KAC20236 幼なじみの父親と最後の桜。
久遠 れんり
見納めの桜
就職の為、この地を離れる俺は、毎年来ていたこの公園へやって来た。
ぽつりと置かれたベンチへ座り、ぼーっと桜を眺める。
最初見始めたのはいつだったか?
でも、この桜の木ももっと小さかったよな。
そんなことを考えていると、背中側でかさッという音。
そしてほっぺたに。
冷たい感覚。
後ろを見ずに、「来たのか」と呟く。
さて、隣に座ってきたのは、幼馴染のめぐみ。
予想が合っていた事に、ほっとする。
「ほい。もうすぐ行くのでしょう? 乾杯しなきゃ」
そう言って、ビールの缶を渡して来る。
「ありがと。まだ、1週間もある」
俺がプシュッと缶を開けると、彼女もチューハイの缶を開ける。
「あー。こういうのも、いいわね」
その言葉に、答える。
「職質一直線だけどな」
「また。そんなことを言う―。そんなんじゃモテないわよ」
そう言って、ポテチが口に押し込まれた。
地味に刺さって痛い。
「別にいいさ」
今ちょうど、夕日が消え。街灯がともり始める。
俺と彼女は、別に付き合っては、いない。
高校生の時に、興味本位で、幾度かエッチはした。
論争の起きそうな、異性との友人関係。
薄暗くなった公園。
そこへやって来た、もう一人の幼なじみ?
裕二の、おとうさん。
「あれ? お久しぶりです」
「うん? ああ。君たちか」
「1本どうですか?」
「いや」
そう言って、一度断ろうとしたのだろうが、手のひらが向きを変えて、受け取った。
「いただくよ」
そう言って、飲みながら桜を眺める。
「どうしてこんな所で? いい若い者が。酒盛りをしているんだい」
「就職で、7日後に。ここを離れるんです」
「そうか、おめでとう」
「ありがとうございます」
「最後の桜かな……」
「いえ。親もいるので。でも、春は分からないな」
微笑む。お父さん。
「そう言えば、『アンラッキー7』という言葉もある。気を付けてね」
そう言い残し、手を振って帰っていった。
それが、おじさんを見た。最後となった。
金融関係の仕事で、行き詰っていたようだ。
KAC20236 幼なじみの父親と最後の桜。 久遠 れんり @recmiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます