陽来留郷《ひくるのさと》の不運
仲津麻子
第1話陽来留郷の不運
ヒクルというのがもといた国だったのだが、ヒクルの
ヒクルの神話によると、神川とは、天上にある
神川の流れの先にはそれぞれ別の天地が
接触してしまったふたつの世界は、しばらくして離れたのだが、不運なことに、ちょうど接点になった一部の地域だけが、本国から切り離され、
このことを知っているのは、成人した日に親から聞かされる
「もう、これだけ年月が過ぎては、我らが、ヒクルに属するとは言えない。かと言って、日本人であるとも言いきれない」
先々代の
「先人たちは、いつかヒクルに帰る日を願って、郷を維持してきました」
池のある敷地、
「そうだな、確かに。それは郷人の希望であった。少なくとも、こちらへ来てしまった当時は悲願だったろう」
真助は遠い昔に思いを馳せるように、天を仰いだ。
「だが、陽来留郷は地球と同じことわりでは存在できない。緋衣と黒衣の祈りがとだえれば、やがて、郷人もろともに消滅するかもしれない」
真助は、独り言のように続けた。
「三本の神木に、緋衣と黒衣、そしてその子である
「言い伝えにはそうありますが、本当に郷は消えてしまうのでしょうか」
瀬尾は苦しそうに、ため息をついた。
「さあな、これまで、七六代は途絶えたことがなかったのだから、わからんが。だが、緋衣も黒衣もいない現在、郷の自然が荒れてきているのは確かだろう」
「先代、七七代の緋衣様も、黒衣様も、後継がお育ちにならぬうちに亡くなられたのは、ご本人にとっても、我ら郷人にとっても不運なことでございました」
「不運か。ヒクルから切り離されたのも不運。先代が早逝したのも不運」
真助は大きく息を吸って、小道を進んだ。
「だが、次代の
真助は小さくつぶやくと、池のほとりに立つ三本の木へ歩み寄った。そして、一番奥にある大木に手を添えると、目を閉じた。
※
(終)
陽来留郷《ひくるのさと》の不運 仲津麻子 @kukiha
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