第16話『男爵との接触』
護衛の男性が言っていた「男爵様」という単語を聞かなかったことにしてガインのもとへと向かい、経緯を説明することにした。
「さすがカディス殿。もう終わってたか」
「あぁ、護衛もそこそこ戦えるようだし、すんなりと終わったな」
「オークまでいたようなのに、なかなかやるな……」
ガインは戦闘のあった方で転がっているモンスターの死骸を確認してそうつぶやく。
「どうやらあの馬車には男爵様が乗ってるらしいからなぁ」
「マジか、そりゃあ強いわ……それにしてもこのあたりを通る男爵様か……」
「このあたりの領主かもしれんし、ガインは知ってる人かもな」
「いやいや、名前は知ってても見たことねぇって……てか男爵様が顔出す前に戻ってきてよかったのか?」
「人によっては無礼って思われるかもしれんが、護衛にそうと言われてないから平気だろ」
「そ、そうか。それでどうするんだ?」
「まぁこの後会うことになるだろうが……その前に一応髪をどうにかするか……」
「そのままじゃだめなのか?」
「パッと見た感じだと銀髪に見えるかもしれんが、この縛っている先が黒いだろ? 念には念をでこの黒い部分を切っておこうかと」
「あぁー。まぁ黒目黒髪って言われてたから、そのほうがいいかもしれんが……」
――仮にもアンデッドだし、また髪が伸びてくるかわからんから本当は残しておきたいんだが……少しでも疑念を抱かれるくらいなら銀髪でも問題ないしな。
動くのに邪魔にならない様に後ろで縛っている箇所の少し先からは、生前の頃の黒い髪が残っていた。
「さっき見られてるが、切ったら逆に不審がられないか?」
「あっちはそれどころじゃなかっただろうし、縛れないほど短髪にするわけじゃないから平気だろう」
「そうか、んじゃ切るぞ?」
「おう。バッサリいってくれ」
そう言うとガインに背中を向けて切ってもらえるようにする。
ザッザッという音とともに縛っていたカディスの髪が切られていき、先の方に残っていた黒髪部分が切り離された。
斬られた髪を紐で束ねて、一応アイテムボックスの中にしまっておく。
――何かの触媒になるかもしれないし、何より生前のころの名残だから捨てるのはな……
「黒い部分はなくなったか?」
「あぁ。もうすっかり銀髪で黒と緑のオッドアイだな。顔立ちはどうしょうもないが、色合いの印象で気付かれることはないんじゃないか?」
「あぁ、それでいい」
「カディスさん、リエルとおなじだね!」
荷台から様子を見ていたカルドがそう言うと一緒に見ていたリエルが、肩まで伸びている自分の髪を摘んでカディスの髪と見比べる。
「だな。お揃いだ」
そういいつつリエルの頭を撫でると「えへへ、おそろい」と言いながら、少し恥ずかしそうに笑っていた。
――嫌がられていないようで良かった……
ホッとしていると、人が近づいてくる気配を感じ取った。髪を切っているのを見えないように馬車の裏にいたので、そこから移動して確認すると先程「男爵様」と言っていた護衛の人物だった。
「少しいいだろうか」
「あぁ、こっちも丁度話し終わったところだ」
「私は護衛長を任されているグライグという。先程の助太刀、感謝する」
「俺はカディス、皆無事でなによりだ。こっちはガインであと2人子どもたちもいる」
一緒に顔を出したガインの紹介と、幌の中に2人子供がいることも伝えておく。
「セオフィラス男爵様が、少しお時間をいただきたいと仰っているのだが構わないだろうか」
「セオフィラス男爵様……タイロン様ですか?」
「あぁ。乗ってるのはタイロン様だ」
名前に聞き覚えがあったのか、ガインが乗っている人物を言い当てる。
――ガインが知っているということは、ミナカに関わりのある貴族だったか。
「その男爵様がなぜこんなところに?」
「そこも含めて説明したいので、是非来ていただければと」
「了解した。子供たちもいるからガインは残して俺だけでもいいか?」
「それで大丈夫だ。ではこちらへ」
「ちょっといってくる」
「あぁ、分かった」
ガイン達に一言言って、グライグの後に付いて男爵の馬車へと向かう。
「セオフィラス男爵様、先程手助けしてくれた者をお連れしました」
グライグがドアをノックしてそう言うと、馬車の中にいた執事らしき人物がドアを開け先に降りて横に待機し、続いて大柄な男性が降りてきた。
年は50代位だが筋骨隆々で、貴族というよりは歴戦の戦士という見た目をしている。
「ワシの名はタイロン・セオフィラスという。先程は助かった。部下たちの命、いやワシの命を救ってくれた。ありがとう」
そう言うとタイロンはゴツイ右手を差し出して来たのでカディスはそれに応じて握手し、相手の力量を測る。
――見るからに武人って感じだな……感じとった限りこの人がいれば残りのブラックウルフなんて余裕だったろうが、貴族がそう安々と前線に出るわけにも行かないか。
「いえ、見過ごすこともできませんでしたので。ご無事で良かったです」
「馬車の中から少し見ていたのだが、かなりいい腕をしているな。冒険者かハンターか?」
「いえ、今のところそういったものに所属はしていないのですが、諸事情で登録しておきたいのでこの先の町でしておこうかと」
「この先というとミナカか。ワシもそこへ向かっている途中だ」
――よかった、ひとまず向かっている方向は間違っていなかったようだ。
「失礼ですが、ミナカあたりの領主様でしょうか?」
「あぁ、そうだ。ミナカとそこから南東の海岸に行ったところにある港町、更にそこから北にある領都となるセオフィラスの3つの街を収めておる」
「なるほど。それにしてもタイロン様もお強そうですね」
「かっはっは! そうだな。ワシは今納めている領内のモンスター討伐の功績で男爵になったからな! 男爵位にも関わらず3つも街を収めておるのは、元は子爵への話も出ていたが、ワシが辞退した代わりに守った付近を領土にと与えられたのだ」
「その領主様がどうしてミナカより西に?」
「隣の領都に勇者メンバーの盾使い様がいらしててな、その会合に呼ばれて参加していたのだが、先日ミナカが何者かに襲撃されたと聞いて急いで戻っているところなのだ」
――盾使いがこんな近くに来ているのか……会いたい気持ちはあるが、会っていいものかは悩むな……それにしても、子どもたちが攫われてから4日は経っている、早馬で知らせを出してなるべく早く移動したとすればこれくらいか。
「実はですね、そのミナカから攫われた子供を2人救出しているのですが、その子達から聞いた話をお伝えしましょうか?」
「なんと。あぁ、一応報告は受けているが、聞かせてくれると助かる」
そう言われたのでリエル達から聞いた襲撃の内容をタイロンに伝える。
「タイロン様」
「あぁ、報告と同じだな。その子達はミナカの子で間違いないだろう。よく助け出してくれた」
「その件でまだ相談したいことがあるのですが」
「ふむ……そちらもミナカに向かっていると言ってたな? もう一晩夜を明かすことになるだろうから、野営のときにでも構わんか? 今は少しでもミナカに向かっておきたい」
「えぇ、それで構いません。我々はついていきますので、準備が整い次第出発してください」
「お主のような護衛が付いてきてくれるのであれば、更に安心できるな。かっはっは」
そう言うとタイロンは自分の馬車に乗り込み、護衛のグライグ達も準備を始めたので、ひと声かけてから自分の馬車へ戻った。
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