うまくいかない異世界転生

exa(疋田あたる)

第1話

 転生者として三人を選んだ。

 まずこれがひとつめの不運だった。


 選んだものは憤慨した。


「なんだ、あの三人組は。ひとりは加護を与える前に勇んで界を渡り、ひとりは加護を過剰に欲しがり、ひとりは泣いて話にならんとは」


 おかげで三人選んだうち、転生を果たしたのは二人だけ。

 泣き止まないひとりは界を渡りきれずに消滅した。


「まあ、二も三も変わるまい。要は停滞しつつあるあの世界に刺激を与えられれば良いのだから」


 ぼやく声など知らずに、二つの魂はそれぞれに転生を果たした。

 加護を得る前に界を渡った一人は、元の世界での記憶だけを抱えて生まれ落ちる。


 生まれた先は平凡な夫婦の元。


 自我が発達するにつれて、生じてきたのは前世と今世の不和。


 これがふたつめの不運だった。

 前世を覚えたまま生まれ落ちようとも、記憶をおさめる脳がひとつきりでは、新たな記憶の行き場がない。


 結果、夫婦はまっとうに育たない我が子に見切りをつけて、一つの魂は世界になんの影響も及ばさないまま消えていった。


一方、加護を得て転生した魂は、記憶を無くして生まれていた。


 いくつもの加護を願った代償として、記憶が消し飛んだのだ。

 

「奇跡だ! この子は神に愛された子だ」


 声高に叫んだのは、加護待ちが生まれた地域の富豪であった。

 物心つく前に加護を示した幼児が、金と引き換えに親元から引き離されたのが第三の不運。


 その後も加護が判明するたび金で取引され、いつしか首輪を嵌められたのが四つ目の不運であった。


 あちこちを転々とする間に身体は成長するも、周囲は加護を持つ道具としてしか扱わない。

 その結果、心は満足に成長する機会を得られず、国をまたいだ転売に次ぐ転売によって、言葉もまともに覚えられはしなかった。

 本人はその不運を不運と認識すらできない、これが五つ目の不運。


 そうしていつかその身が闘争を好む権力者のもとに渡ったのは、本人にとっても世界にとっても不運な出来事であった。


 そして、自我が確立しないまま力を増した加護は、もはや人の手に負える領域を超えていた。


 過ぎた力は過ぎた刺激を与え、結果、世界は崩壊した。

 

 転生者たちを選んだものは、思い通りにならない世界にため息をひとつ。


「失敗だな。別な世界を作りあげよう」


 そう言って、姿を消した。

 崩壊した世界の残骸の合間に、未だ残る魂がひとつ。


 望んで得た数多の加護が、魂の消滅すら許さないという最後の不運は、誰にも知られることなく、ただそこにあり続ける。

 

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