第15話『街道での戦闘』

 昼食を食べた後、カディスは木々より高い位置まで浮いて道を探していた。


 おおよその方角だけを頼りに移動していたのだが、そろそろどこかへ続く道があっても不思議じゃないと思い、目を凝らして辺りを見る。


「いくら何でもそろそろ見えてもいいんだがなぁ……海が見えないだけで、結構端っこだったらそのままセントリアに付いちまいそうだ……」


 独り言をいいつつ目を凝らしていると、ようやくカディスが確認できる範囲に道らしき場所が見えたので、降りてみんなに伝えることにした。


「どうだった?」


「この先進めばようやく道に出られそうだ」


「よかった。木々ばかりで目印になるものもないから、そのまま国を出ちまうかと思ったぜ」


「それは俺も思ったわ……」


「ねぇカディスさん。さっき浮いてた魔法も僕たちつかえる?」


「あぁ、練習すればお前たちでもちゃんとつかえるぞ」


「おぉ……ちゃんと練習する!」


「そうだな。ちゃんと魔力操作を頑張っていれば魔力量も増えていくし、扱える魔法もふえるぞ」


「わ、わたしも頑張ります」


「おう、そのいきだ」


 2人の頭を優しくなでた後、アイテムボックスから剣を2本出しておく。


「剣なんてどうするんだ?」


「俺とガインの分だ。旅をしている風を装いたいから、持っておいた方がいいだろう。俺は魔法使い達が持っているような杖は持たないから、一応剣を携えておこうかとな」


「確かにそうだな……」


 出発の準備が終わった後確認できた未知の方角へ向けて馬車を走らせる。


 しばらく走っていると徐々に木々がなくなって、馬車が2台横に並んでも通れるような道に出ることができた。


「さて……問題はこの道をどっちに進むかだが……」


「ちょうど人でも通れば聞けるんだが、それを待つっていうわけにもいかないもんな」


「そういえばミナカは地図だとどのあたりなんだ?」


「南東のほうだな。海からもそう離れていない」


「そうなると右へいってみるか」


「だなぁ。この辺りは目印になるような山や巨木とかがなさ過ぎて本当にわからんからな……」


「確かにな……もっと中心部によれば国境の山とか目印になるんだがな」


「そうなのか?」


「サウラメス王都を北にまっすぐいくと、2つの山が門のようになっててな、ちょうどその山の間を抜けられるようになっているんだが、その山が高い上に特徴的な形で、結構遠くからでもわかるんだ」


「ほぉ。一度はみてみたいものだなぁ」


「あぁ。落ち着いたら旅行でもしてみるといい」


 などと話しながら街道らしき道を進んでいく。


 木々がなくなり馬車が通りやすくなっているので、昨日までと比べると快適に移動出来てはいるが、それは辺りからも見つけやすくなるということなので更に周囲に気を配って移動することにした。


 幸いこの馬車はどこかから盗ってきたものらしく、外観に特徴的な印等もないためぱっと見でばれることはなさそうだった。


 ――わざわざ目印になるようなものを付けるようなヘマはしないか。それに町を襲うような奴らだから、普通の馬車に見えても躊躇なく襲うだろうし警戒しなきゃな。


 見晴らしも良くなったのでガインと一緒に御者席に座り、正面に見える範囲を十分に警戒しつつ移動していく。


 子供たちは昼ご飯をお腹いっぱいに食べた上に今日は天気もよく、昨日までの獣道の様な悪い道じゃなくちゃんと馬車が通れるような道でガタゴト揺られて、睡魔に襲われたようで昼寝をしているようだ。


「はは、子供らはダウンしちまったか」


「だな。今日は天気もいいし、しかたない」


 御者をしていてもこぼさない様に水の入った皮の水筒をガインに渡し、カディスも自分の分を飲みながらガタゴトと揺られる。


 ――これで追手の事を警戒しなくて済むなら、のんびりとしたいい旅なんだがなぁ……さっさと尻尾をつかんでどうにかしたいものだ。


 晴れた空を見上げながらのんびりとした気持ちでそんなことを考えていると、進行方向から不穏な気配を感じ取った。


 身体強化で視力や嗅覚などを強化して念のため確認する。


「ガイン、進行方向で血の匂いがする」


「人か?」


「街道って考えると多分そうだろうな。もしかしたらハンターか冒険者が倒したモンスターの血かもしれんが」


「人の可能性があるなら急いだほうがいいな」


「一応聞いておくが戦闘は?」


「そこまで大きくない獣相手なら何とか……人であれば盗賊を返り討ちにしたことはある」


「さすが肉弾戦用に攫われただけはあるな」


「おう。ちょっと飛ばすぞ」


「あぁ、たのむ」


 そう言うと荷台の方へ入って寝ている子供らを起こし状況を伝え、布をかぶって見つからない様に指示する。


 状況を理解した子供達は受け取った布をぎゅっと握りしめて不安な表情をしていたので、優しくなでた後横にして布をかぶせた。


「カディス殿、見えたぞ」


 ガインの声で急いで御者席へ戻り前方を確認すると、しっかりとした作りの馬車の周りに4人の人影と10匹ほどの狼、その隣には横たわっている2匹のオークの姿を確認した。


「オークにブラックウルフか。街道付近には珍しいな」


「オークは倒されているようだが……」


「おそらくその血の匂いに釣れたか、疲弊したところを狙っていたんだろう。ブラックウルフは頭がいいからな」


「どちらが勝ったにせよ、疲弊したところを襲って餌にするのか……」


「先に出る。あまり見せたくない光景になるだろうから少しゆっくりきてくれ。着いた後戦闘が続いているようなら馬車を守ってくれ」


「わかった」


 そういうとカディスは身体強化を使い、馬車から飛び降りて駆け出す。


 乗っていた馬車をすぐに追い抜いて短時間で襲われている馬車の付近まで到達し、一番近くで戦っていた者のところへ向かう。


「加勢する!」


 そう叫ぶと籠手に噛みついていたブラックウルフの首に斬りかかってとどめを刺す。


「すまない! 助かった」


 助けた人物の声を背中で受けながら、次の手近な標的へを向かって横なぎに剣を振るい、2匹の首を切り裂く。


 他の3人を襲っている狼たちを除く4匹がカディスを脅威とみなして一斉に飛び掛かってくるが、カディスは最初の2匹を避けたあとまだ空中にいる2匹を瞬殺し、振り向きながらの横なぎで残りの2匹を倒す。


 他の3人を助けに行こうとしたところ、他の狼からの攻撃を気にしなくてよくなったおかげか、それぞれ自力で対処して討伐していた。


「お、終わったか?」


「あぁ、近くに気配はないな……」


「ふぅ……危なかった……」


 それぞれがそんなことを言いながら地面に座り込む。


 唯一カディスが直接助けた人物だけが立ったままカディスに近寄っていった。


「本当に助かった。あのオークたちを対処した途端襲われてな……オークだけでも結構疲弊していたから危なかった」


「ブラックウルフたちは賢いからな。無事でよかった」


「あぁ多少怪我はしているが、この襲撃で命を落とさなかったのはあなたのおかげだ」


 そう言うと男性は握手を求めてきたのでそれに応じる。


「怪我は直してやるから、集めてくれないか」


「あ、あぁ。おい! 集合だ」


 そういうと座っていた3人がバッと立ち上がってカディス達の方に寄ってくる。


「この方が加勢してくれたおかげで我々は助かった。まずは感謝を」


「ありがとうございました!」


「ちょろっと見えてましたけど、すごい剣筋でしたね……」


「皮が固くて刃が通りにくかったのに……」


 などと各々が言っている間に、噛まれたり引っ掻かれた傷の確認をする。軽装ではあるがちゃんと鎧を付けているため、大怪我というほどの傷を負った人はいなかった。


「【ヒール】」


 患部に触れるか触れないかくらいの距離に手を寄せて回復魔法を唱えると、傷口が塞がっていき元の状態に戻った。


 ――ん? 普通に発動できるがなんか手がヒリヒリするな……それ以前に回復速度が上がってるんだが……復活の影響か? その意図してない魔力量のせいでヒリヒリしてるのだろうか……


「す、すばらしい回復魔法ですね。しかも無詠唱……」


「あれだけ剣術も出来るのに、呪文のみでこの効力……」


 ――あ、これくらいの傷であればポーションとか薬草でよかったか? つい旅をしていたころの感覚で、次の戦闘に向けてすぐに癒すっていう癖が……


 すでにやってしまった以上仕方ないので、他の人にも回復魔法で治していく。


「俺の方の馬車も追いついたからちょっと話してくる」


「こちらもちょっと失礼します」


 全員を直し終わったころにガインが追い付いてきたので、状況を伝えるために離れることにした。


。通りすがりの助っ人のおかげで皆怪我もなく、無事に終わりました」


 ――はっ!? 貴族!? 一般的にみると立派な馬車だと思ってたが商家じゃなくて貴族だったか……あまり目立ちたくはないから魔法は使わず剣術だけで戦ったのに、回復魔法のせいでばれてしまったし……これなら最初から魔法で戦えばよかったなぁ……


 などと後悔しつつ自分の馬車へと足早に歩いて向かった。

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