクロースの台頭と活躍を快く思わない七福神サイドは、負けっぱなしでたまるか、と一念発起するが、昔ながらの金銀財宝をただ増量するという浅薄な手段を取ったのは失策だった。そもそも珊瑚だの金銀だの、旧態依然とした『宝物感』から脱却できていない時点でお話にならない。老人ばかりが集まって何かを決めても碌なことにはならないという一例だろう。


 過積載。粗末な木造の船に手当たり次第にモノを積んだ結果、肝心の七福神が乗るスペースすら確保できなくなった。この点については以前より指摘されていたものの、サンタクロース憎しの余り、彼等は問題を見て見ぬフリしたのだ。


 山と積まれた宝物の上に乗る彼等だったが、ついに宝物はバランスを崩して決壊。キラキラ輝く雪崩と化した宝の重みは、いよいよ船の限界を超えて。


 年の瀬の洋上で転覆した宝船の中で、生存を賭けた七福神たちの脱出劇が、いま、始まる――。


 苦難を前に、絆を試される七福神。

 時に協力し、時に反目しながら辛くも生還を果たしたものの、冬の荒海を漂う彼等にそれ以上成すすべはない。しかし!


 しゃりん――。

 響く鈴の音!


 絶対絶命の七名を救いに来たのは、なんと勝手にライバル視していたサンタクロースだった! 敵同士が手を取り合う胸アツ展開に、年末年始ファンは号泣。


 月をバックに舞い降りてくるサンタとソリとトナカイのシルエットのシーンは鳥肌が立つほどにキまっている。


 よく判らないけど、サンタはイルカやクジラを使役する能力を持っていたらしい。トナカイを操れるのなら、哺乳類つながりでまあいけるだろうと無理矢理納得するしかない。海底に沈んだ宝物を海洋生物たちがサルベージして海面に跳ね上がる神秘的な光景はまるでラッセンの絵みてーな美しさである。


 サンタのソリやトナカイに搭乗びんじょうした七福神たちは、こうして、日本で待っている初夢というステージに立つことができたのだ!!



 だが、物語はここでは終わらない。

 

 実は、宝船の沈没やサンタクロースの登場は全て、ある裏切り者が画策した陰謀だったのだ。闇堕ちした七福神の一人が福ではなく厄の力に魅入られてしまったみたいな感じで、膨大な宝物を積んだ宝船を沈めることで船舶保険金を騙し取ろうとしたらしい。


 いったい、その者とは誰なのであろうか――?


 交錯する猜疑心は、ついに戦いに発展する。


 基本的に一番強い毘沙門天の無双―—暴走を誰が止められるのか?

 大黒天が振るうハンマー(小槌)の威力とは?

 弁財天の入浴シーンで若者の心を掴めるのか?

 福禄寿はなんで頭が長いのか? 何か詰まってんのか?

 寿老人とだいぶキャラ被ってるけど、初見で見分けがつくのか?


 恵比寿の釣り竿が唸り、布袋ほていの袋からは色んなもんが飛び出す!


 七福神の座を奪われるる災禍アンラッキーを喫するのは、誰なのか。 


 古来より繰り返されてきた七福神のメンバー交代の真実が、遂に明らかになる!



 20xx年、満を持して公開。

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宝船アドベンチャー Shiromfly @Shiromfly2

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