第17話『ミナカに向けて』

 ガインたちの元へ戻ったあと、今後の予定を含めて話しながら準備をすることにした。


 といっても、もともとカディスの方は移動の準備などはほとんど必要ないため、ほぼほぼ話し合いなのだが。


「んで自分の治めている町が襲われた報告がきて、戻ってきてる途中で被害にあったようだ」


「しかし盾使い様が隣の領地まで来てるとはなぁ……」


「あぁ、それは俺も驚いた……」


「俺たちを送ったら会いに行くのか?」


「……いや、まだ迷っている」


「そうなのか」


「俺は事実上の死人だ。ガイン達のように事情を知っているならまだしも、生前の知人、ましてやあいつらとはどんな顔して合えばいいか分からなくてな……」


「まぁ10年も経ってりゃ忘れられることはないにせよ、死を受け入れられてるだろうしな……」


「それに復活した原因の魔術も問題だな……これが死後3日とかで聖属性魔法での復活ならともかく、完全に禁術によるアンデッドでの復活だ……アンデッドといえば完全にモンスター寄りだろ」


「そうだわなぁ……でも本当にいいのか?」


「あぁ。会う決心がついたら自分から向かってみるさ」


「そうか」


「んでさっきの話の続きなんだが、攫われたリエルとカルドを救出したことは伝えてある。その経緯で邪神教徒たちの話もしなきゃならないんだが、流石にここで立ち止まって話すには時間が惜しいから、今夜の野営のときに話すことになった」


「てことは付いて行けばいいんだな?」


「あぁ。幸いタイロン様はミナカに向かっているようだしな。それで、ガインと俺をどう説明するか……」


「俺の村は無くなってるしなぁ……」


「あぁ、すまん。ガインは正直に『襲撃された村から攫われていた』で大丈夫だろう。問題は俺だけだな」


「復活したって正直に言うわけにもいかないしな」


「無難に旅をしていて、たまたま見つけたで大丈夫か」


「そんなありきたりなのでいくのか?」


「ミナカから攫われた子どもたちを救出したっていう実績付きなら、悪く思われることはないだろう」


「攫った犯人扱いされなければな……」


「犯人ならわざわざさっきみたいに助けるようなことはしないし、そこも踏まえて信用して貰えるだろ」


「んー。まぁそうか」


 ――きっと大丈夫だろう。助けたことは事実だし、頭部へのダメージで一部記憶が無いとかでいけるか。あとはミナカまで無事にたどり着いてからだな。いい加減奴らに逃走したことがバレてそうだが、移動中に来ても普通に対処出来るだろう。出来れば子どもたちには見せたくないから送ってからのほうがいいが。


 などと考えているとグライグがこちらに軽く手を上げた後、タイロンの馬車が動き始めたのでカディス達も移動を始める。


 モンスターの死骸がなくなっていたため、タイロンの部下の誰かがカディスと同じくアイテムボックスを使えるのか、それと同じような異空間に収納できるマジックバッグを所持していたのだろうと考えながら、血の匂いを消すために掘り返したあと再度埋め固められた地面を見る。


 ――しかし、こんな街道の近くにオークが出るような地域なんだな。魔王討伐以降少しは落ち着いているはずなのにこれだもんな。前はもっと強いやつもいただろうし、そもそも数も多かったはずだ。討伐の功績で爵位を貰えたのも不思議じゃないな。


 それぞれに飲み物と軽食を渡して、それらを口にしながら夕暮れまで何事もなく移動できた。




 野営の準備が終わり、今度はガインや子どもたちも連れてタイロンの元へと足を運ぶ。


「タイロン様、今よろしいでしょうか」


「あぁ、かまわんよ。その子供たちが……」


「えぇ、救出したミナカの子供たちで、リエルとカルドと言います」


「そうか。辛い思いをさせてしまったな。怖かっただろう」


「カディスさんが助けてくれたから平気です」


「食べ物もお洋服もくれた!」


 ――リエル待って、それ女の子用の服じゃないからそんな自慢げに話さないでくれるかな……


「かっはっは。そうかそうか、それは良かったなあ。カディス殿、改めて礼を言う」


 そう言いながら子供たちの頭を優しく撫でるタイロンの目はすごく優しい目をしていた。


「それで、そっちは?」


「は、はい。10年ほど前までミナカの南にある村に住んでいたガインと申します。攫われて奴隷となっていたところ、カディス殿に助けられました」


「ミナカの南……あのモンスターの氾濫でなくなった村か? そこから攫われた?」


「はい。この子達を攫った組織にモンスターを操れる者がいるようで、モンスターに襲わせた上で戦えそうな者を攫っていったのです。ですが、もう生きているのは俺だけかと……」


「なんだと? あれは人為的なものだったというのか!? いや、そうだったとしても救援が間に合わなかったことは事実……すまなかった」


 そう言いながら、タイロンはガインに頭を下げる。その行動にガインは焦っていたが、執事や護衛の人たちは特に驚いた様子もなかった。


 ――公の場じゃないにせよ、こうも素直に平民に頭を下げられるのか。しかも周りが驚かないところを見ると、いつもこんな感じなんだろうな。もとが戦士で平民出身っていうのもあるかもしれんが、子どもたちにも優しい対応をしていたし、好感が持てることに変わりはないな。


「その組織の情報はなにかあるか?」


「邪神を祀っている教団のようで、10年以上活動しているようです。彼らを助け出した場所はここから南の森の中に2日ほど移動した場所なのですが、そこは何らかの儀式をする場所らしく、本拠点ではないようです。おかげで人数も少なく助け出すことができたのですが」


「邪神教団か……」


 ――復活の儀式に関する書物は取ってきてあるし、男爵に儀式場を調査されても俺のことがバレる心配はないな。バレたら討伐対象にされかねんし……


「それでカディス殿はどうしてそこへ?」


「元々旅をしていたようなのですが、頭部へのダメージで一部記憶が混濁しておりまして……気がついた場所がその付近で、子どもたちを鎖に繋いで連れて行くのが見えたのでつけていって助けた次第です。他にも数人の奴隷ともう1人子供もいたのですが、そちらは間に合いませんでした」


「そうか……3人だけでも助け出してくれて感謝する。カディス殿がギルドに登録しに行くというのは、その記憶喪失のせいか」


「えぇ、旅をしていたらしいっていうのは覚えているのですが、それらしいタグを持っていなかったので登録していたかすら分からないんですよね……」


「登録したギルドでなら再発行も可能やもしれんが、受注履歴などはタグに刻まれるゆえ、どちらにせよ1からになるか」


「まぁそこは仕方のないことです」


「ふむ……取引しないか?」


「取引というと?」


「ミナカまでの護衛、ミナカについた後その邪神教団がいたという拠点までの案内といざというときの戦力」


「報酬は?」


「かっはっは。すぐに報酬の話に持っていくあたり、やはり冒険者か傭兵だったのやもしれぬな。そうだな、きちんと金は払うし、ギルドへの口添えを約束しよう」


――金はアイテムボックスに入っていたから問題ないが、ギルドへの口添えはありがない。儀式場で回収し損ねたものがないかの確認にもいけるし、断る理由もないな。


「わかりました。ミナカまできちんと送ったあと、案内しましょう」


「町についたらカディスさん行っちゃうの?」


 リエルがカディスの服の裾を掴んで悲しそうな顔を向ける。


「少しの間だけな。終わったら報酬の件もあるしまたミナカに戻るさ」


「ほんと?」


「あぁ、もちろん」


「懐かれているようだな」


「リエルは孤児院の子らしいので、人数が多いほうが安心できるのかもしれませんね」


「カルド君は違うのか」


「僕は孤児院に遊びに行ってたときに攫われました」


「……子供達が気軽に遊べるような平和な町だったというのに……それは親御さんも心配しているな。早朝早めに出て少しでも早く無事を伝えねばな」


 初めは萎縮していた子供達だったが、タイロンの人の良さを理解してからは和やかな空気になり、夜もふけていった。

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勇者の指南役だった最強魔法剣士は、アンデッドして復活させられる グエン @guen

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